かつての恨みをぶつけて
ウキワがルシラスとの対決で披露したスキルはたった4つ。レベル32の俺でさえ、スキルを8つ保有しているのだから、確かに割に合わないとは思っていた。
しかしながらこのゲームは、スキル同士を合成して、強化&圧縮できるらしい。だとしても、4つのスキルでやりくりできるほどバウンティクロニクルは甘くない。
仮にそうだとしたらただの縛りプレイでしかないのだ。それにアイツは、才能と惜しみない努力を徹底的にぶつけてくるタイプである。
ルシラスに対してスキルを温存したのは、余裕で勝てると見込んでいたからなのだろう。このスキルだけで十分だろうと……
「偽物だろうが、死んでもぶっ倒す!」
俺に目掛けて飛んでくる漆黒の球。その大きさはバスケットボール並である。斬るか、それとも避けるか。恐らく、喰らえば即死の盤面。出来るだけリスクは負いたくない。
「ふん、単純過ぎて当たんねぇよ」
頭で算出された計算の結果、コマンド「避ける」を選択し、風圧と共に半身になって横に逸れる。誰でも出来る簡単な仕事だ。全然大したことは……あった。
「ん?」
遠ざかった音が、俺を追いかけるが如く戻ってくる。奥は行き止まりだったはずだ。まさかと思い、後ろを振り向くと……
「は、ホーミング式かよ!」
やはり、あの通り過ぎた漆黒の球がフリスビーのように戻ってきていた。
フラッシュバーストのような一撃ドカン系かと予想していたが、戻ってくるのは想定外だ。だが、対応はしやすい。ヒナウェーブが放つ弾速よりも遅いからだ。
頭の中でのシュミレーションでは、バフ抜きにしても、余裕で避けれる……と思う。
「外野に飛ばされる気がしないなぁ」
反射神経には絶対的な自信がある。球技大会で行われるドッチボールでは毎回最後の一人に残っていたくらいだからな。友達には「お前ネズミみたいだな」ってよく言われてた気がする。
煽りを混ぜつつ、避けること二往復。煽りに反応したのか、それとも痺れを切らしたのか不明だが、ウキワはなんの前触れもなく駆け出す。
「え、ちょちょちょ、話が違う!」
距離を離してずっと立ち止まってたから、そのスキルの発動中は、動けないのかと思っていたが違った。ましてや、球と一緒に肉薄してくる。
本体と対峙しつつ、球を避けなければならないという情報に、一瞬思考停止を余儀なくされるも、冷静に頭の中を整理する。
先に俺の元へたどり着いたのは漆黒の球。それを毎日の日課のように避け、ウキワと再度対峙する。そして、相手の攻撃を受け流しながら、隙を見てスキルを叩き込む。
「月影返し」
渾身の一振りをウキワは宙を浮くように回避。俺は、漆黒の球が戻ってくるのを音で確認た後、タイミングを見計らい逸れる。すると、先程まで鎌を揺らし、球をコントロールしていたウキワは迫ってくる球を躱した。
その球は徐々に右にズレると、壁に衝突し、黒い煙を上げて爆散という結果となった。質量が圧縮されている分、破壊力は抜群という訳か。
それはそうと、あまりにも当たらなさすぎてコントロールを放棄したのか、スキルの効果が切れたのか気になるところではある。
そんなことを考えているとウキワは懲りずに接近。度重なる交錯を繰り返すとある異変に気づく。
「お前……MP切れだな?」
明らかにウキワはスキルを使わなくなった。いや、正しくは使えないのだ。だが、俺は、スキルを使える!
「残念だったな。俺には守護霊が付いてるんでねぇ!」
ラルメロが一言も喋らないのは、MPを生成し続けているからである……と今さっき知った。
MPは、徐々に回復していく仕様となっているが如何せん遅い。つまり、俺の方が圧倒的アドバンテージを取れている。守護霊最高!
「ラルメロ……お前スキル使っていいか!」
「ぬ゛ぬ゛ぬ゛ぬ゛ぬ゛ど、どうぞ……」
「んー、すっげぇ使いにくい!」
俺が猫愛好家じゃなければ、使いまくっていただろう。クソっ……中身がAIなのは分かっていても、若干躊躇してしまう。かと言って、既存のスキルでこいつを倒せるとは到底思えない。
とはいえ、死んだら元も子も無い。ゴーレムの件で助けてもらった以上、ウキワは自分の手で倒したいというプライドは、自動MP生成の時点で既に閉ざされたようなものだ。
「よし……」
俺は、無理やり理由を作り心に決めた。ラルメロが持つ最大にして最強の技を使うことを……
「葬魂の爪痕」
十分間ダメージを食らわないかつ十分間攻撃を与えないことで発動可能な守護霊のスキル【葬魂の爪痕】は一定範囲内の敵に状態異常『爪痕』を付与させ、八つ裂きにするスキルである。
時間が経過する事に、HPの削れる速度が上昇し、状態異常を解かない限り死を免れることは無い……。
「……俺の勝ちだ」
ウキワの複製体にみるみる傷がついて行く。それは顔から徐々に全身へと広がり、炎症のようなダメージを与える。そしてポリゴンではなく、灰のように砂となって消滅した。
実質ウキワに勝利を収めた俺は、幾度となく湧いてくる安堵感に包まれたのであった。




