声明
2150年
12月25日
クリスマス
寒空の下日の吐く息が白くなるこの季節で特に特別なこの日
幸せそうな人々が街に溢れかえるなか、
吐く息で眼鏡を曇らせながら私は顔を顰め不機嫌なそぶりで歩く・・
ーこの日ほど憂鬱な日は無い
世間ではカップルや家族が幸せそうにして
街を練り歩いているのが堪らなく不愉快
不愉快になる理由?彼氏がいないこと?家族が一人もいないこと?
違う、この寒空の下、仕事をしているのだからッ!ー
ぶるる
さむっ・・・
寒さに身を震わせ
近くのビルに寄りかかり何かを待つ
ガガッ
「こちら、コカラギ聞こえるか?雪ぃ」
き、聞こえる・・・
「あと、5分くらいでセンサーに反応があるはずだ」
5分っ!?
それまでこの光景と寒さに耐えろと!?
「しょうがねーだろ!俺たちは公式に認可を受けた分けじゃないの!
小さな仕事をこなして、太鼓判をもらうまでの辛抱だ!
そうすりゃ最新鋭のレーダーも揃うはずだ!」
イモータルマーセリナーズの名が泣くわよ?
イモータルマーセリナーズ
2090年~2130年終結の戦争の最中造られた、
人造人間で構成された傭兵部隊
戦争終結と同時にその所在は抹消された
終戦から20年間私たちは老いることもなく
人間社会に身を隠しながら今も生きている
「厳つい名はしてるが、俺たち化物は使い捨てさ、戦争が起こらない限り捨てられたまま
また拾われるまで自分たちの食扶ちを稼ぐんだよ。」
それも気に食わないわよ!
良い様に利用して終わったらポイ!
こんな事なら過激派に流れればよかったわ!
ー過激派と私たちが形容している奴らは
同じくイモータルマーセリナーズの仲間だった
私みたいな奴は穏健派と呼称してる
こんな事になるなら好き勝手出来る
過激派になればよかったわ!ー
「その過激派と今からドンパチだぞ」
じゃあ仲間に入れないわね
「戦い始めて彼是15年今更だろw」
笑うな!
場所はどこに移動した?
「まずいな・・」
楽観的な声色から曇り
雪に緊張が走った
方角を教えて!
「東へ行け!」
ッタ!
声に従い走り出した
無線にジャックを挿し耳にイヤホンをつける
動作を走る速度を落とすどころか、
速さを増し人の群れをぶつかる事もなくすり抜けていく
「ショッピングモールtalkだ!」
あのふざけた名前のビルか!
分かった!
「急げよー!間に合わなかったら豚箱行きだ!」
豚箱には誰がいたっけ?
「俺たちが捕まえた同族どもだ!」
シャレにならないわね!
雪は走る方向を近くの路地へ変更し
路地の壁を交互に蹴り上がり高層ビルの屋上に着地しそのまま走り出した。
ーーーーー
同時刻
talkビル屋上
ビルの屋上のヘリにダウンジャケットを着た男が街を見下ろしていた
その目は力なく虚ろだった。
「開始時間まであと3分そちらの状況は?」
準備は上々そっちの準備は?
「電波ジャックはそっちの合図待ちいつでも」
この声明が開戦の狼煙になるんだな
「そう、ここから始まるんだ」
男は無線を切り腕時計に虚ろな目を落とし
時間が来るのを待った。
3分後
talkビル前
ヒュゥッ
スタっ
ビルの正面口に軽い足取りで着地した人影に
人々は注目した。
次第に騒めき出し携帯を向け動画や写真を撮る人たちを見回し
こう言い放った。
私は見せもんじゃ無い!
死にたくなかったらここから離れなさい!
それでも動かない人たちを無視し店内へ歩き出した。
死んでも恨まないでよ!
ターゲットの居場所は!
「お粗末なセンサーを使ってるからビルの何処に居るかは分からん
すまんがしらみつぶしだ」
そもそも充てにしてない!
ガガッ
[この放送を聞いている全ての人達に伝える!]
なに?この放送
発信源くらい辿れるでしょ!
「もやってる!・・くそ!妨害されてる!」
ガチャ!
2階も居ない!
妨害くらい躱せるでしょ!
[この放送はすべての回線につながっている!
この映像やこの声はお前たちに聞こえるはずだ!
我々はトレイターズ、元はイモータルマーセリナーズだった者だ!
20年前の終戦を期に捨てられ碌な対応もされず、
戦場で築いた功績をも奪われ我々の尊厳を!存在を!
お前たちは踏みにじった!
