影武者 豊臣秀吉 8 千利休と茶々
久々の信長登場です。一般的に残虐な男と解釈されていますが、本小説では改革者ゆえ旧勢力から疎んじられたためと致します。
1591年4月1日、集栄社から「戦国の美妃」が出版された。
初版は現代日本は5000円にて10万部、輸出版が銀1匁にて10万部、戦国日本版が200文(1万円)にて1万部であるが発売日が急遽変更となった。無期限延期となったが、どこからか流出した。無修整版なので闇ルートにて新旧日本で高値にに売買された。
堺に帰った千利休は窮していた。織田信長からの呼び出しに苦慮していたのである。問題は信長が(それ)を知っているかだが、利休は五分五分と読んでいた。発売から日も浅く、信長が美しく変貌した茶々の顔を(確実)に見知っているとは限らない。
信長の呼び出しに応じなければ即座に死罪だが、利休はバレてもシラを切り通せると踏んでいた。
(安土城)
織田信長:「利休殿、よくぞ参られた。早速であるが、先日の九州での話を聞かせてくれ。」
千利休:「まずは豊臣秀長殿ですが、やはり病死に間違い無きものと推察します。秀長殿は石田三成と争っていましたが、近年、病がちにて心労も多く、卒中にて死去と断定いたします。」
信長に対して中途半端は言い方は出来ない。
織田信長:「秀吉の唐入りは如何がなっておる。」
千利休:「唐入りとは諸将への陣触のみの建前にて、李氏朝鮮への略奪が目的と存じます。なぜならイスパニアを通じて明に多量の物品が献上されています。東夷国(現代日本)からの物品にて、デーブイデーやシーデーなるもの、またクォーツ時計などに御座います。」
織田信長:「船外発動機は如何がしておる。それとデーブイデーではなくディーブイディーじゃ。」
千利休:「しかと心得ます。船外発動機は明には渡って無きものと心得・・・いやしかと相違御座りません。」
織田信長:「うむ、船外発動機の件は当方でも調べておるゆえ、そう畏ばるな。」
千利休は信長の穏やかさに少し安心して気を許した。(やさしくおなりになった。)内心で呟く。
織田信長:「ところで利休、近頃、京都界隈でこの本が話題となっておる。」
信長は(戦国の美妃)を利休に差し出した。利休の全身が総毛立った。
千利休:「ほほ~~、これは如何なる本に御座いますか?やはり東夷国の物で御座いますか。」
織田信長:「高かったぞ、、なんと2貫(10万円)もした。しかと見るが良い。」
千利休:「拝見いたします。」
利休は一枚目からゆっくりページをめくる。内心の動揺は表さない。流石であるが相手は信長である。
千利休:「なんとも美しき女将に御座います。しかも一糸纏わぬ裸体とは。」
織田信長:「さもありなん、誰かに似ておらぬか?」
千利休:「失礼ながら・・お市様に御座いますか?」
織田信長:「馬鹿を申せ。市は齢40をとうに超えておる。」
千利休:「それでは誰と申されます。」
利休は信長の言わんとする事を十分察しているが知らぬ振りをする。それは信長も同じであるが、腹の探り合いにて無駄な時を使う信長ではない。」
織田信長:「茶々じゃ、お主、先般、肥前名護屋に行った時に会ておろう。如何じゃ?儂は茶々とは秀吉に嫁入りした3年前から会っておらん。」
千利休:「ははぁ、茶々様ですか?確かに似ておりますが、私が会いました茶々様とは別人かと存じます。第一、この女将は生娘にて子供を産んだ事が無きと思われますゆえ。」
織田信長:「そうであるな。鶴松は元気でおったか。」
千利休:「それが、お身体が弱く臥せっておられ、お目に掛れませなんだ。」
織田信長:「世の中には似た女子もいるものじゃ。聞き流せ。」
千利休は切り抜けたと思った。そして思い出したように(戦国の美妃)のページをめくる。全裸の茶々と戦国武将達の集合写真の箇所で信長が問い掛ける。
織田信長:「そこに、お主に似た者がいるが、この世には似た人間が3人は居ると言うが誠であるな。」
千利休:「あっ、誠に御座いますな、しかるに拙者の方が些か若こう御座います。」
織田信長:「言うたな利休、だがな帥も儂も年をとった。自分では若いと思っているがな・・・」
利休は(戦国の美妃)から話をそらし、信長の機嫌をとる雑談を考えたが止めた。信長には不要な事だ。
織田信長:「利休殿、安土までの遠路ありがたき事じゃった。蒸気機関車は便利じゃろう。ただし石炭がなかなか手に入らぬゆえ秀吉まかせじゃ。」
千利休:「石炭の採掘も大変だと聞き及んでおります。」
織田信長:「本日はここまでといたす。身体をいとえよ。今度の4月21日が厄日と心得えよ。」
利休はギクリとした。信長が(魔王)と呼ばれる由縁を知っていたからである。イスパニアの商人は信長の事を(オシリス)と呼ぶ事がある。生死を司さどる神の名である。