怪奇現象
バウンティクロニクルにはクエストごとにカテゴリーが存在する。
俺が今までに見てきたのは『フィールドボス』のみ。それ以外にも『採集』や『タイムアタック』など色々な種類のカテゴリーが存在するらしい。そんな中、今回発見したのは『秘霊』というものであった。
「リスポーンしなかったのは、このクエストのフラグだったって訳か……」
どういう原理でそうなったのかは不明だが、永遠と迷路を彷徨い続けるよりよっぽどマシだ。運を味方してくれた神に感謝しよう。
「ねぇ、秘霊って、秘められた霊ってことだよね?」
「ああ、その秘められた霊を倒すクエストなんじゃね?」
「確かに、その可能性はあるかも!」
ヒナウェーブは、落下してから数分しか経過していないにもかかわらず、やけに陽気だった。確かに、高所恐怖症なら逆にハイになってもおかしくは無い……か。
そんなことを考えながら、ウィンドウを操作してみると、先程表示されたクエストのログを見つけた。これはちょうどいい。状況が状況だったために『秘霊』しか頭に入っていなかったからである。
このクエストは、今後二度と遭遇できない可能性の方が高い。そのために少しでも情報を得ておこうという算段だ。
上から順に読んでいると、下の方にちっちゃく報酬の欄を見つけ――ってこれは!
「ぬぉおおおおおおぉぉ! ウェブ、よく見ろ! 報酬賞金じゃねぇか!」
一人で盛りあがっている俺を横目に、ヒナウェーブもウィンドウを開いて確認する。
「ほんとだ。賞金3万って書いてある……てか興奮しすぎでしょ!」
「いや、だって賞金だぜ? そりゃぶち上がるに決まってんだろ」
「まあ、そうだけどさあ」
俺とは裏腹に、ヒナウェーブは落ち着いていた。
世界大会で350万を獲得した彼女にとっては、こんな金額、ちっぽけなものでしかないのだろう。その気持ちは、何となく分かる。
「よっしゃあ、さっさと賞金取り行くぞウェブ!」
俺はヒナウェーブに「早く来い」身振り手振りで催促しつつ、一本道を走り出す。
「人ってあそこまで性格変わるんだ……」
ヒナウェーブは呆れたように言葉を残すと、急いで黒猫の背中を追った。
◆
一本道の先には、重厚感のある鉄の扉が待ち受けていた。ヒナウェーブを待ち先にたどり着いていた俺が先導してドアノブを捻り、ゆっくりと押す。重そうに見えて、意外と軽い扉だった。
「洞窟の地下にこんな施設があったのか……」
辺り一面は雪のように真っ白な壁で覆われている。それに、洞窟内と比べて天井が馬鹿高い。クエスト名から察するに、ここは研究所的な場所なのだろうか。
きょろきょろと周りを見渡しながら、地道に歩いていると、唐突に後ろから老人の声が聞こえた。
「君たちが、ワシの研究に協力してくれる人間かい?」
「……!」
俺とヒナウェーブはピタッと足を止める。あまりの驚きで、一切声が出なかった。というのも、歩いてきた道は、一方通行になっているため、背後に人がいるのはありえないからである。
俺は、恐る恐る振り向くと、白衣を着た白髪の老人が立っていた。身長は160cm程だろうか。いかにもザ・博士といった印象だ。
「ま、まあそうです……けど?」
俺がより先に、ヒナウェーブが曖昧に答える。
「では、君たちついてきなさい」
手を腰までまわし、俺とヒナウェーブの間を割って、先へ進む謎の老人に言われた通り、ついて行く。
「なんか……幻想的……」
「まるで、水族館の上位互換だな」
俺たちは、円形のとてつもなく広い空間に案内された。天井はガラス張りになっており、そのガラスの上には水が溜まっている。まるで、海の下にいるかのような感覚だ。
「ワシはラドリーじゃ。博士としてここで研究を進めておる」
博士はくるりと180°回転し、俺らの目を交互に見て言った。もちろん知っている。こちとらクエスト名でネタバレ食らってんのよ。
「あの、ここは?」
「洞窟の地下にある地底湖の中心部じゃよ」
「でも魚とか全く見当たらないですけど……」
ヒナウェーブは頭上に見上げ、生き物がいないことを確認した上でそう述べた。
すると、それを聞いた博士の顔が悲しそうに曇る。
「かつて、この湖には多くの生物が生息しておった。突如消えたんじゃよ……なんの前触れもなくな。今やこの湖はただの抜け殻という訳じゃ」
「では、その原因を解明すべく研究されてると?」
「ああ、お主の言う通りじゃ」
博士はうんうんと首を縦に振って頷く。
「それが不可解だから研究してるってのは分かるんだけどさ。もしかして何かまずいことになる前兆なんじゃ……」
「ちょっと……不吉なこと言わないでよ」
ヒナウェーブは、声を震わせる。
「いや、ちょっとした冗談だって……」
「では、詳しく説明しようでは無いか」
その時、博士の細い目が大きく開いた。




