ウキワの策略
「それにしても、ひっでぇ戦い方だったなー」
「煽られたんだから、当然でしょ? あと、私がいつもやってる事だし」
「ああ、一応自覚はあったんだ……」
「ん、なんか言った?」
「いや……何も」
俺はすまし顔で誤魔化すも、猫の仮面のせいで何の意味も無いことに気づき、直ぐに顔を切り替える。
「でも折角なら、報酬貰っとけば良かったのに……」
「それは同感。だって320万Gだぜ? てか、その為に引き受けたんじゃなかったのかよ」
「あんた達が言ってる事は正論だし、勿論そのつもりだった。けど、途中で気が変わった。多分カッコつけたかっただけなんだと思う」
「なんだよそれ」
ウキワのプライドなのか知らないが、どうやらそういうことらしい。正直、俺には意味がよく分からなかった。だが、紛れもなくサイコパスだという事は分かる。
そんなウキワだが、俺にはいくつか気がかりな点があった。
かつて、ウキワと1V1を繰り広げた『デュアル・ネクサス・アドバンス』――通称DNA。
そこで、俺は惨敗した。あの時の俺はルシラスと同じように地に這いつくばり、罵倒を浴びせられたのだ。そこまでは今のウキワと何ら変わりない。違いは、手を抜いたか手を抜いてないかである。
ウキワは手加減をしなかった。手加減をしようとすら思っていなかったと思う。それは視線や動きを見れば一目瞭然だった。俺と戦った時の彼女は紛れもなく本気だったのだ。
これが何を意味するのか、たった今ようやく理解出来たような気がする。ウキワは俺の強さを認めているのだ。俺を賞金という言葉で釣り、ギルドに引き入れたのも辻褄が合う。
でも煽ったのは一生恨むからな。まじでいつか覚えとけよ。
もう一つは……
「で、その周回するっていう秘宝ってカテゴリーのクエストはどこにあるの?」
「2個先のエリアだね。ギルドルームでそう話したはずだけど」
「あはは、忘れてた……」
ヒナウェーブは、下手な作り笑いを浮かべる。察するに、先ほどの衝撃的な試合で記憶が抜け落ちてしまったのだろう。そうなるのも無理はない。
「つまり、一度攻略済みって事だろ? 今から通り抜ける【未開の砂漠】は、楽に突破出来るってことだよな?」
「それも、ギルドルームで言った!」
ウキワは叱るように怒鳴る。その形相はまさしく鬼であった。
「あ、ハイ。そうっすね」
決して俺は忘れていたわけじゃない。今まで蓄積されてきた煽りの借金を返済するための、ちょっとしたジョーク的なやつである。
それに、ウキワが【ダラワ】に戻ってこれたのは、彼女が安全なルートを開拓したからであって……と自身の口からそう聞かされたからな。
それはともかく、先駆者でありながら実力者でもあるウキワから、その言葉を聞いてもなお、俺は楽に攻略できると思っていない。
その理由として、今まで攻略してきた二つエリアが理不尽要素込みで難しいということ。これは言わずもがなである。
もう一つは、ギルドを組んだことによるPKが可能となったことにある。
狙うも良し、狙われるも良し(?)のPKシステムは、あらゆる可能性を網羅しているのだ。
それを踏まえたからと言って何か変わるかと言われれば、何も変わらないだろう。
つまり、臨機応変――これに尽きる。基本的に想定外の事が起こるバウクロならではの必勝法だ。
「あ、そうだ。ちょっと鍛冶屋行ってくるから先にゲートの前で待ってくれ」
「はーい」
ヒナウェーブが明るく答えてくれたのに対して、ウキワは何も言わなかった。ただ、俺を空虚な目で見つめていただけだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ついに、この時が来た。深淵の牙刃の真の力を解放する時が来たのだ。
「おっさん。これとこれで合成を頼む」
そう言って俺は深淵の牙刃と毒牙鮫の牙を手渡した。
「おう、任せとけ」
「うっす」
これまで普通の刀を使っていた反動からか、異様にワクワクする。武器を強化はゲームならでは醍醐味だからな。
――15分後。
「おし、完成したぞ」
俺はおっさんに二つの刀を渡された。
「おー」
見た目は俺が今まで愛用していた普通の刀とほとんど変わっていない。変わったのは刀にギザギザが入ったのと、刀が二本に分割したくらいだ。で、問題の性能は……
・牙刃双剣
プレイヤーまたはエネミーにダメージを与えた際、100%の確率で毒を付与させる。
牙刃双剣を装備している間、ATK(攻撃力)を20ポイント上乗せする。
「さ、最強だあああ!」
こうして、俺は舞い上がりながらウキワとヒナウェーブの元へ戻ったのだった。
「すまん、待たせすぎたな」
俺が二人にそう呼びかける。するとウキワが口を開いた。
「あんたはねぇ、時間にルーズ過ぎんのよ。そんなやつ社会じゃ通用しないから」
揚げ足を取ろうと必死に何かを考えるが、正論すぎて、なんも言えなかった。
「私は別にいいけどね。ルアくんのためなら何時間だって待つよ」
それを聞いたウキワは、ヒナウェーブに対し「マジかコイツ」と言いたげな目でじっと見つめた。
「もう面倒臭いからいいや、早く行くよ。時間は限られてんだから」
「へいへい」
「楽しみだなぁ……」
こうして俺は、新たなるエリア【未開の砂漠】に足を踏み入れたのだった。