そんな我々は陰に潜んだ我々は力を蓄え、
期は熟した!
我々はお前たち人間に復讐する!これは悪戯や冗談やテロではない!戦争だ!
種の存続をかけた我々トレイダーズと現存種族の人間どもとの
異種族戦争だ!
まず手始めに俺が立っているこのビルを破壊する!]
そうは問屋が卸さない!
お前はッ!
№3ぃぃぃ!!!!
この裏切り者がぁぁぁ!!
声のほうへ振り向くと
そこには齢二十歳ほどの女が立っていた
目は鋭く臨戦態勢を整えていた。
男は女の顔を見たその目に怒りが宿り
号砲と共に№3と呼んだ女へ襲いかかった。
数字で表せるほど私は薄くないわよ!
今からでも仲間になれるかしら?
お前は殺す!
殺した後街頭に吊るし上げてやる!
わーこわ
軽い冗談を言いながら
男の繰り出す猛攻を捌きながら
攻め手を考えていた
「雪!テレビがジャックされてるぞ!」
本当に館内放送だけじゃなかったのね・・・
てか、今更じゃん!情報収集遅すぎる!
「設備費ケチったツケだ!
今からでも電波ジャックを妨害する
それまでは力を使うなよ!」
面白くないジョークはやめてよ!
妨害できたら私の無線につないで!
「何する気だ?」
できること!
ドっ
グェッ
くっ殺してやる!こ、殺してて、や、やるるる
あががっが
ころころ
かっかっ
なーんか様子がおかしいけど
男を蹴り飛ばし距離をとった雪は驚愕した。
突然男が狂った電子機器のように震えだし
口の端には泡を溜め目を血走り顔は赤く染まり始めた
「不調か?そいつの顔に見覚えは?」
多分、最後くらいに造られた子かな
「エンドシーズンの奴はインスタントモデルなんだよ」
なんだっけそれ?
「インスタントモデルは短期で運用することを目的にしたタイプで
寿命も個体差はあれど短めなんだ
ただ・・」
ただ?
「寿命が尽きる時、マッチの火のように激しく燃え上がるように
力が暴走する」
こぉっこおおおうdddど
なnnn70ぅうぅぅぅ2ぃぃぃぃ
フシュゥゥゥゥゥ
謎の言葉をつぶやき
男の体から黒い煙が吹き上がった
妨害まだ!?
この子力使ったわよ!
「だめだ!間に合わん!音声の主導権はこっちが握った!」
上出来とは言いにくいけど
つないで!
「よし!つないだ!」
んっん!
この音声を聞いてるtalkビル前と中のみんな!
時間を稼ぐからできるだけ遠くへ逃げて!
これは訓練やジョークでもない!
通信終り!
「力は使うなよ?お前のために言ってるんだぞ?」
人命優先!
後のことは後の自分に任せれば宜し!
がぁぁぁぁ!!!!!!
号砲と共に煙が晴れ
人の姿とはかけ離れた異形が立っていた
上半身が肥大し両腕がゴリラのように太く硬く重々しく変化し
下半身はサイの硬質な表面をした刺々しい姿になっていた。
あからさまにパワータイプね!
おまけに防御力も折り紙付き!
拳がすごく痛いわ
剛腕の一撃を躱しつつ異形の巨体に肉薄し
一発入れるが、逆に雪の拳が砕けるが
止まらず後方へ飛び退き距離を取った
その動きは正解で、先程まで立っていた場所に驚くほど深いクレーターがそこには出来ていた。
最深20㎝ほどの深さのクレーター
まともに食らえばタダでは済まないだろう・・・
こちらも真打ち登場と行きますか!
・・・コード3!
雪の発言と同時に光が走ると共に
その姿を瞬時に変えた
ボディーラインがハッキリとした生物的な甲殻
それと言った特出した特徴の無い真っ白な見た目だった
甲殻の隙間は地肌が見えこの季節には疑獄のような寒さを感じるであろうことは
想像に難しくないだろう
やっぱ寒いぃぃ!
こんな全裸と変わらないわ!
