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未来の探求者

「はぁ、はぁ!クソがぁ!」


 蒼のメッシュが入った黒髪の青年が怒号を発する。身体中は切り傷や痣に砂埃で薄汚れている。毎朝のようにセットしているオールバックの髪も乱れ、呼吸は荒い。溢れんばかりの怒りで顔には青筋が浮き上がり、目は血走っている。


「テメェらみてぇな弱小ギルドによぉ!最強のオレたちが負けるわけねぇだろうが!!」


 弱者と見下していた者に今、追い詰められているのだ。今迄培ってきた経験、鍛え上げた肉体、練度の高い魔法。それらを応用する技術に頭脳、何一つ劣っていないどころか全てにおいて上回っていたはずだ。だが、現状はどうだ。強者であったウェイド・オーキスは片脚を着く程に疲弊し、弱者であったアーサー・グラウンドは両足で跪いたウェイドを見下ろしている。彼もウェイド同様に青筋が浮かび、その怒りを露わにしていた。


「お前達はそれしか言えないのか!弱者って他人を罵って仲間すら追放する!それだけの理由で見下して仲間を傷つけてんじゃねぇ!」


 ウェイドはその言葉を聞いて怒髪天を衝く。誰よりも、何よりも強さに拘る彼にとって弱者など取るに足らない存在だ。己を証明する為に、何かを成すために力は必要だ。弱者とはそれを怠った者。ウェイドはそう認識しており、その思想と相対するアーサーには怒りしか沸いてこない。


「それこそ弱者の思考ォ!この世は弱肉強食!弱いやつらは平伏すのが道理だろうが!だからよぉ、雑魚は這いつくばれや!」


 ウェイドは叫び終わると同時に両手を併せ、膨大な魔力を込める。両手を中心に青白く光輝き、氷雪が舞い散る。


「氷絶・海波怒涛!!」


 手の平を離し、大地へと当てる。瞬間、触れた面は凍土のように分厚い氷が形成された。パキパキと音をたてながら強大な氷の津波となり正面へと押し寄せる。その数は一つに留まらずに圧倒的な物量で呑み込む。更には魔法を展開した手からは壮絶な吹雪を生み出し、氷に呑まれた者を確実に凍らせる。彼の編み出した絶招にてアーサーを討ちに出た。


「わかんねぇなら教えてやるよ。例え弱くても、手と手を取り合って、助け合って、頑張れる。そしてその絆が強者をも倒す力になるってな!!」


 生温い、稚拙な論だと一蹴するように叫ぶ。


「ほざけぇ!!!」


 氷の嵐に対抗すべく、アーサーの右腕に仲間たちの魔力が集り魔法を展開する。幾数もの魔法陣が腕を中心に展開される。


「仲間の力が、新たな魔法に変わる!!武装(アームド)大地の力(タイプアース)!!」


 陣が光り輝き、腕からは砂が、岩が、水が、溶岩が、植物がその身体に刻むように大地を創りだした。膨れ上がった幾千の岩塊にそれらを繋ぎ止める頑丈な蔦。燃え盛る溶岩が五指から吹き出し、関節部は水が揺らめいていた。その大きさはアーサーを遥かに凌いだ10メートルにも及ぶ強大な拳。


「これが絆の魔法だぁぁぁぁ!!」


 大地を創造した腕は噴火するが如く、轟き爆ぜた。熱と水が吹き上がり、天へと突き上げた。


「舐めんじゃねぇ!その程度の腕ぇ、完全に凍らせてやる!!」


 吹き荒れる氷の力を更に上げ、武装(アームド)された腕を超える高さの津波を吹雪かせる。


古代の拳(エンシャントフィスト)!!」


 だがアーサーは臆する事なく、怒りの形相で燃え盛る巌の拳を振るった。


 凄まじい轟音と共に波と拳は衝突した。ストレートに打ち込まれた拳は波を溶かし、粉砕した。異常な質量で押し寄せる氷の波をものともせずに太古の拳は進撃する。関節から吹き出した水は猛火の如く盛り、噴出し勢いを強めていく。膨大な魔力によって造られた拳は全てを砕き、今ウェイドの元へと達した。


