VS毒牙鮫 前編
水しぶきを上げ、湖から垂直に飛び出したサメは、口を大きく開き、尖った歯を自慢するかの如く、見せびらかす。
それにしても、巨体すぎる。いや、下から見上げた時に、ある程度のスケールであることは理解してはいたのだが、目の前で見るのとでは話が違う。
その名は『毒牙鮫』。レベルは50。HPは……2ゲージ。
それに対して俺はレベル24。ついでに貧相な防御力を持ち合わせている。圧倒的な格差に呆然としていると、後ろから銃声が聞こえた。
その弾丸は俺の真横を通過し、湖から顔を出す毒牙鮫の胴体に直撃する。しかし、弾丸は呆気なく弾かれ、湖に落下した。
HPはたった数ミリ程度しか削れていなかった。現実世界のサメなら血を吹き出して、致命傷レベルに陥るはずだが、どうやらそうもいかないらしい。
「なるほどね……」
ヒナウェーブは、リロードを挟みながら呟く。
毒牙鮫は、顔色を変えることなく、ゆっくりと湖の中に避難する。そして、全身が見えなくなると、入れ替わるように小鮫が、湖から飛び跳ね、陸地に上がってくる。あの時、ヒナウェーブが殺した小鮫だった。
「なんだなんだ?」
どこからともなく次々に湧いてくる小鮫。その光景は、地獄絵図でしか無かった。奴らは体を捻り、地面をピチピチと移動している。対象はもちろん、湖の近くにいた俺だった。
小鮫はバウンドしながら斜め移動を繰り返し、俺に向かって噛みつき攻撃を仕掛ける。その攻撃を軽くいなしつつ、宙を舞うサメに刀を振り下ろす。一撃では死ななかったものの、小鮫は地面に這いつくばり動きが鈍くなった。
その瞬間をヒナウェーブは狙っていた。
「私は確殺係ってわけね……」
地を這い蹲るサメに焦点を当て、放たれた弾丸は、ヒットし、ポリゴンとなって消滅した。
それを横目でチラ見しつつ、俺は向かってくるサメを解体し続ける。
機動力に関しては、スライムウッドやその亜種のほうが圧倒的に高い。それに、小さい敵MOBとの戦闘は、スライムのエリアで腐るほどやってきた。そのため、簡単に対応できる。
だがしかし、敵の弾数は無限。そこそこ脆いとはいえ、数的有利を取られ続ける。ヒナウェーブも弾数は無限だが、リロードに時間を取られるため追いつかない。
このままでは、壁に追い詰められて、ヒナウェーブと共倒れになるだろう。
それなら――。
「ほら、こっちに来い!」
俺は、サメを引き連れて、湖の外周に回り込む。そうすることで、壁に追い詰められることなく、共倒れを回避することが出来ると思ったのだ。
ヒナウェーブは、俺の作戦を察して、射程を縮めるために、湖まで近づいてきていた。小鮫は、ヒナウェーブの方に出現していないようだった。
そのため、スピードブーストは使わずに温存しておく。早く移動しすぎて、ヒナウェーブにヘイトが向く可能性を懸念しているからである。
幾ら、実力があっても、狙撃手は、接近戦に向いていないからな。
「これ、キリがねぇな……」
俺が一匹ずつサメを削り、ヒナウェーブが遠距離からとどめを刺す。そんな意思疎通による、確立されたムーブは完璧であった。
しかし、問題は本体の方だ。どうやって倒せばいいのか検討もつかない。
そして、戦っている最中に思い出したことがある。それは、ステータスポイントを振り忘れたことだ。
「クソっ! 余裕がねぇ!」
スピードブーストを使えば、その時間は取れる。けど、サメのヘイトがヒナウェーブに行くのはもっとまずい。
「くっ……」
ここまで、無限に湧いてくる小鮫を、なんとか対処しきれていたものの、死角から飛んできた子鮫の牙が左腕を掠める。
すると、俺の周りに淡い緑色のエフェクトが発生した。色合い的にデバフであることは間違い無さそうだ。
直ぐにHPを確認すると、20秒のカウントダウンが始まっている。幸い掠めただけで、HPは半分以上残っていた。
「毒状態……」
毒牙鮫は、本体のことだけだと勝手に思い込んでいたが、現実は違ったようだ。それと、一つやらかしたことがある。俺は状態異常を直す薬を買っていなかったのだ。
つまり、生き延びるためには、回復薬を使い続けて耐久するしかない。
俺は落ち着いて、回復薬(小)を取り出し、延命する。回復薬は飲む以外にも、体にかけることでその機能を果たすことを最近知った。
何故だか不安ではあったが、実践してみたところ、しっかり回復されているようで内心ホッとする。
「毒の……エフェクト?」
離れたところで、見ていたヒナウェーブは、俺が状態異常に罹っていることに気づく。
「回復薬を飲んで……って全然治ってないじゃん!」
ルアが状態異常を直す回復薬を持っていないことに気づいたヒナウェーブは、すぐさま行動に移す。
『これ、受け取って!』
「……え?」
唐突に脳内から再生されるヒナウェーブの声に、混乱しつつ、彼女の方に視線を向けると、俺に向かって、銃口を向けていた。
距離は20メートルほど離れている。何かを受け取るには、到底届かない位置だ。一体何をするつもりなのだろうか。
『アイテム伝達……からの装填』
「なるほど、そういう事か!」
俺はヒナウェーブがやろうとしていることを察知し、身構える。
『ちゃんと、キャッチしてよねっ!』
銃声と共に、銃口から発出された一点の光は、回復薬に実体化して、俺の元へ飛んできた。右回りの移動に合わせた、完璧な偏差撃ちである。
「ほっ!」
それを左手でキャッチし、少しサメとの距離を離しつつ、全身に吹っ掛ける。すると、毒のエフェクトは消滅した。
「治った……それにHPも!」
『それ結構高いんだからね!』
「わかってるって!」
俺の声がヒナウェーブに聞こえているのかも分からないまま返答しつつ、再度気を引き締め、子鮫との第二ラウンドに突入する。
結局、永遠と湧いてくる小鮫を何度たおしても、本体の毒牙鮫は一向に現れない。
このままでは、まずい――。
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