油断は生死に響く
「これ……地獄だな」
「うん、間違いないね……」
俺とヒナウェーブは、第二のエリアである『迷宮の洞窟』で迷子になっていた。ゴールがどこか分からない以上、この迷路を進み続けるしかないという状況だ。
洞窟内の壁には、水色の輝きを放つ水晶が等間隔に埋め込まれており、薄暗い洞窟を照らしてくれている。
「この水晶、どうにかして取れないのかなぁ……」
ヒナウェーブは、いきなり立ち止まり、一つの水晶を見つめながら呟く。
「確かに、売れば結構な額になりそうだしな」
「違うよ、加工してアクセサリーにするんだって」
「アクセサリーか……確かに、色合い的にも合いそうだな」
この洞窟に入ってすぐ、水晶を回収できるかどうか試して見たものの、刀でもヒナウェーブの銃弾でもビクともしなかった。
恐らく、破壊不能オブジェクトなのだろう。洞窟の灯りとして機能している以上、そうとしか考えられない。
「くぅ……そこら中にあるのにぃ……」
結局、ヒナウェーブは渋々諦め、とぼとぼと足を踏み出す。
「水晶に固執してるのって、青色が好きだからだろ? そのイヤーマフも青色だしな」
「うん……概ね正解かな」
「概ね?」
「これ、イヤーマフじゃなくてヘッドホンだよ」
「はい?」
確かに最初見た時はヘッドホンだと思った。けれども狙撃手にヘッドホンは構造上有り得ない思い、結果的にイヤーマフだと思い込んでいたのだ。
「試しに付けてみる?」
「まあ、音楽をかけられるんだったら証明になるしな」
「もちろんかけられるよ。はいっ」
ヒナウェーブは、ヘッドホンを外して、俺に無理やり付ける。そして、ウィンドウを操作し始めたその直後……
「うるせぇええ゛ええええ゛ええ!」
思わずヘッドホンをぶん投げそうになったが、理性が働いてなんとか持ち堪える。音量が馬鹿でかいとかそういうのではなく、ヘビメタ系の最高にロックな曲が流れ初めたのだ。
完全に油断した。緩やかな曲かと思い込んでいたらこの仕打ちだ。
「それ、私の戦闘用BGMなんだよね。アドレナリンが出て、結構集中できるんだよ?」
「いくらなんでも特殊すぎるだろ!」
そう言いつつも、俺はヘッドホンをヒナウェーブに返した。
◆
奥に進むに連れ、来葉の言っていた落とし穴の件がずっと気に障る。一応警戒してはいるが、一行に現れる気配は無い。それに、敵もここまで目にしていない。
気味が悪いというか、嵐の前の静けさのようなものを感じる。
「そういえば、なんで猫の仮面なんかしてるの?」
唐突に、ヒナウェーブから質問を投げかけられる。
「あー、えーっとそれはだな……」
このタイミングで、その質問が来るのは想定外だったため、俺は動揺を隠せないでいた。今まで、気を使っていたからこそ、このタイミングだったのだろう。
別にヒナウェーブだけになら言ったって構わない。だがしかし、その話が例のアイツに知れ渡る可能性があると思うと、言いたくはなかった。
「事情があるなら無理して言わなくてもいいけど?」
「まあ、別に大したことじゃないんだけど……言いづらいって言うか……」
「待って、目の前になんかいる」
ヒナウェーブが見ている目線の先には小さいウミガメのような生き物が歩いてきている。通常、モンスターには名前とHPバー、レベルが表示されているはずだが、何も表示されていない。
けれども、ヒナウェーブはスナイパーを構えて標準を合わせる。その時だった。
「床が消えた……」
「あ、落ちてっちゃった」
スライド式に床が空くのかと思っていたら、カメを中心に高範囲に地面ごと消滅した。これが、ウキワこと来葉の言っていた落とし穴だ。
「数秒待つと元に戻る……のか」
「なるほどね、あのカメに気をつけてれば大丈夫そう……」
「……え、あっ」
この瞬間、何が起きたのか直ぐに察した。なんの予備動作もなく、地面が消えたのだ。一切、反応できなかった。いや、反応はできても助かることは無いだろう。
――終わった。
走馬灯のように、来葉の言葉が頭に浮かんでくる。『即死』という単語が……。
◆
「なんだここ……」
「何が起こったの……」
気がつけばうつ伏せになっていた。地面の感触と隣からヒナウェーブの声で俺は今の状況を理解する。
ここはリスポーンベッドではなく、紛れもない洞窟であると。つまり、即死を免れたという訳だ。
このゲームには落下ダメージというものが存在する。この落とし穴だけ物理的法則に則っていないのは不可解だ。
となるとバグを疑うしか――。
目の前には今までとは違う一方通行の道。身の回りの情報を確認した上で、俺とヒナウェーブは上体を起こし、立ち上がると同時にウィンドウが反応した。
《秘霊【ラドリー博士の研究】を開始します》
「は……?」
「え……?」