「馬鹿な...!負けるはずがねぇ!俺は!俺たちは最強ぉぉぉぁがぁぁぁぁあ!!」


 拳を眼前にし、新たな魔法で防ごうとするも間に合うはずもなかった。


「いい加減うるせぇよ。お前たちは今負けたんだ、俺たちの絆にな」


 人が殴られたとは思えない衝撃音と共にウェイドはぶっ飛ばされ、慣性に突き動かされるままに岩盤へめり込んだ。岩盤にできた大きなクレーターの中央で彼は意識を手放し、白目を剥いて倒れ込んだ。



 ファシオニア最強のギルド、龍の雄叫び(ドラゴンロア)がまだ頭角を表したばかりのギルド虎蛇の牙(タイガーサーペント)に負け、解散した事は直ぐに広まった。何せ誰もが最強である龍の雄叫び(ドラゴンロア)が勝つと考えていたのだ、まさかまさかの大どんでん返しによって皆は驚きの声をあげていた。


 その一方で当事者である龍の雄叫び(ドラゴンロア)のメンバーはこれより潰れるギルドの中で、張り詰めた空気が漂い、無言が続いていた。

 しかし、ある一人の男が帰ってきた事でその静寂は破られた。


「なあ、オイ!オメェら負けねぇんじゃなかったの!?ギルドマスターであった俺に恥かかせやがってよ。覚悟できてるんだろうな」


 頭が少し寂しい初老の男、ドンキスは最悪の結果に怒り心頭だ。解散手続きを終えてこの場に戻り、負けたメンバー達に激昂した。だが、元々ここにいる連中はかなりの精鋭だ。伊達に最強を名乗ってはいない。誰一人として怯えずに苦虫を潰したような顔をしていた。


 ドンキスは自身が築き上げたギルドがだったの一夜で潰れることに失望し、激怒し、悲しいんでいた。当然、矛先は負けたメンバーに向かい、更に問い詰めてやろうと一歩踏み出した所に一人の騎士が割って入った。


「ドンキス殿。これ以上何を言うつもりかわかりませんがそこまでに。確かに我々は敗北しました。しかし、この決闘の結果であるギルドの解散は貴殿が言い始めた事だ。リスクを呑めないのなら行うべきではなかった」


 元々は誇りをかけた戦いであった筈なのだが、マスターであるドンキスは負ける筈がないとたかを括り、歯向かってきた虎蛇の牙(タイガーサーペント)を徹底的に追い込む目的で追加した条件だ。納得いかないのであればやるべきでなかったと諭した訳だが、怒り狂ったドンキスは聴く耳を持たなかった。


「黙れ!アニムス!貴様らが負けなければそもそも解散にならなかったと俺っがはぁ!?」


 ウェイドはその汚物以下の人間の戯言を聴いていられる程の堪え性はなかった。結果として認められない雑魚に時間を与えてやる程生ぬるい考えはしていない。


「いい加減うっせぇよ、オッサン。テメェはもうオレらの上司でもなんでもねぇ。結果は納得いかねぇがよ認めなきゃよ、話になんねぇんだわ」


 追撃で頭を踏み潰そうとするが、鞘に収められた剣に阻まれた。


「弱者は去る。それはコイツが決めた掟だろぉが。マスターって役職もねぇコイツに強者としての価値はねぇ」


「ウェイド。先程貴殿が言った通りだろう。最早ドンキス殿がマスターでなければ今いる私達は龍の雄叫び(ドラゴンロア)ですらない。故にその掟に準ずる必要性もない」


 アニムスが鋭い目つきで睨みを効かせるとウェイドは舌打ちをしながらその脚を下げた。


「つーわけだ、オッサン。二度と関わる事はねぇだろうが、せいぜい元気でな」


「っぐゔ...お、覚えてろよ...」


 地面に這いつくばったドンキスは蹴られた下腹部を抑えながら呻き声を上げるように言葉を発したが。嘲笑いながら踵を返し、その場から出て行った。それにつられるように他のメンバーも続々とギルドを後にして、ギルドマスター唯1人が蹲りながら龍の雄叫び(ドラゴンロア)は最後を迎えた。



 ギルドを出て少しした街灯の元に幾人かが、集まり話をしていた。蒼いメッシュの入った黒髪の男、ウェイド・オーキス。全身を甲冑で包んだ正体不明の女騎士、アニムス。金髪ロン毛で痺れる男、イーケンス・メルヘン。黒い帯で両目を隠した緑髪の少女、アミス・デリア。


