賞金狩りVS堅牢堅固のスライム
定期的に飛び出してくるスライムを警戒しながら、森を歩き続けていると、明らかに整備された道に出ることが出来た。
そのまま道に沿って進むと――。
「何だこれ……」
二手に別れた道の真ん中に設置されている看板には神の御加護があらんことをと書かれている。内容からして当たり外れ系だろうか。
車厘森林を抜け、次の街にたどり着くには、必ずどちらか一方の道を選ばなければならない。
さて、どうしたものか。人間の思考的観点で行くとしたら右だが……
「まあ、適当に左で行くか……」
死に要素がなければ引き返せば良い。たったそれだけの事だ。ここで時間をかける必要もない。罠なら罠で自分の運が悪かったということにしておこう。
てなわけで、引き続きスライムの奇襲に最善の注意を払いながら進むと、円形状の広々とした空間に出た。そこに立ち入ろうとした瞬間……
《フィールドボス 【堅牢堅固のスライム】に挑戦しますか?》
《はい/いいえ》
クエストが明かされると同時に、目の前に表示された画面には、クリア報酬5000Gと推奨レベル15の文字が映しだされている。
「とりあえず、当たりってことで良いんだよな?」
片方の道がどうなっているのか気になるところではある。
一応、スピードブーストを使用して、全力で引き返せば、片方の道を確認しに行くことも可能だが――罠だった時のことを考えると悪手だ。
というのも、このゲームは敵にやられる、もしくは落下ダメージなどによる自滅で所持金から1割引かれるというペナルティが存在する。これが結構痛い。
それに、ここまで辿り着くのに30分以上はかかっている。アイツらのせいでな!
そんなわけで、クエストに挑戦する訳だが、こんなところで死にたくはない。念の為ポイントを割り振っておこう。
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【プレイヤーネーム】ルア
Lv.14
【職業】侍
【所持金】550G
HP(体力):60
MP(魔力):20
ATK(攻撃力):45→55
DEF (防御力):5
ST (スタミナ): 20
DEX(技能):30→35
AGI(俊敏性):30
CRI(会心):10
LUK (運):20→30
守護霊:無し
スキル
・ムーンスラッシュ
・スピードブースト
・ラックカウンター
・月影返し
【装備】
右手 日本刀
左手 無し
頭 猫の仮面(黒)
胴 ロングコート(赤)
腰 無し
足 ブーツ(黒)
【アクセサリー】
・なし
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スライムを狩っていたらいつの間にかレベル14になっていた。スキルも1つ増えている。どうやら、5の倍数で習得できるみたいだ。
俺は25ポイントATK(攻撃力)とLUK(運)に10ポイントずつ振り、残ったポイントはDEX(技能)に振った。
《フィールドボス【堅牢堅固のスライム】を開始しました》
数秒待つと、巨大なスライムがフィールドの真ん中から3Dプリンターのように現れる。
「でっっっか……」
それが率直な第一印象だった。見た目は手足のないスライムの巨大化バージョン。全くもって硬そうには見えない。それに、スライムはなぜかスヤスヤと眠っていた。
「こっちから仕掛けるしかない……か」
相手の動きを見てから、慎重に立ち回る作戦だったが、スライムがその気なら攻めるのみだ。
「――スピードブースト」
最初にスピードブーストを使うのには2つの理由がある。
一つ目は、スタミナが一定期間無限になるため、俊敏バフとの相乗効果で敵の攻撃を回避しやすくなること。
二つ目はスピードアップのバフにより、攻撃力が傘増しされるという点だ。
二つ目に関しては【豊潤の草原】でモンスターを狩っていた際、気がついたものである。
このゲームはスピードが乗った攻撃と通常の攻撃で威力に差が出るらしい。
