111 1594年6月20日 エジプト記
エジプトに行きたい。インドのゴアにも行きたい。金が無い。しかも海外は物価高た。日本から出られない。
エジプト人の労働者を驚かせたのは食事だけでは無い。ネコ車と鉄製スコップが16世紀のエジプト人労働者を驚愕させた。
ネコ車に関しては最初は戸惑っていた。重たい土砂や砕石を乗せているから腕に力を入れてヒックリ返す者が続出した。
だが要領は簡単である。ダラリと力を抜いた腕で支えるだけである。足場板の上を転がしてベルトコンベアに移す作業であるが、慣れると疲れない。楽しくもある。
合成ゴムとベアリングのタイヤ。リヤカー、ネコ車、自転車、人力車に使われている。
移転世界の地上の物流を一気に効率化して、さらにガソリンも運転免許もいらない。
これらは移転世界で爆発的に売れている。現代日本でも転移後の石油の逼迫で見直され、使うと非常に便利だと判った。リヤカーは50年前までは普通に道路を走っていたが、道路交通法が改正されたのか見なくなった。焼芋屋が使っているくらいである。
とはいえ、太古にピラミッドやスフィンクス、さらにはファラオの運河まで作ったエジプト人がスコップやネコ車に驚くとは、こちらの方が意外である。
さらに意外なのは古代文明の創始者を生み出したエジプトやギリシアが他国の属国になっているのが不思議としか言いようが無い。
日本人は基本的にソクラテスやアリストテレスを、こよなく尊敬しているのである。
エジプト人は近頃、バナナをよく食べる。イスバニアからもたらされたが、元は日本の沖縄産である。
種無しバナナと重宝されている。日本では甘くするのにエチレンガスを使うが16世紀にはそんな物は無いので熟れた物から食っている。
それとシャインマスカットが持ち込まれた。さらに
明治時代に大久保重五郎によって見出された白桃も栽培され、地中海性気候のせいで恐ろしく甘い。ただし病害虫に弱いため農薬が欠かせないが16世紀には手に入りにくい。そのまま食っているが大丈夫なんだろうか?
エジプト庶民から見たら高級品のバレンシアオレンジが濃縮還元ジュース用に栽培されている。全てはが日本への輸出用である。厳しい品質管理に合格した物がジュースになり、不合格品がエジプト庶民の口に入る。オレンジジュースは日本では水代わりに飲まれている。ただしエジプトで飲むストレートジュースには遠く及ばない。
エジプトで異常な商売繁盛しているのが建具屋である。スエズ運河の労働者はエリートである。なんせ日本円を稼いで来るのだから凄い。世界の通貨は基本的に銀だが、日本の銀行が発行している円なら問題は無い。
そのスエズ運河労働者が稼いできた円や、バレンシアオレンジを売った円が、網戸付木製硝子窓に生まれ変わっている。エジプト人にとっては高級品で一家に2枚あれば豪邸になる。勿論、アルミ複層断熱サッシではない。
窓を開けて網戸にして蚊取り線香を焚けば、この世の天国である。エアコンや空気清浄機は勿論無いが、16世紀では当たり前である。
とはいえ、日本人技師たちの家は自分達の家とは比べ物にならない。水ばかりか湯まで出る水道、エアコンと言って暑さ寒さと無縁の生活、ウオシュレット付水洗トイレは嫌な虫や匂いも無い。さらには風呂にシャワーなど信じられない話である。
エジプトの人口は西暦14年には700万人だったが、1600年には250万人になっている。世界の中心からオスマン帝国の属国となった。衰調が著しい。
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1594年6月20日 インドのゴア
世界政府樹立に向けてのインフラ整備が急ピッチで進んでいた。建築物は総3階建ての木造ガルバリウム鋼板葺きの四角い建築物ばかりである。
いささかの装飾も無い実用一点張りである。現地生産で調達しやすい物で作るから仕方ない。ガルバリウム鋼板は鉄板に亜鉛とアルミをメッキしたもので従来の亜鉛メッキと比べと遥かに耐久性があり、塩害が無ければ耐用年数は30年前後ある。
外壁は窯業系サイディング材12mmである。断熱材は無くいきなり内壁は構造合板4mmだけである。壁紙なんて必要は無い。建築基準法も大航海時代には施行されていない。
道路は石灰を泥や砕石と混ぜてローラーで転圧すればリヤカーくらいなら大丈夫である。
兎に角、物資は現地調達を基本として、同じ仕様で、あれこれ考えない。高度経済成長時の考え方である。
窓は木製で透明硝子が単板3mmだけだが網戸は有る。
床は板張りでオイルステイン塗り、最初は臭くていけない。
と言った具合に現代日本から見たらお粗末であるが16世紀では超近代的な町並みが出来つつある。
ヨーロッパが石張り建築だらけの様な気がするが、たまたま風雨や地震で壊れ無かった建物が石積だっただけである。
それと遂に飛行場が出来る。流石にアスファルト舗装の2000m級である。現代日本・東京と世界政府・ゴア、9000kmを15時間で結ぶ空路が開かれる事になる。人員と薬剤の空輸が目的である。