 彼らは龍の雄叫び(ドラゴンロア)筆頭の冒険者であり、度々同じクエストを受ける中だった。しかし、ギルドが潰れた事でそれぞれ別の道に行く事になった。


「んで、テメェは敗れたのにおめおめと虎蛇の牙(タイガーサーペント)に入るってか?存外おめでたい頭してんだなアニムスさんよぉ」


 皆、どこに行くのかとアニムスは心配して其々に声をかけたのだが、アニムスが向かうのがついさっき敗れたギルドというのがウェイドは気に食わないようだ。つい先程まで和気藹々としていた空気が一変してしまった。


「我々が敗れたのであれば彼らが最強のギルドというわけだ。常に強さを求める貴殿であれば同じ道を辿ると思ったのだが...」


「あ?舐めてんのか?テメェに矜恃ってもんはねぇのかよ。負けた連中に頭下げて入れてくださいなんてふざけんじゃねぇ。別の有力なギルドに入って一泡吹かせてやるにきまってんだろ」


 怒りの沸点の低いウェイドは直ぐに怒髪天を衝く。イライラしながら腕を組んで足踏みしている様子を見かねてイーケンスが間を取り持つ。


「まあまあ、そう怒る事じゃないさ。アニムスも君を心配してるだけだ。仲間だし汲み取ってやりなよ」


 表情は伺えないがその仲裁に歓喜の頷きをしているアニムス。一方でくだらねぇと言わんばかりに明後日の方向を向くウェイド。どうにも負けた事が引きずっているようでいつもと違い、ウェイドは譲歩する気がなさそうだ。


「まあ、この先の事なんざテメェが勝手に決めるもんだ。これ以上ゴタゴタ言うつもりはねぇよ。じゃあな、もう話してても得られるもんはなさそうだ。仲良しごっこでもしてな」


「あっ」


 アニムスが手を伸ばすも届かず。背を向けたウェイドは手を振りながら夜の街へと溶け込んでいった。


「じゃーね、うぇいど」


 無言を貫いていたアミスが別れの言葉を言うと、暗闇の先から気の抜けた「おー」という言葉だけが帰ってきた。


「はぁ、相変わらずキレっぽいやつだ。良いのかいアニムス。彼を追わなくて」


「...追ったところで断られるだけです。また後日、落ち着いたら勧誘します」


 しょぼくれた様子の鎧はガックリと肩を落とし、見るからに落ち込んでいた。イーケンスはそっと寄り添って慰めの言葉を投げかける。


「そうだな、熱りが冷めたらまた誘うといい。直ぐにキレるだけでアイツもアニムスの事は嫌ってはいないさ」


「うぅ...そうします...」


「なら、クヨクヨしない!今日は俺の奢りだ、新たな門出にしみったれた空気は似合わない。酒でも飲んで楽しもうぜ!」


 立ち上がって鼓舞するイーケンスに釣られてアミスがヨロヨロと這うように歩み寄る。


「酒、奢り。私も?」


「...加減はしてくれよ?」



 仲間達と別れたウェイドはそのイラつきを治るべく、バーでカクテルを次々と喉に流し込んでいった。


(あークソ。今日はイライラしっぱなしでムカつくぜ)


 酒を仰いでこの憎ったらしい感情を酩酊させてしまおうと、ツマミも程々に酒ばかりを注文していく。


「ウェイドさん。差し出がましいかもしれませんが、本日は少々飲み過ぎでは?」


「あぁ?べちゅにいいだろぉぉな。オレァな、酒飲んでわすれてぇんだ」


「まともに喋れてすらいませんよ」


 マスターの心配をよそに「酔いたい気分なんだ」と一蹴し、ひたすらに飲んで飲んで飲みまくる。もはやカクテルの味なんてわからないだろうに、妙に洒落た物ばかり頼み続ける。


 やがて、閉店時間まで飲み続けたウェイドは強制的に店を締め出され、懐から飲食代を抜かれて外のベンチに座らされた。


「...参ったなぁ」


 散々吐いたにも関わらず、まだ飲めると豪語するウェイドの扱いにマスターは頭を悩ませていた。店の常連ではあるが、普段はこんな悪酔いをするような人間ではないのでここまで粘られるのは想定外だった。家に送ってやるにしても場所を知らないし、答える気もなさそうだ。だからと言って外に放置する訳にもいかないと溜め息を吐くと、遠方から歩み寄ってきた初老の男性が声をかけてきた。


