スライム……じゃない?
――車厘森林。
スライムの生息地であり、スライム以外の敵は出現しないと表示したマップの説明欄に書かれている。
「スライムねぇ……どんな見た目なんだろうなー」
ありとあらゆる媒体で当たり前のように登場し、庶民に愛されているスライムだが、その形状や色は媒体によって絶妙に違ったりする。
しかしながら、モーションは大体一緒だ。ピチピチと跳ねながら体当たりで攻撃してくるイメージがある。
ゲームとしての役割は、序盤エリアの雑魚モンスターとして扱われていることが多いが、果たしてバウクロはどうだろうか。
様々な妄想が膨らむ中、木々をかき分け、今か今かとエンカウントを待ちながら進み続けると……
「いた……」
俺は目の前を歩いているスライム?を発見し、一時的に木の影に隠れる。見た目はそれなのだが――俺の想像していたものと絶妙に違うな……
その名は【スライムウッド】。透明感のある丸いスライムの胴体に、細々とした四本の木の棒が手足のように生えている。体長は……30センチほどだろうか。
例えるなら、小学生が図工の授業で作ったやつみたいな……そんな見た目だ。
色々気になる点はあるが、俺は置いといて……この絶好のチャンスを逃す訳にはいかない。
背後はがら空きだし、レベルも13とそこまで高くない。ATK(攻撃力)とAGI(俊敏性)を活かした速攻で、俺の経験値となってもらおうじゃないか。
「勝負だスライム!」
俺は右足で地面を思いっきり蹴り上げ、肉薄する。そして、刀を水平に構え、スライムウッドのウッドじゃない部分目掛けて、横一閃に振るった。
「ピキッ!」
気配を察したスライムウッドは鳴き声を発した瞬間、俺の視界から姿を消した。
その瞬間――。
「痛っ!」
突如として、顔の前に現れたスライムウッドの右ストレートを貰った俺はその場でよろける。
スライムウッドはノールックで俺の一閃をジャンプで交わした後、体の向きを反転させ、自前の木の棒で俺の頬をぶん殴ったのだ。
「コイツ……マジか」
俺はポリゴンで赤くなった頬を押えながら、スライムウッドに向けて呟く。あまりにも、アクロバティックな動きに動揺を隠せないでいた。
一旦、回復しようと思ったが、そんな時間を用意してくれる訳もなく、スライムウッドは直ぐに追い討ちを仕掛けてくる。
(なるほど、そういう事か……)
俺は、半身となっていとも簡単に交わす。対して、スライムウッドは見事な着地を披露した後、再攻撃に転ずる。
「お前の動きが読めればこっちのもんなんだよ!」
一度かわした事で、距離感とタイミングを掴んだ俺は、飛び込んでくるスライムの胴体に切っ先を向け、斜めに切り下ろす。
すると、綺麗に分断されたスライムウッドは、赤いエフェクトと共に消滅した。一撃だったようだ。
「さて、ドロップアイテムは……っと」
地面に落ちていたアイテムを拾い上げると、ウィンドウが自動的に開いた。
・木の棒
木材を棒に加工した物。
「………………」
そのくらい見りゃ分かるわ!とツッコミたくなったのを抑え、無言でウィンドウを閉じる。今のは記憶から消して、先へ進もうと足を踏み出そうとしたその時だった。
「ピキッ!」
「ん?」
聞き覚えのある鳴き声の方向へ振り向くと、俺の瞳に映ったのは、あのスライムウッド――ではなくその亜種らしきモンスターだった。
「ぬぉっ!?」
何とか反応してサイドに転がり回避したもののその銀色の拳は俺の右腕を掠めた。
そいつの名は【スライムアイアン】。スライムウッドの手や足の部分が鉄の延べ棒に変化しただけのモンスターである。つまり、スライムウッドの上位互換だ。
「今度は鉄かよっ!」
「ピキッッッ!」
俺に向かってくるスライムアイアンと目が合う。ひじきを貼っつけたようなスライムウッドの目とは違い殺意を感じる空虚な目であった。
「その攻撃にはもう慣れてんだよ……!」
ギリギリまで近づき、跳躍力のあるジャンプからの顔面パンチという決められたモーションには弱点がある。
それはジャンプのタイミングだ。鳥系の敵なら空中で制御ができるため、交わすことが出来るが、スライムは不可能である。つまり、当たりさえすれば確実にダメージを稼ぐことが出来るのだ。
俺は刀の先をスライムアイアンに向け、飛んでくるタイミングで槍のように突き刺した。タイミングは完璧だったのだが……
「なっ……」
スライムアイアンは、俺の攻撃を銀の拳で防いだのだ。
この瞬間、スライムウッドとは明らかに動きが違うことを悟った。
コイツはスライムウッドや狼のような固定モーションではなく、プレイヤーの行動に合わせて、変動するタイプだったのだ。
正直舐めていた。ここまでスキルを温存していたのはそういうことだ。
「ピキッ!」
スライムアイアンは一度着地すると同士に、片足で踏み切り、再び殴りモーションに入る。
残りのHPは三分の一程度。つまり、次の攻撃を喰らえば即死だ。
血炎島のようにスキルを使って一旦逃げて回復するという選択肢もある。けど、今回は勝てる敵だ。ここで逃げたら負けを認めているようなものじゃないか。
――だから、絶対ここで仕留める!
「ラックカウンター!」
そう宣言した瞬間、俺の周りに赤いエフェクトが発生した。
そして、刀の刃先を寄せ、スライムアイアンの振りかざす拳に焦点を合わせる。
スライムアイアンを真っ二つにするような動きではなく、スキルを発動させるための動きだ。
「さぁ、腕相撲と行こうじゃねぇか!」
刀と鉄の拳が衝突した瞬間、俺の刀に赤いエフェクトが乗り移り、火花が散る。そして、刀が自動的に前へ押し出されていく。
――その瞬間、俺は勝ちを確信した。
スライムアイアンの胴体は鉄の拳ごと粉砕し、ポリゴンとなって消え去った。ドロップアイテムは落とさなかった。
「やべぇ、死ぬ!」
HPが俺は急いで回復薬(小)を何個か飲み干し、全回復したのだった。
・スライムウッド
必ず顔面を狙う特性を持つ。
俊敏性に優れており、プレイヤー側から攻撃を仕掛けるとほぼ当たらない。
攻撃モーションは、ジャンプして殴ってくるだけなので、タイミングを合わせさえすれば、簡単に倒すことが出来る。
・スライムアイアン
スライムウッドの上位互換。
レアエネミー
・ラックカウンター
LUK(運)の数値に応じて発動率が上がる。
発動すると、敵の攻撃力の二倍分をカウンターとして返すことが出来る。




