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バウンティ・クロニクル~賞金狩りのVRMMO~  作者: アトラ


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砂塵の魔道士

 無事ウキワの複製体に勝利を収めた俺は赤土を踏みしめ、一方通行の道を進み続ける。


「うーん……」


 心の底から湧いてくるやるせない気持ちが自分を襲う。結局、守護霊頼りで個人の力じゃ何も出来なかったのが自分の中で気に触ったのだろう。レベルやスキルの差は言い訳にしたくない。実質負けだ。


 それに加えて景色が変わらないのがすッッッッッッごい苦痛でしかない。そう感じるのは、きっとこのクエストに賞金が懸かっていないからだろう。


 クエストをクリアする事が無意味――までとは行かないが、心理的に億劫にならざるを得ない。


 加えてラルメロに関しては、いくら俺が話しかけても「ぬ゛」しか言わなくなったし、おちょくろうにもおちょくれない。


「はぁ……」


 抱えた思いを吐き出すかのように、大きなため息を吐きつつ、脳死で前進コマンドを入力し続ける。


 その間に現れるゴーレムの首を切り、その頭で全身をかち割り続けること二十分。ようやく目の前に白い光が見えた。


「おっ……きったあぁぁぁぁぁ!」


 まるで、目の前に1億円でも降ってきたかのような声量で叫ぶと同時に駆け出す。蓄積された疲労ゲージが足を踏み出すたびに回復していくの実感しつつ、仮面の奥から笑みが零れる。あとはゴールテープを切るだけだ!


 ついに、ここまで来たんだと幾度となく紡いできた思いを足取りに込める。


 そして、光を通り抜けた瞬間……





「あっ」


 さっきの笑みはどこへ言ったのやら、状況を直ぐに察した。俺の目に映ったのは、砂岩の台座に乗り、砂の杖を持った人間のような造形のモンスターとそれを見上げていたウキワだったのだ。


 ウキワは音で気づいたのか俺を一瞥すると「手伝え」と言わんばかりの目つきで威嚇する。何が言いたいのか大体察しがついた。


「もう……わかったよ」


 何故かは分からないが勝負に勝って、試合に負けたような気持ちを心に抱きつつ、特に何も考えずに突撃する。


 名は『砂塵の魔道士』。レベルは65。全身は砂で構成されており、ローブのようなものを羽織っている。身長は、140センチ程だろうか。()()()()にしか見えないそれは、台座の上で目を瞑り、直立不動で待機している。


「ムーンスラッシュ」


 一切躊躇せず、スライドさせるようにして一文字に切り裂く。しかし、感触が全くもってなかった。砂に対して刀が貫通しただけだったのだ。それに、毒も付与されていない。なるほど、これが()の強みか……


 つまり、ウキワが戦わず砂塵の魔道士を凝視していたのは、攻撃が通らないのを知っていたからと言うわけだ。じゃあなんで睨んだんだよという話だが、深く考えるほどの気力も無かった。


「なあ、コイツどうやって倒すんだよ」


「知るわけないでしょ?」


「何だよ、他人事かよ」


「はい? 事実を述べただけで何が悪いわけ?」


 やっぱ本物は根本的に何かが違う。AIが人間に勝てない理由が少しわかった気がする。


 気を取り直してこっからどうするか。再度『砂塵の魔道士』に切り替えると、あることに気がつく。


「あれ、コイツ……HPゲージ無くね?」


「知ってる。だから倒せないって言ってる」


「ふむ、でウェブの奴は?」


「今来たみたいだよ」


 ウキワは腕を組むと、ヒナウェーブが歩いてくる方向に焦点を合わせる。


「もしかして、待たせた?」


「いや、全然。それより……」


 俺が、例の複製体について語ろうとしたところで、地面に異変が起こる。


 ウキワはその意味を理解したのか、鎌を回転させ戦闘モードに移行した。


 砂で作られた人間の子供らしき造形。その右手には杖を携えており、先端には土星を縮小したようなものが付いている。


 地に積もった砂の粒が細かく揺れると、それに呼応するかの如く、砂で出来た杖は鮮やかな輝きを放つ。砂の粒子は、振動により中心に集められていき、次第に砂塵の魔道士を包み込むようにして竜巻を発生させた。


 風圧は、扇風機の上位互換程度。システムによる1ミリバリアのおかげで、舞った砂が目に入らないのは実に良心的だ。という事は、花粉症を持ち合わせている人も未然に防げるのだろうか。