「おやおや、どうしたのかね。変な客でも来たのかね」


「あぁ、こんばんはマルクさん。いえ、常連のお客様なのですが本日は余程酷い目にあったようで無理に酒を飲んで酔い潰れてるんですよ」


 「オリヤァ潰れへねぇぞぉ...」と弱々しく聞こえてきてマルクは思わず笑ってしまう。


「ははは。これは相当ですな、良ければ僕の方で介錯しますよ。僕のギルドも近いのでね」


「助かります...。私相手では酒を出せの一点張りで手間取っていましたので」


「困った時はお互い様ですよ」


 そう言ってウェイドに歩み寄り、肩を貸す。


「ほら、青年。立てるか?君の家まで送っていこう」


「あぁ!?」


 いきなり現れた初老の男性に怪訝な目を向けるウェイド。酔っ払っていても他者への警戒は怠らない。警戒してるだけで何ができるわけでもないが、呂律の回らない口を開く。


「おっせんはだれでぁ」


「僕かい?僕はマルク・レミアス。この近くのギルドでマスターをやっている者でね、決して怪しい身分の者ではないよ」


「ギルドマスタァだぁ??」


 アルコールに犯された脳みそをフル回転させて思考する。何度もうーんと頭を捻らせている。騒がなくなった様子を見て、これはチャンスだと半ば引っ張る形でギルドまで連れて行くことにした。


(ここまで酔っていては自分の家にも辿り着けそうにないしね)


 これ以上ないくらいお人好しであるマルクに連れられ、ギルドと言うには小さな建物に入っていく。中は簡素な作りになっており、円卓のテーブルが3つと小さな掲示板。奥に進んでクエスト受付のカウンターがあるだけだ。カウンターのすぐ横に扉があり、その先には事務室と応接室がある。応接室には寝転べる程の大きめなソファがあり、今夜はそこで寝かせてやろうと入ったのだが...。


「決めたゼェじいさん!!」


 急に耳元で大声を出したので、飛び跳ねるほどに驚いてしまう。


「...し、心臓に悪いから大声はやめようか。それで何を決めたのかな?」


「おれぁよ。このギルドに入ってやるちゅってんだわ」


「それはありがたい申し出だ。しかし、一時の感情や酔いで決めるものじゃないよ」


 酔っ払った勢いでギルドに加入しようとするウェイドに諭すが、どうやら止まる様子は一切ない。


「いいか、このおれぁが入るって決めだ!だからいれりょ!あばりゃるぞ!」


 そう言って全身に魔力を込めて、今にも爆発しそうな危険物へと早変わり。余りの無茶苦茶さに流石のマルクも言う通りにしなければ彼が犯罪行為をしてしまうと、加入の為の書類を取りに向かう。


「わかった!わかったから!魔力を抑えてくれ!書類なら持ってくるから!」



「っ!頭がいてぇ...」


 酷い頭痛と共に目覚めた。ズキンズキンと脳に痛みが走り、胃が混濁しむせ上がるような気持ち悪さのダブルパンチで体調の悪さを訴えてくる。起き上がるのも億劫だが、酒場に入って以降の記憶が無い。ちゃんと自宅に帰れているのかどうか、確認しなければならない。重たい瞼を開けるとそこには女が居た。額に紅色の鉢巻を巻いた、桃髪の少女とバッチリ目線が合う。


「貴方。起きた。マスター伝えます」


 顔つきやおぼつかない発音に途切れた接続詞。単語の多さからこの国の者ではない事が伺える。現状確認が急務だが、言葉を発すると同時に部屋から駆け出してしまった。


「ちょ、待て!!ッチ!」


 イライラが止まらずに思わず舌打ちをする。


(あの感じは西海の民か?そして何処だここは。考えたくもなかったがオレの酒癖は最悪だったみてぇだな)


 部屋を見渡し、自身の四肢を確認して安堵をする。別国の人間を見て、人攫いにでも捕まったのかと一瞬焦ったが魔封じの錠や薬を打たれた跡もない。単純に親切な人間に拾われただけだろう。


(情けねぇ。昨日はムカつき過ぎて飲み過ぎたようだな...礼ぐらい言わねぇとな)


