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文禄の役 4 李舜臣の喫水線 3

文禄露梁海戦の話は今回で終了ですので、かなり長くなりました。申し訳ありません。

挿絵(By みてみん)

安宅船


挿絵(By みてみん)

露梁海戦




史実では李舜臣の後任の水軍統制使・元均が1597年7月の漆川梁海戦で戦死した。李舜臣が再任された時、朝鮮水軍には僅か12隻の戦船しか残っていなかったと言われる。露梁海戦が1598年11月なので李舜臣がいかにして短期間で戦力を回復したかは謎である。

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(転移世界1593年11月)


朝鮮軍100隻、明軍400隻

秀吉軍は物資輸送船を改装した500隻

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11月18日未明、露梁海峡を抜けようとした島津義弘軍200隻が挟撃される。しかるに島津軍の樺山久高は突破し李舜臣の水軍と相対する。


李舜臣:「まんまと罠に掛りおったわ。囲め!!」


島津の軍船が南方の朝鮮軍の激しい攻撃に晒され、北方の明水軍側に逃げて浅瀬に乗上げる。明水軍はほとんど傍観者である。他国の戦に積極的に参加はしない。


島津の船団を追うように残りの秀吉軍300隻が海峡を越える。包囲されていた順天城の小西行長軍100隻も撃って出た。明・朝鮮水軍の西に廻る。

罠に嵌めたつもりの李舜臣が逆に包囲される。島津軍の座礁は偽装であり直ぐに態勢を立て直し明水軍に対峙する。


李舜信:「明軍は何としている。狼煙をあげろ。」


李純信:「明軍が動きません。」


李舜臣:「なんと!!陳璘(ちんりん)めが裏切ったか!!奴の船に鉄砲を射かけい。」


李純信:「止めた方が良いと思われます。」

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李舜臣の朝鮮水軍は、北より島津軍200隻、東に小早川秀包ら300隻、西に小西行長軍100隻に包囲され絶体絶命となる。ただし島津軍は明軍に足止めされた布陣となる。小西行長軍も海戦には不慣れで装備も心許ない。それでも多勢に無勢、李舜臣の軍船は70隻程になり、李舜臣も銃弾を脇腹にあびていた。


李舜臣:「我ら救国の命により此処まで戦えしが、我が戦術の(つた)さ故、かような事態になった。愛国の我が同胞には千回の許しを乞うても足りぬ。、我が白髪首を献上する故堪えられよ。」


李純信:「主将!何を弱気な事を申される。戦いは未だ始まったばかりにて、我らの勝利無くとも後の世まで語り継ぐ戦いと致しましょう。」


李舜臣:「すまんだ。李純信。(いささか)か弱気になった。船を回頭し東の船団に迎え!」


李純信:「全艦!旋回せよ!目標、右手の倭寇、フランキー砲に玉を込めよ。焙烙玉(ほうろくだま)を用意せよ。白兵戦の切り込み用意!」


決死の覚悟の最後の朝鮮水軍は、小早川秀包水軍に向け櫓を漕いだ。そして敵船団の300メートル先にて左旋回、脇腹を向けた。全砲弾を発射ようとした刹那、南側より水飛沫(みずしぶき)が近付いて来た。


李純信:「なっ、何事なるか?」

 

決死の朝鮮水軍船の脇腹に水飛沫がぶつかる。櫓がスッパリと切り取られ、さらに水飛沫はそのまま北の明船に向かう。明船は帆船であるゆえ櫓も少ない。


李舜臣:「何事じゃ、あの水飛沫(みずしぶき)は?、小型船?いや、あれなるは噂に聞く倭寇の曵船(ひきぶね)か?」


船室で脇腹の鉄砲傷の応急処置を受けた李舜臣がよろけながら艦橋に姿を表す。


李純信:「なんで御座いましょう?初めて見ますが。」


櫓を切断された衝撃で船は狙いが定まらず。発砲を断念せざる得ない。ただし小早川秀包水軍からの砲撃もない。


小早川秀包:「始まるぞ、村上水軍の力、目に焼き付けてまいれ。」


小早川秀秋:「ははぁ、判り申したが、敵船は如何致しましょう。」


(よわい)12歳の小早川秀秋が乗船していた。


小早川秀包:「(かま)わぬ、あの距離からでは玉は滅多に当たらぬ。」

― ― ― ―


(村上水軍連合軍・精鋭部隊)


海戦が始まって1時間後の話である。

小型戦闘艇母艦上の艦橋に村上景子(むらかみきょうこ)はいた。正確に言うと小型戦闘艇の母艦であり、全長220メートル、全幅32メートルの小型タンカーを改造したものである。

