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バウンティ・クロニクル~賞金狩りのVRMMO~  作者: アトラ


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油断大敵

 ガエンという男は全てにおいて特殊だ。ファッションセンス然り戦い方然り、独特な何かを持っている。


 ――でもな。


 人力自動車はどう考えてもおかしいだろ……っ!


「さぁ、避けれるかな?」


 ガエンは人力自動車モードで一定の距離まで近づくと、ローラースケートモードに戻し、前輪の代わりにしていた武器をフリスビーのように投げつける。


 風を斬る音と回転速度から察するに、少しでも掠っただけで致命傷になりそうだ。


(チャクラムか……)


 中学か高校か忘れたが、歴史の授業で習った時ことを思い出す。だとしたら職業は何だ。インド人か?


 いや、今それを精査するのは辞めておこう。無駄なことは考えるな。


 ――飛び道具武器。


 この距離なら不手際がない限り、簡単に避けれる。まあ、この際検証してみるとするか。


 まず、真っ先に俺の元へ辿り着いたチャクラムAを半身になって交わす。


 俺の狙いは――チャクラムBだ。


「――蒼月一閃!」


 足に力をグッと込めて刀を腹側に寄せ、素早く振り下ろす。タイミングは完璧。


   だが……


「ぐっ……なんだこれっ……!」


 重い。前に押し出せない。簡単にぶった斬れるだろうと思ったら、凄まじい回転速度と硬度で上回ってくる。


 ただ投げるだけじゃ、ここまで回転しないはずだ。あの時、ウィンドウで操作したスキルの補正が入っているのだろう。


 違和感を感じ、反射で繰り出したスキルではあったが、ともかく併せて正解だったようだ。


「僕のドーナツ……戻ってきなさい」


「だろうなぁ……!」


 もちろんそのくらい想定済みだ。こういう武器はブーメラン系という暗黙の了解というか、そんな鉄則がある。


 そうと決まれば、ここは一旦立て直す事にしよう。


「お前は元の家に帰れ」


 俺はチャクラムBに対しての攻撃を緩め、受け流すと、背後から音を立てて戻ってきたチャクラムAをローリングで回避する。チャクラムBは俺の軌道から外れ、飼い主(ガエン)の元へ帰って行った。


 ホーミング式じゃないのは理解した。それが分かったところで、特に意味はない。果敢に詰め寄っても、ローラースケートモードで一定の距離を保ち続けているからである。


「くそっ……全然近づけねぇ……」


 正直言ってズルいし、不正だし、卑怯だ。相手は電動ローラースケーター&電動自動車なのに対して、こっちは生身の人間。機械に勝てる筈が無い。


 ガエンは、自分から勝負を仕掛けてきた割には、なかなかに堅実――ではなく害悪だった。


 遠距離からチクチクする一定のプレイヤーから嫌われるタイプのアレだ。


 もしかしたら、プレイスタイルと職業的に、近接戦闘では勝つ算段が見当たらないから、距離を取って牽制しているのではないだろうか。


 もしそうだとすれば、接近戦に持ち込むことが出来れば、俺の勝利は手堅い。しかし、問題はどうやって俺の射程圏内におびき寄せるかである。


 このままでは、不毛オブ不毛。ただの体力勝負になってしまう。こんな変なやつと戦い続けるなんて御免だ。


「お前、はよこっち来いや!」


 当たるはずもないチャクラムを交わしつつ、俺は叫ぶ。すると、ガエンは人を嘲笑うかのような苦笑いを浮かべる。


 それを見た俺は、あることに気づく。


 ――追いかける必要なんて無くね?


 俺は肝心なことを忘れていた。今やるべき事はウキワとヒナウェーブの元へゲートを届けることだろうが。


 相手がその気なら、こっちも逃げればいい。何せ転移門(ゲート)主導権は俺にあるのだから。


「じゃあなレインボー野郎!」


 俺は、急ブレーキを掛けると逆方向へ疾走する。だが、作戦を遂行したはいいものの、いつの間にか方角が分からなくなっていた。


「どっち方向だ……」


 このエリアはマップが機能しない。どうする。頭を使え……。


 俺は走りながら頭をフル回転させ、考えに考えた結果、ウキワとヒナウェーブのいる方角を特定することが出来た。太陽の位置で方角を見定めたのだ。


 我ながら天才なのは確かだが、アイツらの元へたどり着くには時間がかかりすぎる。


 それにこっからじゃ、ヒナウェーブの銃声による合図なんて届くわけが無い。


 取り敢えず、今は逃げることに専念しよう。


「くそっ……燃料切れか」


 スピードブーストの効果が切れると、一気に足取りが重くなる。肩身に重力がドンとのしかかったような感じだ。


「やっぱり追いかけてきてんな」


 凄まじいスピードで後をつけているのが音を聞けばよく分かる。ちなみに、もう追いつかれた。ここは戦うしか――ない。


「やっと勝負する気になったか!」


 俺は体を反転させ、砂を蹴り上げる。ガエンと再度対峙する形となったその瞬間、目の前に待っていたのは巨大化したチャクラムであった。


 例えるならカスタネットからシンバルになったようなものだ。次いでにと言ってはなんだが、リーチも負けている。


「これを待ってたのさ……僕の巨大ドーナツを喰らいなさい!」


 スピードブーストが切れたこと、そして目の前で投擲された事により、回避する余裕と受け流す猶予が存在しなかった。


「――狂刃乱舞ッ!」


 油断した。完全に油断した。


 ガエンの今までの行動は、害悪ではない。コイツの戦闘スタイルは()()だったのだ。


 逃げ続けてたのはスピードブーストの効果を切らすため。接近戦は出来ないと、思い込ませるように仕組んだというわけだ。


「――無明剣舞ッ!」


  スキルで強化したであろう、チャクラムの赤いエフェクトが目に焼き付けられる。胸あたりに投げ込まれたチャクラムを自身のスキルによる連撃で何とか耐えてはいるが、徐々に押されていく。


 連撃のバフが入って尚これかよ……。


「よっと……気分はどうだい?」


 俺の真横にしゃがみこみ、下から俺を見上げるガエン。その刹那――俺は帽子についていたエンブレムに気がつく。


「お前、鬼怒哀楽のメンバーだったのか……っ!」


 俺は、必死に刀を振り続けながら言う。


 鬼が兜を被っているエンブレムには見覚えがあった。橋で構えていたキユウの胸元についていたものと同じ物である。


「ちなみに、僕が番長……ギルドリーダーってわけさ」


 ガエンは爽やかな囁き風なボイスで、言った。


 その声が耳に入った瞬間、一気に力が抜けていくような感覚が全身に伝わる。


「俺の……負けだ」


 俺は守護霊を使わなかった。というより、守護霊を使っていても負けていたと言った方が正しいのかもしれない。


 永遠とスピードブーストを供給していたせいで、大幅にMPを消費する守護霊のスキルを発動できないからである。


 ――つまり、それは俺の完敗を意味するのだ。


「ハハハ、楽しかったよルアくんっ!」


 ガエンは、新たなチャクラムをインベントリから取り出すと、チャクラムAの一閃によって、俺の首が吹っ飛ばされる。それと、同時にチャクラムAによって体も半分に分断された。


(ああ。ボコボコにされるだろうな……アイツに)


 綺麗な青空の走馬灯が流れ、終わったと心の中で項垂れる。


 ――その時。


 聞き覚えのある鋭い声が俺の耳の中に入ってきた。


「残念……私たちの勝ち」


 それは、ここに居るはずのない()()()の声であった。

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