案の定寒かった
ーさて、寒さはいったん置いといて
このゴリラ君をどうしたものかな
適当に殴ってみようかなー
雪は再度肉薄し適当に拳を数発打ち込む
しかし、以前変わりなく相手の装甲に手応えは感じなかった。
お返しと言わんばかりに振り落とされる剛腕
理性のない攻撃を難なく避け欠かさず打撃のお返し
しかし、互いにダメージ無し
いつまでの続く拳の応酬
流れが変わったのは雪の一言からだった。
飽きた、終いにしよう
また号砲を上げる巨体に
雪の正拳突きが突き刺さる
また同じように効果のない結果になると思いきや
あろうことか雪の2倍以上はある巨体が3~4メートルほど吹き飛び
屋上出入口にぶち当たりダウンした
すかさず雪の追撃が始まった。
ー単調な戦いほど苦痛なものは無いわ
次はインスタントモデル以外と遊びたいわねぇ
おやおや?やっと馬鹿でかい足が壊れてくれたわー
それは追撃ではなくただの蹂躙だった
巨体の両足を丁寧につま先から順番にへし折りながら
折るたびに上げる呻き声をBGM代わりに
テンポよくリズミカルに踊るように
足の次は腕と言わんばかりに
腕の解体を始めたが・・
ゴキッ
グチッ
骨の折れる音と骨が腕を突き出る音が飛び交い
やがて叫び声が聞こえなくなった
地面は赤く染まり体に飛び散った血を
雪はじっと眺め少し立ち尽くす
あーあー終わった・・・・
ー力を使った戦いの後のこの瞬間が一番苦手だわ
上がった熱が冷めていく感覚
生きている実感が無くなっていくこの瞬間が
私は化け物なのだと嫌でも再実感してしまう・・・ー
ガガッ
[やーやー、雪ちゃん!相も変わらず元気だね!]
なに?
妨害はどうなったの?
「妨害は成功してるぞ?外部から通信が入っている様子ではないな何か聞こえるのか?」
確かに聞こえたはずなのにコカラギからの返答は予想外のことだった
声が聞こえる場所へ雪は歩き出した。
[メッセンジャーにインスタントモデルを使ったんだけどナイスアイデアだと思わない?]
悪趣味なだけよ
どうせなら貴女が相手なら楽しめたと思うのよね
[あら?あの子じゃ退屈だった?少しは楽しめたかなって思ってたのに]
会話を交わしながら、ゆっくりと音源に近づく
先ほどの余裕は消え失せ、甲殻をまとっているのに汗が流れる錯覚を覚えるほどに
雪は声の人物に動揺していた。
全然楽しくないわよ、弱い者いじめの趣味はないのよ
それで?なんで貴女は生きているの?
[雪ちゃんに殺されたはずなのに?って?
あはははははは!!!!殺されたりないから生き返ってきたの!
でも、今回はじっくり楽しもうよ!]
私は楽しみはすぐに味わう派なのよ!
そこには想像通りの人物がいるそう思い
声がする場所へ飛び込んだ。
[ざんねん!ここに私はいないよ!紹介するよ!この子はtalkビル案内所の輪島さんでーす。]
そこには目を見開いたままの女が壁に両腕を広げた体制で両掌を杭で固定されぶら下がっていた
頭に有刺鉄線がきつく巻かれ、おびただしい量の血が額から流れていた。
上半身を晒し脇腹から心臓を目掛け突き立てられた単管パイプからも血が
滴り落ち誰が見ても死んでいる
[貴女とお喋りしたくてこの子にはスピーカーになってもらいました!]
声は磔にされた女の喉に埋め込まれたスピーカーから聞こえていた
雪はこの光景に眉をひそめ磔にされた女をゆっくり下ろし
近くにあったぼろ布をかぶせた
人間は貴女の玩具じゃないのよ?
私としゃべりたいなら直接会いに来なさい!
門矢椿!
カドヤツバキ
遺体を見ず正面に声の人物を思い描き
その相手を睨みつけ
雪は声を粗上げる
[雪ちゃんはやっぱり優しいままだね!
今回は軽い挨拶代わりなんだ!
生きていたらこれから始まるゲームを楽しんでね!]ブツッ
雪の怒りを流し不穏なことを言い残し通信が切れた、
最後のワードに並々ならぬ違和感を感じ周囲を見渡す
私をこの場で殺せるものがここに在るって言うの?
・・・木箱?
普通こんな所に置かないわよね・・・
5メートル先にある木箱へ視線を向け耳を澄ます
屋上をふきつける風の音で聞こえなかったがよく聞くと
おそらく1秒おきにッチッチと聞こえ、聞こえると同時に全力で駆け出した
マジか!マジか!
コカラギ!
ビル近辺の避難は!
ビルの縁から身を乗り出し下を見下ろし
コカラギに通信を入れる
「お前が派手に殺してる映像が流れた途端に全力で非難したさそんなに慌ててどうした?」
このビルに爆弾がっ!