 まあそれはともかく、今から何が起ころうとしているのか全く想像がつかない。いきなり化物に変身した後、暴走したりしてな……ははは。


 そんなことを考えていると、竜巻が前触れも無くスっと消える。その時、俺の目に映ったのは衝撃的な姿だった。


「なんか……きもくね……」


 一つ一つ整理しよう。まず猫のお面を付けている。色は若干違えど、俺の付けているものと同じやつだ。次いでに、ヒナウェーブのヘッドフォンも耳にかけている。そして、手に持っているのはウキワの武器である二つの鎌。


 すなわち、俺たち三人の合成体ということがひと目で分かる。問題は、合成体の完成度だ。


 ――なんで俺の刀とヒナウェーブの銃が頭に突き刺さってんだよ!


 ――普通、背中とか腰に装備するだろうが!


 ――服もなんか……チーター見たいな柄になってるしな!


「あははははははは! ちょっと待って……し、死ぬぅ……!」


 恐怖からの「死ぬぅ」ではなく、別の意味での「死ぬぅ」を頂戴する。ヒナウェーブはツボにハマったのか、銃を地面に突き立て支えにしつつ、空いた片手でお腹を抑えている。


 確かに、見方を変えれば面白くはあるが、疲労とか、賞金が無いのも含めて俺はそんな気分にはなれなかった。


 そんな中、ウキワは砂塵の魔道士のHPが表示されると同時に、駆け出していた。


 ウキワは死神ノ刃(ラ・モール・エッジ)を起動し、容赦なく斬りかかりに行く。砂塵の魔道士は、殺意を向けた接近に気づき、相応の鎌で対抗する。


「あの魔道士……強いな」


 このクエストがレジェンドクエストに分類させられている理由が目に見えてわかる。あのウキワが少しづつ押されているのだから。


 クエストの内容は違えど、同じ難易度に分類されるレジェンドクエストを周回していたというウキワ。その件もあって、あいつ一人で余裕だと、勝手に思っていたが、今回ばかりはそうもいかないようだ。


 惜しみなくスキルを使用しているのを見るに、手を抜いているようには思えない。


 葬魂の爪痕(そうこんのつめあと)のような条件制で発動できるスキルでも準備していると考えるのが妥当か。


 それにしても、俺が戦った複製体より見違えるほど精密だ。ウキワの戦闘スタイルと俺の戦闘スタイルを混ぜたような……


「私の動きも混ざってそうだね」


 ドカ笑いから開放されたヒナウェーブは、さり気なく声をかけてくる。そうは見えなかったが、ヒナウェーブが言うのなら間違いないという信頼がある。


「うーん……」


 もう一度、変人と狂人の戦いに目を向けると、ある事に気がついた。


「飛び蹴りに回し蹴りねぇ……え?」


「デッドリー・クロスファイアって、ある程度対人戦も強くないと戦えないからね。自己流で練習してたらいつの間にかあんな風になっちゃった」


 ヒナウェーブは、こう見えてストイックな所もあるのか……。流石はトップを走るプロゲーマーだ。その努力を惜しまない精神力が強さの秘訣なのだろう。


「軽々しく言いますけど、大概えげつない動きしてますよ、あれ」


「いや、多分補正で盛られてるだけだと思うよ」


「というと?」


「あの魔道士は私たち三人の強みが一つに纏まった複製体。だから私の強みにルア君とウキワちゃんの強みが乗算で上乗せされてるって事」


「あーそういう事か」


 そう考えるとアイツが絶妙に押されてるのも納得だ。とはいえ、最初に対峙した複製体の事が気になる。見た目とスキルをコピーしただけで、戦い方は完全に別物でしか無かった。


 いやもしかして……


「ウェブも誰かの複製体と戦ったんだろ?」


「うん、そこにいる猫の仮面の人だね」


 間違いなく俺だ。まあどうでもいいとして。


「その時、完璧な複製体を作り出すために動きを見定めてたのかも」


「つまり、あの複製体は捨て駒だったって事?」


「ああ。憶測でしかないが、その可能性は高いと思う」


 で、どうしようかといったところでウキワが魔道士を引き連れて、俺たちに近づいてくる。否――()()ではなく、完全に()狙いだ。


「はいパス!」


 ウキワはスライドして、視界から外れるとヘイトが俺に切り替わった。


「あっぶっっっっ!」


 サイドから鎌に挟まれそうになるも、難ありで交わす。


「充分戦ったから、あとは宜しくねー」


「おい、こら!」




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