時には運も味方する
ここ数日、俺はバウンティクロニクルに引きこもり、街でGを稼ぎまくった。
扉に入ってクエストをクリアし、ギルドバンクにG預けた後、扉を探してまたクエストをクリアするというサイクルをひたすら繰り返していたのだ。
俺自身、周回は好きな方である。それに、賞金という存在によって、モチベーションは無限だった。その為、楽しく周回することが出来たのだが……一つだけ文句を言わせて欲しい。
――御霊、お前だけは絶対に許さん。
出くわせば、即死して所持金消えるとかどんな悪徳商法だよ全く。
ギルドバンクに預ける手間は、30秒もかからない。それは一歩譲って許すとして、一番タチが悪いのは、最初以来、御霊に出くわさなかったことだ。
――ふざけんな!
――誰のために、ケアしてたと思ってんだコラ!
――ツラ見せろツラを!
とまあ、文句はこのくらいにして、俺は今ギルドルームにて、ぶどうジュースをストローで吸いながら、のんびり寛いでいる。
ランキングの集計が終わったということで、もうすぐバウンティクロニクルのゲーム内で正式に発表されるらしい。その為、ギルドルームに集まっているのだ。
「何か、緊張するなぁ……」
隣に座っていたヒナウェーブは、紅茶を飲みながら呟いた。
「確かにな。この緊張感はどこから来てるのやら」
その瞬間、俺はチラッと奥の方で孤立しているウキワを見る。例の鋭い殺気を感じたからだ。生憎、持ち物整理をしていたみたいで、俺はホッと一息をつく。
俺が戦犯をして、20万Gをパーにした事はまだバレていないようだ。
「そういえば、ウキちゃんの言ってた御霊って、何なの? うちは、一回も遭遇しなかったからよくわからないんだよね」
と、ヒナウェーブがいきなり御霊の話しをぶっ込んでくる。
「俺もなんだよなー。結構周回して、出くわさなかったってことは多分、相当低確率だと思うけど」
俺は、御霊に遭遇した事を平然と隠す。あの戦犯を隠蔽するためだ。
「ウキちゃんは遭遇したの?」
「いや、私も今回は遭遇してない」
ウキワは、素っ気ない態度でウィンドウとにらめっこしながら言った。つまり、御霊と遭遇したのは俺だけという事になる。
出現する条件は一体何なのだろうか。ウキワが「今回は」と言っていたから、少なくとも一回以上は遭遇していることは分かる。となるとやはり、出現率が低く設定されているとしか思えない。
結局、御霊に関しては、よく分からないままだ。
「ふぁー、あれここどこだじぇ?」
軽く伸びをして、俺の体から出てきたのはラルメロだった。相変わらず呑気に寝ていたようだ。そして、いつの間にか語尾も復活していた。
「ギルドルームだよ。寝ぼけてんのか?」
「寝ぼけてないよ。ルアが御霊に……」
ラルメロが何かを言いかけた瞬間、ギルドルームの巨大モニターに一人の女性が映った。
『皆さーん! バウンティクロニクル楽しんでますかー?』
前に、ニュースの進行を務めていた美坂晴子だ。
いやぁ、マジで助かった。ラルメロがバラしていたら今頃どうなっていたことやら。想像すらしたくもない。
『では、早速ですが本題に入りましょう。先日まで開催されていた、ギルド対抗賞金トーナメントに出場できる、一位から四位のギルドを発表しまーす!』
この時、俺の心臓の鼓動が一気に加速した。もし、僅差で出れなかったら、完全に俺のせいなのは自分で理解しているからである。
『見事一位に輝いたのは、ギルドリーダー「ルシラス」選手が率いる「断光」です!』
「おいおいまじかよ……」
「ルシラスってウキちゃんと戦ったあの人だよね?」
「ああ、同じプレイヤーネームは付けられないから、間違いないな」
ルシラスは、確かに強いとは思う。しかし、ウキワに負けたことを加味すると、意外だった。まあ、ギルドは一人だけで何とかなるものじゃないし、なんとも言い難いが、とにかく盛大な拍手を送りたい。
その後、二位の『ファンキーナイトベアー』というギルドが発表された。誰も知らないため、特に言うこともない。
『続いて三位は、ギルドリーダー「ガエン」選手が率いる「鬼怒哀楽」です!』
「は、マジ?」
「そういえば、虹色の人が扉に入っていくのをよく見かけてたような……」
「いや、それはそうなんだけどさ。なんで、害悪ギルドが公式大会に出場できんだよ! どう考えてもおかしいだろうが!」
俺は思わず立ち上がって、文句を言いふらす。
「そこの黒猫は、黙って見ることも出来ない訳?」
すると、これまで腕を組んで見据えていただけのウキワがようやく口を挟む。
「どうしたビジネス二重人格野郎。言いたいことでもあるなら、はっきり言ってみろよ」
俺が反論すると、ウキワはすんなり黙り込んだ。とにかく黙って見とけと――いつもの目つきで催促した。相変わらず、肝が座っている。
文句を言ったって、しょうがないのは理解している。しかしながら、今の俺はとてつもなく焦っていたのだ。それに、あの害悪ギルドに負けたという事実がどうしても許せなかった。
――出場できる枠は残り一枠。
ここで、出場権を獲得すれば、まだ挽回できる。俺は、心の中で祈りを捧げた。
『四位は……』
その時、なんとも形容しがたい緊張感がギルドルームに走る。
ウキワは画面をじっと見つめ、ヒナウェーブは手を組み、俺は何も無い机を見ていた。
その結果――。
『ギルドリーダー「ウキワ」選手率いる月光輪です!』
「うおおおおおおおおおおおお!」
「やったぁ!」
俺とヒナウェーブは、おおはしゃぎで飛び回る。ウキワは、安心したかのようにニヤリと微笑んだ。神は、俺たちの味方をしてくれたのだ。
こうして、俺たちのギルド「月光輪」は、4位でギルド対抗賞金トーナメントに出場することが出来たのだった。




