VS毒牙鮫 後編
狙うは、毒牙鮫ただ一匹。一旦様子見でスキルをぶち込んでやろうかと考えていると、後方からの閃光を感じ取る。
「フラッシュバーストか」
ヒナウェーブの思考は相変わらず読みにくい。
この攻撃だって、最初に話を合わせて置けばそれで良かったはず。しかし、彼女は『臨機応変』とだけ言い張った。
「なるほど、そういう事か……」
俺は、相手の動きを脳内にインプットしてから、弱点を突くというプレイスタイルである。ヒナウェーブは、それを理解して俺の強みを活かそうとしているのだ。つまり……
「……連携攻撃ってことだなっ!」
水中を光と共に切り裂く弾丸は、俺の真上を掠め、毒牙鮫に着弾すると同時に爆発。眩いに視界を妨げられるも、肉薄し攻撃を試みる。
三日月のように弧を描き、攻撃するスキルムーンスラッシュを発動。だが、当たった感触がない。
『後ろ来てる……!』
すると指定伝達で、司令塔ヒナウェーブによる情報が、即座に伝えられる。
「マジかよッ……」
振り向くと消えたかのように見えた毒牙鮫は、左回りに旋回。ターゲットを俺に定めると、口を大きく開け、凄まじい速度で突進して来ていた。
「スピードブースト!」
俺は、スタミナが尽きるギリギリまで引き付けて、使用しようと思っていたスピードブーストを惜しみなく切り、水面を蹴りあげ、横に逸れる。
「危っぶねぇ……」
スピードブーストを使わなければ、致命傷――否、間違いなく即死していただろう。今の判断を自分で褒め称えたいくらいだが、それはコイツを調理してからだ。
『もう一回来るよ!』
今度は右に迂回し、先程と同じモーションで、毒牙鮫は突進してくる。
「……月影返し!」
地面を蹴りあげ下に回避し、上空を通過する毒牙鮫のタイミングを見計らって刀を振るう。しかし、刃は通らない。
「あずきバーくらい硬ぇなッ!」
いやほんとに。水中とはいえ、スピードブーストによる効果も乗っているはずだ。しかし、HPは全く減っていない。このままでは、1ゲージの半分を持っていけるか怪しいレベルである。
永遠に突進&噛みつき攻撃を繰り返す毒牙鮫。それを一心不乱に交わしまくり、合間を縫って斬る。
「ウェブのやつは何してんだ……」
もう十回くらい躱しただろうか。しかしながら、司令塔ヒナウェーブによる指示は途絶えた。
まさか、小鮫が出てきてやられたんじゃ……
焦りと不安が湧き上がる。
『なるほど、試してみる価値はありそうね』
良かった。ひとまず、生きてたようで安心した。
ん、今なんて?
俺は、目の前の敵に集中しすぎて、よく聞き取れなかった。
『こっちに毒牙鮫を引き付けられる?』
「あいつ何言ってんだ……」
毒牙鮫のヘイトを俺が稼いで攻撃しつつ、ヒナウェーブも加勢するというシナリオを頭の中で描いていたが、最初以降彼女は一切撃たなかった。なにか狙いがあるのは確かだ。
「分かったよ全く、死んだら罰金だからな!」
俺は、水中を下から蹴りあげ、上空へ向かう。後ろを振り向き、毒牙鮫が追ってきているのを確認。上を見上げると、ヒナウェーブがスナイパーを構え、待機していた。
「連れてきたぞ!」
「おっけー、任せて!」
ヒナウェーブが薄ら微笑むと同時に、俺はタイミングを合わせて右に逸れる。鮫の勢いは止まることなく、ヒナウェーブに突っ込んだ。
「零距離射撃【煌】!」
ヒナウェーブはスキルを叫び、引き金を引く。すると毒牙鮫はひっくり返り、動きが鈍くなる。
「スタンした、それにHPも……」
今までの攻撃が嘘だったかのような、削り具合に慄く。どういうことなのだろうか。
「弱点は鼻! 今のうちに攻撃して!」
ヒナウェーブそう伝えられた俺は言われた通り、動きが止まった毒牙鮫に肉薄する。
「蒼月一閃!」
刀がブルームーンのような輝きを放つ。そして、鼻目掛けて一閃。毒牙鮫は悶え苦しんだと思いきや不可解な行動に出る。
「なんだその動き……」
1ゲージを持っていった直後、毒牙鮫は最下層まで潜り、俺たちから距離を取った。今まで突進と噛みつき攻撃を繰り返していた、あの能なしの毒牙鮫がだ。
「小鮫が増えていく……」
小鮫はこちら側を向き、水中で待機している。
「嫌な予感しかしないんだが?」
そして、ちょうど二十匹ほど増えたところで、小鮫は素早い動きで向かってくる。その光景は、まるで鮫の魚雷だった。
「細かいのは私に任せて!」
ヒナウェーブはそう言い放ち、俺の前に出る。
「弾速強化、からの伝染雷撃!」
放った弾丸は、一匹の小鮫に直撃すると、電気の光が次々と伝染していく。水中ということもあり、その威力は凄まじく、小鮫は爆発して行き、全て消滅した。
「こんな隠し球を持ってたのか……ってそれ俺が追われてた時に使えよ!」
「いや、タイミングがズレたら困るかなと思って使わなかったんだよ?」
「ふーん」
俺は、何となくヒナウェーブを蔑む。
「と、とにかく、邪魔は消えたからさ……ねっ?」
彼女は何かを悟ったのか、許してと言わんばかりに、目を丸くさせる。
「なあ、ウェブ」
「ギグッ……な、なに?」
「俺も良い作戦思いついたから、ちょっくら行ってくるわ」
「ど、どうぞ?」
何故かヒナウェーブは、おどおどしていた気がするが、今はそんなことどうでもよかった。
「一瞬でケリつけて来るから待ってろ」
俺はそう言い残すと、水面を蹴りあげ湖の底へ向かう。
しばらくすると、下からいかつい面で俺を見上げる鮫と目が合う。
毒牙鮫はやはり、突進からの口を大きく開けた噛みつき攻撃を試みる。
「……ここだぁ!」
食われる直前で、俺は水を蹴りあげる。そして、毒牙鮫の身体の中に侵入した。
鮫の鼻は刀だと高速で動くサメに当てるのは難しい。そのため、肉が薄い体内に侵入することで、殴り放題というシンプルかつ脳筋の作戦を思いついたのだ。
「作戦成功、そんじゃ解体ショーと行きますかァ!」
俺は、内側の皮膚に刀を振り下ろし、赤いエフェクトが出たのを確認する。
「ムーンスラッシュ、月影返し、蒼月一閃、狂刃乱舞!」
赤いエフェクトが徐々に浸透しているのを脳に焼き付けつつ、俺は現段階で持っている全ての攻撃技を放った。今まで、スキルを温存する戦い方をしていた分、この連続攻撃は、爽快感を感じずにはいられない。
毒牙鮫は、体を無我夢中に動かし、大暴れした途端動きが止まった。そして毒牙鮫はポリゴンとなり、消滅した瞬間俺は叫んだ。
「……よっしゃあ!」
俺は今までに体験したことの無い達成感に浸る。
『これが臨機応変の真骨頂なのね……』
それを上から見ていたヒナウェーブは指定伝達で囁いた。
「って、やっべぇ死ぬぅ!」
スピードブーストによるスタミナ無限の効果が切れると同時に、継続ダメージが発生し、俺は手足をばたつかせて、急いで湖を這い上がった。




