兄弟対決
ウキワが言うには、秘宝というカテゴリーのクエストはGも経験値も美味いらしい。
そのクエストに向かうべく、次のエリアを攻略しようと次のエリアのゲートに足を運んでいた時だった。
「お、奇遇だねぇ……」
一人の見知らぬ男が突如として目の前に現れ、声をかけてきた。
比較的高身長なアバターに黒の革ジャンとジーパン。ファンタジー感のない私服すぎる装いは逆に違和感しか感じない。そんな男は、ウキワに高圧的な態度で蔑む。
「この人誰……?」
「私の兄だよ」
「えっ? 兄弟いたんだ……」
「俺も今初めて聞いたわ」
【ルシラス】という男はウキワの兄とのことらしい。確かにイケメンだし、顔立ちが似てるとは思ったが、本当にそうだとは思わなかった。
「ウキワ、そこにいる後ろの二人を渡せ」
その言葉に俺とヒナウェーブは顔を見合わせる。
「無理。元々私が目を付けてたんだから」
「じゃあ俺と1V1をして、お前が勝ったら、俺らのギルドが保有しているGを全部くれてやると言ったらどうだ?」
「金額によっては普通に断るけど。それに、証拠がないじゃない」
「ふん、これが証拠だ」
ルシラスはウィンドウを操作し、ゲーム内で撮影されたスクリーンショットをウキワに送った。
「320万Gねぇ……で私が負けたら、この二人を渡せと」
「流石は俺の妹だな。飲み込みが早くて助かる」
「分かった、承諾する。けど……もし私が負けたとして、この子達のギルドの解約金は払ってくれるの?」
「ああ、当たり前だろ?」
「ふーん」
そんなわけで急遽、俺とヒナウェーブを賭けた兄弟対決が決まったのだった。
その決闘をする場所は【ダラワ】にある訓練場。ここでは1V1はもちろん、様々なパターンで練習を積むことができるらしい。何やら、ホログラフィックの人型AIと対人戦が出来たり……とか聞いたこともある。
俺も更なる高みを目指して、空いた時間に今度練習しに来ようと思う。それくらい、練習するにはもってこいといった設備が充実していた。
今回は50レベル統一で三本先取の1V1。リスポーン地点はその場に設定される。デスペナルティは、ここでは発生しないようなシステムになっているそうだ。
「兄弟対決ねぇ……」
俺は腿に肘を立てて頬ずえをつきながら呟いた。
「ルアくんはどっちが勝つと思う?」
「んー、相手の動きを見ないとよく分からんだろうなあ」
俺とヒナウェーブは観戦席でコソコソと話す。ルシラスの立ち姿から見て、強そうな雰囲気はあるがどうだろうか。
個人的にはウキワがこのバウンティ・クロニクルというフィールドでどんな戦い方をするのか興味があった。将来的にウキワと対戦するにあたって、この戦いは良い判断材料になりそうだったからだ。
ウキワは両手に鎌を携え、対するルシラスは漆黒に染まった剣を見せつける。
その瞬間、一戦目がスタートした。
先に動いたのはルシラス。
ウキワは動じず、その場で佇んでいる。
「日蝕」
肉薄しながらルシラスがそう唱えると、漆黒の剣が闇のオーラに包まれる。そして、ウキワの顔面目掛けて振り下ろす。
ウキワは、その攻撃を二本の鎌で受け止めると、火花のようにポリゴンが散った。
ルシラスは一旦距離を離し、再度接近。そして、魔剣を振り続ける。その攻撃はウキワに弾かれ、いとも簡単に交わされていた。ウキワはスキルを使わず、個人技だけで勝負しているのだ。
「……ヴォイドステップ」
これでは埒が明かないと判断したのか、ルシラスは新たなスキルを唱える。すると、ルシアスの体が瞬間的にウキワの死角に移動した。辛うじて目で追えはするが、体は反応出来ない程の速さであった。
「……残念こっちだ」
「――なッ!」
バフで強化されているであろう漆黒の剣は、ウキワの脇腹を掠める。
「ふん、俺の勝ちだな」
ルシラスの瞬間移動による猛攻により、ウキワのHPを一瞬で全損させた。
「あいつ……まじで何してんだ?」
「スキル、一回も使わなかったね……」
俺とヒナウェーブが観戦席で困惑する中、すぐ二戦目が始まった。
またしても、先に動いたのはルシラス。そして、一戦目と同じように日蝕を使用した。やっぱり、剣にバフを付与するスキルなのは間違いなさそうだ。
「冥界鏡設置」
ウキワが初めてスキルを宣言すると、ウキワの目の前に鏡が現れる。そのまま吸い込まれるように潜ると、繋がっていた先はルシラスの背後だった。
「闇刃追尾」
ウキワが背後から鎌を首に伸ばした瞬間、ルシラスは新しいスキルを使用した。
「……は、どこから……」
ウキワの腹部にルシラスの魔剣が貫通し、ポリゴンの穴が空く。
「闇刃爆破」
響くは轟音。両者は爆発によって灰色の煙に包まれる。数秒経ち、その煙が風により流されていくと、ウキワのHPは無くなっていた。ルシラスは、二戦目もノーダメージで制したのだ。
「ウキワが鏡を設置した瞬間、剣を真上に投げてスキルで追尾か……なるほど」
「ねぇ関心してる場合? あと一本取られたら終わりなんだよ?」
焦っているのがよく分かるヒナウェーブの言葉に、俺は動じなかった。それはなぜか。ウキワは、最初から本気を出していないからである。
「なぁウェブ、あいつの性格って知ってるか?」
「んーまあ、大体は……」
今のヒナウェーブはウキワの外面しか知らない。ウキワの中に秘められた怪物を見たことがないのだろう。
「あいつの性格は終わってる。平気で人を欺き、自分のために動く。そんな奴だ」
「そ、そう……かもね? 」
「ウェブ。お前は、まだあいつの本当の恐ろしさを知らないんだよ。狂気に満ち溢れた真の姿をな」
俺は、ウキワを視界から外さなかった。それにもかかわらず、ヒナウェーブの
「やっと本気を出したかと思えばこれか………」
ルシラスは退屈そうに呟く。それに対して、ウキワは俯きながら微笑を浮かべると……
「あはははははははははははは!」
ウキワは、悪魔の様な笑い声を天に向かって解き放つ。アバターが紫色に染まっているせいか、俺には紫色のオーラが出ているように見えた。
「本気なわけないでしょ。こっから徹底的に叩きのめすための準備をしてただけ。これは私だけの舞台なのよ」
「お前、そんなに変わっちまったのか」
俺はそのルシラスの言葉に、ちょっとした違和感を覚えた。
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