つまり、スピードブーストを使用することで、攻撃力を物理的に上乗せできるということだ。これに気づいた時は、まだこんな強みが隠されていたのかと、度肝を抜かれた記憶がある。
「からの、ムーンスラッシュ!」
三日月のような弧を描き、切りつける攻撃系のスキル、ムーンスラッシュは大きな巨体に命中した。
しかし――。
「ん……?」
俺は今までに感じたことのない違和感を覚える。電柱にでも斬りかかったような感触だった。
斬りつけたスライムの胴体を見ると、ダメージを与えた時に発生する赤いエフェクトが見当たらない。俺は顔を上げてHPバーに目を移すと、たった1ミリしか削れていなかった。
「マジか……」
一度立て直すため、後方へ下がる。すると、スライムは目を覚まし、俺を上から見下していた。そして……
「ピキー!!!!」
「ああ?」
あのスライムウッドよりも、甲高い奇声が鼓膜に刺さる。その後、スライムの胴体が空色から橙色に染まって行く。
嫌な予感を察知した俺はいつでも動き出せるように構える。
そして、全身が橙色に染まりきった瞬間――。
「……と、飛んだ?」
ギリギリ動体視力で追える位の速度で巨体のスライムは宙を舞う。
その着地地点は――。
「やっぱ俺かっ!」
地面に現れたスライムの影を注視し、何とか影の外に避難する。スピードブーストを使っていなければ、間違いなく押しつぶされていただろう。
「……またか!」
一度回避した後も、巨体のスライムはどすん、どすんとスタンピング攻撃を繰り返す。
「くそっ、隙がねぇ!」
回避した後、刀で攻撃しようと試みるも、スライムは着地した瞬間、すぐに飛び上がり既に上空で待ち構えている。巨体なのにも関わらず、スライムウッドやスライムアイアンと同じで機動力が半端ない。
「避け続けるしかねぇか……」
その後もスライムのスタンピング攻撃は続き、20回ほど跳ねたところでようやく動きが止まった。そして、全身が元の色に戻った後、スライムは定位置に動いてまたしても眠りについた。
「や、ヤバすぎだろ……」
膝に手をつき、荒れた呼吸を整えつつ俺は呟いた。スピードブーストが切れたとき、一時期はどうなるかと思ったが、気合と根性で何とか交わし続けた。
一連の流れでわかったことは、スライムに攻撃はほとんど通らないということ、そして、無限スタンピング攻撃の二点だけ。攻略の糸口は特に見えなかった。
「もしかして、スタンプ中に下から攻撃すれば……いや、絶対即死するよな……」
回避しながらそんなことも考えてはいたが、死ぬリスクしかない。他に作戦が思いつかなかった時用の切り札として残しておこう。
「んー」
俺は、四十秒ほど頭をフル回転させた結果、とある作戦を思いついた。
題して「寝てる間にグサグサ作戦」である。ダサいのは許して欲しい。それしか思いつかなかったんだ。
スライムは俺の声に反応を示さなかった。つまり、起こしてしまった原因は、スキルを使った高火力の衝撃である。
ということは、スキルを使わなければ、起こさずして攻撃し放題なのでは?という考え方から生まれたのがこの作戦である。
俺は、そろりそろりと忍び足で巨体に近づく。その間、スライムはいびきを立てながらぐっすりと寝ていた。
そして、巨体の目の前までたどり着くと、俺は刀を逆手に持ち、軽くグサッと刺した。
「……!」
硬くないのに加えて、ダメージを表す赤いエフェクトが出ている。HPも見違えるほど削れていた。
(マジでこれが正攻法なのかよ……)
本当にこれでいいのかと不安ではあったが、刺すこと計6回。堅牢堅固のスライムは、眠ったままポリゴンになり、姿を消した。
《フィールドボス【堅牢堅固のスライム】をクリアしました》
《ドロップアイテム:スライムジェル》
《報酬:5000G》
余談ですが、もう一方の道もフィールドボスに繋がっています。そのボスは「堅牢堅固のスライム」に使用されているシステムを反転したバージョンです。
スキルを使って殴るだけで超簡単に倒せるので、主人公のプレイスタイル的には右の道が当たりだったということになります。