雪の声を遮るように
ビルの1階から2階へ3階へ爆発が連続して起きた
このまま屋上まで爆発するだろう
爆発の連鎖は止めようがなかった
女の遺体を回収する余裕もないままビルから、走る勢いのまま雪は渾身の力を籠め、
近くのビルへジャンプした。
くそ!くそくそくそおおおぉぉぉ!!!!
早く屋上へ行かなかったこと
早くあの男を殺さなかったこと
あの哀れな女の遺体を回収できなかったこと
自分の不甲斐なさとやるせなさに飛びながら叫ぶ
隣ビルへガラスを突き破り無様に受け身も取れずに転がり
壁に激突するしその衝撃かは分からないが体の変化が解けた。
そのことを気にすることもなく悔しさが癒えずコンクリで出来た地面に指を立て握りこむ
コンクリは指の形に抉れた
「おい!雪!大丈夫か!?」
・・・ふぅーっ・・・
なんとも無いわよ
被害状況はどうなった?
「talkタワーは今日で廃業だな」
「そう・・・椿と話したわ」
「門矢?お前が20年前に殺したはずだろ!?
まぁいい、積もる話は後だ、そこに居るのはマズイから帰ってこい」
そうするわ
早く帰って風呂に入りたいわ
バタンっ!!
引き上げようと立ち上がると同時に
ドアが勢いよく開かれた。
間髪入れず
特殊部隊が突入し
雪は窓際まで追い詰められ、逃げ場はなかった。
国家警備隊だ!
腹這いになり腕を頭に組め!
お前には、黙秘権なぞ無い!
命令に逆らえば即射殺する!
風呂はお預けになりそうね
早くしろ!
ー下手に動けば撃たれるし、反撃すると殺してしまう・・・
でも、降伏してもこのまま殺されるだろうし・・・
何も考えずに殺せたら楽なのにー
おい、撃て
はい
ズドンッ
クッ?!
動かない雪に苛立ち部下に発砲許可を出し
部下は流れるように足を撃ち抜いた
バランスを崩し倒れこみ撃たれた足を押さえた
動脈を撃ち抜かれたらしく血が止めどなく流れ
倒れた途端に隊員に抑え込まれ身動きが取れなくなった
さっさと従えこの化け物がッ
仰向けにしろ!
手足をしっかり押さえろ!
隊長は組み伏せられた雪に警棒を振りかぶり
雪の顔面を数発殴りだした
人間様にッ!化け物がッ!逆らうなッ!
分ったかッ!
ぐっ・・はっ・・・はぁっはぁっ・・・
ふぅ・・お前らもやれ
殴り終えた後、部下にそう告げると
指示を受けた部下は機械のように従い警棒を取り出し顔面を両手で押さえている雪を囲み
隊長と同じように殴り始めた
顔面を、胸を、腹を、腕を、足を、全身くまなく殴り尽くす
辺りには血が飛び散り、肉を叩く音、骨折れる音、雪の叫び声が辺りに木霊した
やがて呻き声も聞こえなくなり
隊員が殴り終え雪から離れると、そこには目も当てられない姿がその場に転がっていた
顔は晴れ上がり片目は潰れ
両腕両足は不自然に折れ曲り
身体の至る所から出血していた。
状況終了
そいつを回収しろ
引き上げるぞ
おい、お前ら俺の友人から離れろ
誰だ!貴様!お前ら!こいつをうt
ボトッ・・・・・ボトッボトッボトッ
隊員たちは立ち尽くした
突然現れた男を撃とうとしたとき
隊長の両腕が落とされたと思った時には
この場に居る全員の両腕が隊長と同じように落とされた
お前ら運がいいな、こいつだったら
首を飛ばしてる
人間であることが幸いしたな
お、俺の腕がぁぁぁぁぁ!!!!!!
血が出ないようにしてあるが、一生そのままだ
傷口周辺の神経を死滅させた
サイボーグ化はまず無理だ
精々嚙み締めろ人間
男は雪を抱きかかえ割れた窓から飛び降りた
残された全員が両腕が無くなってしまった事に絶望し放心していた。
数分後
オートドライブが主流のこの時代
破棄ガスをまき散らしながら100を超える速度で
男は車を走らせていた。
倒した助手席に血だらけの雪を寝かせ
声を掛け続けた。
雪ぃ!すまん遅れちまって!すぐに帰るからな!分かるか?アジトだ!
こ、こひゃりゃき・・・
雪?しっかりしろ!
あにょひひょたひは?
あいつらは殺してない!
お前の嫌がることはしてこなかったぞ!
歯が折れているせいか上手く発音ができない雪の言葉を汲み取り返答し続けた
コカラギはその後も声を掛け続けた・・・・