一匹鮫
ラドリー博士は、元々この湖の生態系について、研究をしていた第一人者であり、30年ほど前から他の研究者と一緒に自給自足をして生活していたらしい。
しかし、突如湖から生き物が居なくなったことによって、洞窟内に異変が起き始めた。それがなんの前触れもなく、地面が一時的に消え、死を誘うという不可解な現象である。
その現象が起きてしまったことにより、研究所に残っていた人々は、安全に街へ戻れなくなってしまった。
元々自給自足で生活していた研究者達はその場に残り、生態系の研究から謎の現象の解明にシフトしたとの事。
結果的に、解明までは至らず、年月が経つにつれ、バタバタと研究者達が寿命やら病気やらで倒れていき、ラドリー博士が一人生き残ったというのが今の状況だ。
「なるほど、洞窟のあれはそういうことだったのか……」
「別に確定というわけではない。その可能性が大いに高いというだけじゃ」
「ちなみに、それをパーセントで表すとどのくらいですか?」
「まあ、低く見積って99.9%じゃな……」
「いや、確定じゃねぇか」
メタい話をすれば、関係があるのは当然のことだ。フラグが経てば、順を追って進んでいく。ゲームってそういうものだからな。
「それで、私たちは何をすれば良いのでしょうか」
「ワシの最後の研究を手伝って欲しいのじゃ」
「最後の研究?」
「こっちじゃ」
再び、ラドリー博士の後を追う。そして、扉を開け、中に入るとそこはちょっとした部屋になっていた。
等間隔に、長机と椅子が綺麗に並んでいる。その机の上にはパソコンが置かれていて、床にはケーブルが張り巡らされている。いかにも、研究してますよ感満載の部屋だった。
ラドリー博士は、机と机の合間を縫って進む。その奥にあったのは水槽だった。その中には、一匹の魚が泳いでいる。
「これは……サメですか?」
俺が博士に質問を投げかける。
「ああ、その通りじゃ」
意気揚々と水槽の中で元気に泳いでいるサメ。ホオジロザメやジンベイザメなんかと比べ物にならないくらい小さい。見る分にはなんの驚異にもならないただの小鮫だ。
「さっき、湖の生物が全員消えたって言いましたよね。もしかして、研究対象の生き物は消えてないってことですか?」
「いや、違う。こやつは生き物が消えた後、この地底湖に現れたサメなんじゃよ。これがどういう意味か分かるかね?」
「え、つまり……ありえないって事ですか」
「そうじゃ。ここは、地底湖じゃからな」
確かに、この地底湖がどこかに繋がっているのだとしたらその小鮫が流れ着いた可能性は十分にある。だが、ラドリー博士の言い回しからそれは無いと断言可能だ。
生き物が消えるという一つ目フラグと一匹の小鮫がどこからともなく出現したという二つ目のフラグ。
――嫌な予感しかしない。
「では、そろそろ最後の研究に取り掛かろう」
ラドリー博士はいきなりそう告げると、近くの椅子に腰かけ、キーボードをカタカタと鳴らし始めた。画面上にはプログラミングか何かのよく分からない羅列が表示されている。そしておよそ三十秒後、ラドリー博士はキーボードのEnterを押した。
すると、俺の視界に入っていた小鮫がひっくり返り、ビクともしなくなる。
「サメが!」
「死んだ……?」
俺とヒナウェーブは、一言ずつ発した後、一瞬のうちに声が出なくなる。それを見ていたラドリー博士は、こう述べた。
「死んではおらん。電気ショックで弱らせただけじゃ」
「どういうことですか博士!」
先程まで口元を抑えて、困惑していたヒナウェーブは、ラドリー博士に向かって、叫んだ。恐らく、なんの罪もない小鮫に対して、可哀想だと思ったのだろう。
「そのサメを殺すのじゃ……」
「おいおい、研究のし過ぎで頭でもイカれたのか?」
あまりにも急展開すぎて、はてなマークが絶えない。俺が、ちょっとした冗談を言ったのは平常心を保つためだ。
「ワシは、このサメが謎を紐解く大きな鍵だと思っている。じゃが、ワシにはこやつを殺すことはできなかった。地底湖の生態系を研究しているうちに、情が入ってしまったじゃ」
「それで、この鮫を殺させるために俺たちを呼んだと」
「お主の言う通りじゃな」
この鮫を殺せば、何かが起こることは間違いない。賞金のためなら、理性だって捨てる。そんな俺が刀を構えようとすると、ヒナウェーブが腕を横に突き出して止める。
「私に撃たせて」
何を思ったのかそう言った彼女の横顔は、俺の瞳に凛々しく映っていた。
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