 こめかみを抑えながら立ち上がると丁度、少女と初老の男性が部屋に入ってきた。


「やあ、気分は...余り良くなさそうだね。初めましてと名乗った方が良いかな?昨日の出来事をウェイド君が覚えてくれてる方が助かるんだけどね」


「アァ、見ての通り気分は最悪だ...ますば礼を言わせてくれ。ありがとう...んで、昨日の出来事...」


 深々と頭を下げた後、昨日の事を思い出そうと頭に詰め込まれた記憶を必死で引っ張り出そうと考え込む。そしてふと、思い出す。


『本当に辞めた方が良いと思うよ?』


『うるへぇ!!はいりゅんだぁぁ!』


『何度も確認して申し訳ないけど、本当に後悔する事になると思うよ?一度落ち着いてから考え直した方が良いんじゃないかな?』


『ダメだ!はいる!おめぇはちゃんと手続きしなさそうだ!せいしゅき加入の届出みるまでゆるしゃんからな!』


『...しょうがない。僕の根負けだ。これ以上止めて暴れられても困るからね。ほら、ここに血判を押して』


『これでオレァこのギルドでぁ!オレが入ったんだ大船にのってろぉ』


 自身がこのギルドに無理矢理入った記憶を。

 酔いに酔って他人に迷惑をかけまくった事実を。


「...全部思い出しちまったよ」


「すまないね。君を止められる程の腕があれば加入せずにすんだのだが...」


 マルクは申し訳なさそうにするが、断じて彼の責任ではない。誰がどう見ても悪酔いしたウェイドの責任だ。


「いや、アンタは悪くねぇ。本当に迷惑をかけてすまなかったな...」


 これはウェイドにとって大きな失態であった。ギルドに再加入した以上、直ぐに抜け出す事は不可能だ。基本的に加入したら7日は抜けれない。各ギルドの要項によって変わってはくるが7日が最もオーソドックスだ。次に直ぐに抜けてしまっては体裁が悪い。特にウェイドのような実力者が弱小ギルドに入り、瞬く間に離脱するなど他者を馬鹿にしているようにしか映らない。今後冒険者として生きていく上で信頼を潰すのは最悪の一手だ。


 故に、しばらくはこのギルドで働く他ない。


「...君が寝ている間に管理局に行ってね。君のランクはそのまま引き継ぐ事になった」


 ウェイドの考えを察しているようで今後の待遇や現状について語ってくれた。


「ギルド解散の為、降格などのペナルティは無しみたいだね。そしてウェイド君が所属する事になったから君向けの依頼も僕のギルドで受けれるよう手配してくれるそうだ」


 ギルド管理局。ギルドへの依頼や情報の管理等を担う事務局だ。冒険者への依頼に対して内容や報酬が適切か判断したり、その依頼がこなせるギルドへ割り振るのが主な役目だ。今回はギルド間の異動手続きがあった為、マルクは行ってきたのだ。登録した冒険者の情報も当然扱っており、今迄の功績を参照に現ギルドでの待遇を決定したのも管理局だ。


 ウェイドはギルドが定める最高位、特A級の冒険者である。これまで難関のクエストを幾度となくこなして来た故に当然の待遇ではある。


「そうか、悪いがしばらくはアンタのギルドで働かせてもらうぜ」


「僕としてはとても助かるよ。寧ろ酔った君を止められなかったことに責任を感じている。...もし抜けたいのであれば周囲のギルドには僕から便宜を図らせてもらうよ」


 右手をヒラヒラと振ってそれを否定する。


「そこまで世話になるわけにはいかねぇよ。オレは筋を倒す方なんだよ。寧ろこの一日でデカい借りを作っちまったからなぁ...恩返しも含めて働かせて貰うぜ」


 「他人に貸し作ったままじゃいられねぇ」とボソッと呟いて立ち上がる。弱者と馴れ合うことに意義を感じないが、それはそれとして筋は通す。それがウェイドの生き方だ。


「んで、なんてギルド名なんだ。所属ギルドの名前くれぇ覚えたかねぇとな」


 マルクの背後で待機していた少女がボソッと呟く。


「...未来の探究者(フューチャーシーカー)


(...聞いた事もねぇな。内装で薄々わかっちゃいたが、弱小ギルドみてぇだな)


 自身が後先考えずに悪酔いをした結果、弱小ギルドに入ってしまったウェイドはその事実に苛立つが表には出さないようにポーカーフェイスを装う。


(まあいい。環境が悪くとも力は磨ける...次こそはあの野郎ぶっ潰す為に、鍛えに鍛えまくってやるよ!)

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