全長9メートル 全幅2.7メートルのフィッシングボートを改造した小型戦闘艇を12台積んで露梁海峡の南の南海島の南西、海峡の出口で戦況を見ている。海峡とは言え水の流れが緩やかであり水深が浅く、それ以上は戦場に近づけない。


村上景子:「小型双刃艇(そうはてい)、3番から6番まで敵右翼、7番から12番まで敵左翼に中速度にて進行せよ。」


因島村上水軍の頭目の村上景子が指示を出す。決して、(全艦発進、全速力にて敵船を殲滅せよ。)などという雑な命令はしない。常に予備戦力を残すのが司令官の責務である。


小型双刃艇(こがたそうはてい)喫水線上(きっすいせんじょう)に僅かに湾曲した可変式の刃を携えている。可変式と言っても側面水面下に収納した刃が展開すると水平方向に翼の様に開く。決して船体から水平に出てくる仕組みではない。


海戦々場の誰もが気付かないが奇妙な鳥が旋回している。偽装した小型ドローンである。航空機の使用は制限されているからだが説明は省略する。


村上景子:「朝鮮水軍は櫓を切り足止めした(のち)、明船攻略に進め。李舜臣を殺すでないぞ。」


笛吹優子(ふえふきゆうこ)「いたみいります。」


村上景子:「気にいたすな。所詮、李舜臣は殺しても死なぬ。定め有る者なればな。」

― ― ― ―


船外発動機搭載の小型双刃艇が明水軍の大型帆船の前方あるいは後方より時速40キロ(22ノット)で駆け抜ける。当時の帆船は時速4〜7ノットであるから恐ろしく早い。


明帆船の側方に接触して、そのまま駆け抜ける。


明水軍提督・陳璘(りんちん):「なっ、何事だ。」


明水軍将官:「はぁ、体当たりかと思われましたが僅かに接触してすり抜けて行きました。」


居合い切りの達人に切られると胴体を真っ二つにされても、暫くは気付かないと言われるが、漫画の世界の俗説と思われる。

明船が小型双刃船に喫水線で10メートル横に切られたが(しばら)くは浸水すら僅かである。


8隻の小型双刃船が、それぞれ10隻ずつの明軍帆船の横をすり抜けた頃合いに順次浸水が始まる。


明水軍提督・陳璘:「何事だ。何故、我が船が傾く。」


提督船を含む80隻が喫水線で水密区画を切られたのである。


明水軍提督・陳璘は辛うじて小型船に乗り移る。


陳璘の目の前で信じられ無い光景が展開される。小型戦闘艇が次々に明船の側面を切り裂いていく。小型船にて海水面に近い位置だからよく判る。

銀色に輝く翼を持った飛魚が水面を自由自在に駆け巡りクジラの腹を切り裂くにも似ている。


水兵達が海に落ちるが、小型双刃艇の進路に当たった者も少なからずいる。水面から必死にもがいて浮いていた部分が一瞬にして宙に飛び海にドブンと落ちる。人間の頭部は重たいので、そのまま海底に沈む。そして主を失った胴体だけが漂う。


時間にして30分たらずで明船は全て転覆するが木造船であり、空気層が残っているので沈まない。辛うじて小型船に乗船した者も小型船を再度切り裂かれ、さらに肉体を切り裂かれ(むくろ)()す。

― ― ― ―


村上景子(むらかみきょうこ):「それまでに致せ!もう良い!」


艦橋のマイクに景子が震えながら作戦終了の指示を出す。


笛吹優子(ふえふきゆうこ):「村上頭目様、如何されました。顔色が悪う御座います。医務室でお休みになられては如何(いかが)でしょう。」

― ― ― ―


小型戦闘艇母艦の医務室


笛吹優子:「お目覚めですか?李舜臣様。もう大丈夫です。」


李舜臣:「儂は生きておるのか?してここは何処じゃ、いやもはや死して、黄泉の国とやらか?それにしては眩い。」


笛吹優子:「いいえ李舜臣様、鉄砲玉は抜きまして縫合いたしました。(しばら)く安静にする必要があります。」


李舜臣:「して、ここは何処じゃ、いゃ、戦の(ゆく)えは、儂は生きておるのか?、ソチは何者じゃ?、何故言葉が通じる?」


笛吹優子:「そんなにいっぺんに聞かれても困ります。私はユミン(朝鮮語: 유민)と申します。貴方様は救国の英雄にて、役割が有るゆえ生かされております。」


李舜臣は再び眠りについた。それは奇妙な眠りだった。そして妙な夢を見た。自分が映画の主人公とやらになって日本と戦っている夢だった。


※小型双刃艇、正式名称は(こがたそうとうてい)であったが掃討艇と区別をつけるため(こがたそうはてい)となった。





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