遼東半島租借
張居正は頭を抱えていた。
(いゃ、こんな事は宰相である自分の判断能力を超えている。皇帝にお伺いすべきだ。しかし皇帝は未だ齢20歳、国土の一部を借受たいなど懸案する事すら冒涜の誹りを免れまい。それに若齢とはいえ万暦帝は既に只者ではない。)
EA-18G グラウラー:空母ジョージ・ワシントンの搭載機3機が紫禁城の上空を爆音と共に旋回する。さらに低空で建物スレスレに侵入する。無論、迎撃出来る高射砲はない。しかし前回のカルバリン砲で手痛い被害を受けた米軍は警戒を怠らない。少しでも危険な要素は排除する必要がある。
前回の砲弾事件で米軍からは極めて高圧的に明国政庁に対して無意味な戦闘は避けるよう通達がなされた。
張居正は怯えながらも、飛翔物体を見ながら思う。
(一体全体、彼らは誰なんだ。何故、我々が、かような屈辱的な命令を受けねばならない。この世界に、我々、漢民族以上の存在があるのか。
いゃ、事実を受取め無ければならない。我が目前に圧倒的な火器があり、さらに空を駆け抜ける鋼鉄の飛龍がいるではないか。)
世界最強の軍用ヘリAH-64アパッチ3機が紫禁城の広場に着陸する。米軍としては軍事的な脅しのつもりだったが、普通の物資輸送用の大型ヘリの方が良かったかもしれない。科学力が違い過ぎると兵器性能が理解不能なため脅しにさえならない。
最初に降りてきた迷彩服とカービン銃の海兵隊員が10名が隊列をなす。
次に濃紺のテーラードジャケットの3人が現れる。司令官と副司令官、そして制服の上からでも、鍛え抜かれた筋肉がハッキリと判る隊員であるが、傍目には彼が最高指揮官に見えるだろう。そうゆう人員の配列である。
張居正と護衛数人がジャケット組3名と対面する。なんと実に驚くべき事に3人を一瞥した張居正はすぐさま左に位置するリッキー・ラップ中将に深々とお辞儀をした。
遼東半島の要衝の港、鉱山、炭鉱、及び油田の探索と開発の合意が成立したのはその日の晩餐時。そして調印は3日後であった。張居正の強権の成せる業である。