上杉景勝と森蘭丸 5
長編の「上杉景勝と森蘭丸」完結。両名とも、特に上杉景勝は登場しなかったが、寡黙な男なので理解されたい。なお、現代日本から上杉景勝、直江兼続、真田昌幸、お市様の助命嘆願が出ていた事を付け加える。
1582年天正10年9月10日、記念すべき日が来た。
「ドド〜ン」魚津浜に寿司屋の新装開店花火が打ち上げられる。天神山城からもハッキリわかる。
天神山城城主:「何事じゃ、信長の大筒か。」
守備兵A:「いえ、威嚇の様な狼煙のような?」
天神山城城主:「えぇ〜、判らぬ、物見を出せ。」
(魚津浜の寿司屋)
領民A:「なんじゃ、弁当が60文、そりゃ、ボッタクリじゃないか。いらんわい。」
ここで1文を現在価値で50円とする。60文は現在価値で3000円、安い米なら10キロ相当である。さらには大工の日当は100文、これは高給取りである。外食1食平均なら10文が相場だったと言われる。
商人B:「ふむふむ、確かに高いが上方では近頃、物の値段が上がっておる。試しに1折頂こう。」
商人Bの廻りには胡散臭そうな連中が集まる。
商人B:「なんと生魚を乗せておるのか。大丈夫かな?
この醤油とやらをつけて食すのか。では頂こう。」
覗きこんでいた連中に見られながら、商人Bが鯛の握り寿司を食べる。商人Bの表情が変わる。
商人B:「これは何と、何と言う食べ物か?」
領民C:「なんだどうした。美味いんか、不味いんか?」
次に、商人Bの食指は、鮑、ブリ、越前蟹、ウニ、赤貝、コハダ、玉子と進む。商人Bは無言でひたすら寿司を味わう。
領民D:「白飯の上に刺し身とは奇っ怪な、それにしても、まさか卵を焼いたモンまで有るとは。」
当時は卵焼きは貴重であった。というか、存在自体が疑わしいくらいだ。領民Dが知っていたのも奇跡に近い。
商人B:「美味い、まさしく至極の味だ。この世に、かような食物が有るとは、まさしく至極じゃ。」
至極の意味は不明だが、金の有る商人達が競って大金を払い買い求める。青苧を売って、たまたま銭のある領民も米や日用品を買う金をはたいて買ってしまった。
作業員A:「お買い上げの皆様にお渡した信長様カードですが、皆様からお預かりした消費税が記録されております。どうか大切に保管して下さい。領主様への納税時に減額されます。」
商人&領民:「なんじゃ、そりゃ?」
作業員A:「織田信長様に納税した税金は上杉景勝様に払わなくて良いという事です。」
商人&領民:「なんと、あの憎たらしい侍共に銭を渡さんでも、信長様が守って下さるのか。有り難い事じゃ。」
一斉に歓喜の声が起こる。些細は判らないが信長様カードの似顔絵が、全ての免責と思われたようだ。民間信仰とはそんな他愛もない偶像崇拝と大差ないようだ。
寿しは売れに売れた。「美味い」という問答無用の事実が、当時の生食回避を押し除けた。
無論、現代の冷凍技術を持ってしたら、ほとんどの寄生虫はアニサキス以外は死滅できる。
なお戦国越後に生食ブームと食中毒が大流行するのは、衛生観念の無い庶民に広がった数年後で有る為、その話は割愛させて頂く。
森蘭丸:「これで越後の銭は我々の物となります。」
織田信長:「ふむ、よく判らないが、蘭丸の言う事に間違いは無かろう。」
森蘭丸:「はい、上杉景勝の悔しがる様子が目に見えるようです。」
織田信長:「さようか・・・・・。」