ギルド対抗賞金トーナメント 其ノ仇
「なんでアイツが……」
ウキワが勝利をもぎ取り、ホッとしていたその矢先、見ていた画面にフウリの姿が映った事で、我に返った俺はソファーからスっと立ち上がる。
「何? あの人と友達なの?」
ソファーで寝っ転がりながら呑気に観戦していたヒナウェーブは、上体を起こして、はてなマークを浮かべた。
「友達っつうか……俺がこのゲームを始めた時、ちょっと試してみたかった事があってさ。それで話しかけたのが、あのフウリって奴だったんだよ」
「なるほど。ちなみに、試して見たかったことって?」
「掲示板にキユウが吊り橋で妨害してるっていう情報を目にしたから、それで当たり判定を試した。まあ、誰かさんのせいで、意味がなくなったけどな」
「あー、なんかごめんね?」
ヒナウェーブはそう言って愛想笑いを送る。どうやら、俺のちょっとしたジョークを理解して貰えたようだ。
それはそうとて、疑問なのは、なぜアイツがルシラスのギルドに所属しているのかということである。
以前、ルシラスは、俺たちをギルドに入れようとウキワに対戦を申し込んだ。
あの時は、俺とヒナウェーブが初めて賞金を獲得したプレイヤーとして名を馳せていた訳だが、フウリを入れたのはそれが関係している可能性が高い。
ただ単に強いプレイヤーをギルドに加えたかっただけではなく、何か裏がありそうな気がしている。
俺はフウリと本気でやり合った。小柄な身体を活かした俊敏性と、洗練された剣術は今でも脳裏に焼き付いている。
だが思い返せば、武器を交えた時、変な感触があった。まるで、もう一人の自分と戦っていたような気がしたのだ。
俺がMOBを狩っていた際、動きを研究してトレースしたのだとしたら――いや、それは有り得ない。
フウリに声を掛けた時、剣の扱いすら分かって無さそうだったから、初心者だったはずのフウリがいきなり、俺と対等に戦えるはずがない。
だとすれば、まさか……
「多分、フウリはプレイヤーじゃない。アイツの中身はAIだ」
「え、どういうこと?」
「確証は無いけど、そんな予感がする」
ヒナウェーブは顔を歪ませて、分かりやすく困惑していたが、その姿が俺の視界に移った途端、彼女はモニター前まで近づき、目を凝らす。
「でもさ、あのフウリって人がAIだとしたらプレイヤーの頭上にオレンジ色のアイコンが付くはずじゃない?」
「それは、本来ならな」
「じゃあ、何かの手違いってプレイヤー扱いになってるってこと?」
「その可能性もあるし、賞金を獲得出来る高難易度クエストのフラグとか、単に運営の遊び心ってだけかもしれない。正直、何が起きたっておかしくはないよ」
「そっか……」
「まあ、ウキワがどう動くか見物だな」
もし、ウキワの目当てがフウリだとしたら、何かアクションを起こすはず。
――問題はその後だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「君、AIでしょ」
「ええと、どういう事ですか? 僕は人間ですよ?」
「違う、君は人間じゃない。作られた存在なの。分かる?」
「さっきから何を言っているのか……」
フウリは自分が人間だと錯覚している。故に、質問を続けても無駄だろうと、察したウキワはやむを得ず詠唱を始める。
「システムコマンド『SI2037』起動」
すると、フウリは魂が抜けたように動きがピタリと止まる。ウキワのウィンドウには大量の文字列がバグのように流れ込んで来ていた。
「これは……」
とてつもないエラーメッセージの量にウキワは思わず仰け反る。
やはり、何者かがフウリを利用しようとしているに違いない。フウリが自分を人間だと思っているのも、それと関係があるはずだ。
「あれ、僕は……」
ウキワがウィンドウを消した瞬間、我に返ったフウリは不思議そうに辺りを見回す。
肝心のウキワはフウリから遠ざかり、何事も無かったように、対戦する準備を整え始めていた。
『それでは両者の準備が整ったとの事で、ギルド対抗賞金トーナメント決勝戦二戦目の開始です!』
実況により、歓声が舞い上がるとウキワは二本の漆黒に染まった鎌を構える。
その瞬間、右足を踏み切って加速した。
目の前を見れば、フウリも同様に突っ込んできていた。全く同じモーションだが、スピードはフウリの方が早い。
彼女の決意は固まっていた。ここであのスキルを絶対に使う……と。
その名を『ファントムスキル』と言う。
ファントムスキルは、普通のスキルとは訳が違う。威力、効果共に破格の性能を持っているが、幾つか欠点がある。
・ファントムスキルを一度使用すると、現実時間の30分間、他のスキルを使うことが出来なくなる。
・ファントムスキルを使用すると、使用したプレイヤーの全HPが消し飛び、必ず死ぬ。(復活効果をもつアイテムやスキルの効果は発動しない)
・ファントムスキルは一度使用すると、消滅する。
つまり、このファントムスキルは一撃必殺の最後の切札なのだ。
以前、ウキワはファントムスキルをルシラスから渡された。何も指示はされていない。ただ持っておけと言われたのだ。
ウキワには、ルシラスの意図が読めていた。フウリを倒す為だけに、渡されたのだとその時点で分かった。
だから、スキルや武器で足掻こうとはしない。託された使命を全うために、速攻で決着をつけると決めた。
フウリの剣とウキワの鎌が交差する直前、ウキワは右手の鎌を投げ捨て、拳を強く握る。
「リベレーション・パニッシャー!」
ウキワが全身全霊で叫んだその瞬間、右手が紫色に染まり、フウリの剣に直撃する。
すると、直撃した拳はその場で大爆発を起こし、闘技場のフィールドを紫色の光で包み込んだのだった。




