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出会い

「⋯⋯きて」


 何もない真っ白な空間に俺は浮かんでいる。

 どれほど時が過ぎたのか、わからない。

 ずっと、ただ心地よい眠りに身を任せていた。

 だが、変化のなかったこの空間に唐突に変化が訪れた。

 硬質な頭蓋の内に響くノイズ、気に留める程でもなかった声音に意識が覚醒を始めたのを感じる。


「⋯⋯おきて」


 肩にほのかな熱。揺さぶられる振動。確かに感じられる焦りを多分に含んだソプラノの声。

 「⋯⋯」

 重い瞼を徐々に開く。久方ぶりに視覚野が捉えた光景は、何の感慨も沸かない無機質で材質の不明な壁や床の構造体。縦横無尽に走る用途不明のパイプやダクト。その灯りがそこにある意味は何だ。およそ合理性の感じられない複雑に入り組み、広大な空間。

 そして⋯⋯。


「起きた!ぼぅっとしてないで貴方も逃げるのよ!」

 眼に飛び込むは端正な顔立ちを焦りに歪ませた白髪紫眼の少女。

 何の素材か判別がつかないが、革っぽい質感の動きやすそうな服装。所々に収納がついていて色々入れやすそうだ。

 ガッと腕を掴まれそのまま引き起こされる。


「何であんな所で寝てたのよ! ⋯⋯って!貴方めちゃめちゃ重いわね!起きたばっかりで悪いけど、自分で起きて走ってちょうだい!」

 有無を言わさぬ物言い。強い意志と芯を感じる声質に、俺は反抗せずに追従する事で応えた。

「⋯⋯状況は?」


 走りやすいとは言えない何かの残骸だらけの場所を並んで走る。

 長い白髪を翻しながら彼女は叫ぶ。

「見てわからない⁉︎敵性機獣に追われてるのよ!」


 言われて後ろを振り返る。

「⋯⋯ほぅ」

 盛大に埃や残骸を巻き上げ、今まで自分が寝ていた場所に何かが突っ込んできた。

 金属の擦れるような雄叫びをあげ、粉塵を吹き飛ばしながら自分たちを追ってくる機械と触手が合わさったような存在が見える。

 機械のような眼、生物的な眼や複眼などが機械の身体と触手などに無作為に散りばめられている。


「敵性機獣とはあれの事か?」

「あれ以外の何だと思うのよ!思いっきり追ってきてるでしょうが!」

 唾を飛ばしながら彼女は力説するが、自分にはあれが危険な存在とは思えない。怒り狂ってるということ以外は脅威足り得ない。少なくとも自分にとっては。理由はわからないが直感している。


 覚醒したばかりの頭で少し考えてみる。

 思うに横を並走する少女が何かしらのヘマをした結果、後ろを狂ったように追ってくる機獣を刺激してしまったのではないだろうかと。

「⋯⋯うぅん」

「? なによ、その目は」

 あまり慎重に物事を考えるようなタイプではないかもしれない。何となくそう思う。


「少し考えがある」

 俺は少女にそう言うと立ち止まり、己は敵ではないと迫り来る機獣に手を広げてみた。何故かは分からないが、何となくこうするのが正しいような気がした。

 驚愕したような雰囲気を盛大に撒き散らしながら、少女は少し先まで走ると止まり、焦ったように声をかけてきた。


「何止まってんのよ!死ぬ気⁉︎」

「任せろ。あいつは戸惑ってるだけだ。敵じゃないことを示せば分かってくれるはずだ」

 手を広げたまま、体勢を低くし怒り狂う機獣に近寄っていく。

 こちらを追ってきていた機獣も、俺のそんな態度を見て戸惑うような仕草を見せた後、威嚇するように金属音を響かせ咆哮する。


 俺は安心させるため、優しく手を前に差し出す。

「恐れるな。俺たちは敵じゃない⋯⋯ちちちっ」

「⋯⋯猫じゃないのよ⁉︎ はやくこっち来なさいよ!」

 功を焦るな。

 こういうのはゆっくりとした動作で、目を逸らさず⋯⋯。


「なぁ」

「何よ!いいからこっちに⋯⋯」

「合わせるべき眼は、一体どれだろうな?」


 俺は触手に思いっきり弾き飛ばされた。


                     ◇


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