110 1594年6月15日 地中海沿岸諸国
現代文明を戦国時代や大航海時代に持ってきても採算が合わない。ボランティアみたいなモンである。
帆船にとって地中海に吹く風が厄介である。季節に関係なく、風向きが同じである。特にジブラルタル海峡とエジプト湾岸に吹く風は、行きは良いが帰りはどうもならない。どちらが行きか帰りかは、坂道の登り坂と下り坂の例えと同じである。アッサリ言うと地中海が底となる。日差しが強いから鍋の湯が沸騰して少なくなるのと同じ理屈である。
うまい具合に海流を掴めば良いが、なかなか難しい。特にイングランドの船がジブラルタル海峡を越え大西洋に出るのは海流も逆流であり至難の技だったようだ。
その地中海を3本マストの改造ガレオン帆船が行き交っている。
ディーゼル機関のスクリューを外付けで取り付けたハイブリッド帆船である。
ところで、なぜディーゼル機関なのか疑問を感じる方もおられる。時代の流れからすると蒸気機関だと思われるだろう。
時代が下って、ペリーが浦賀に来た時に4隻中2隻だけが蒸気船でしかも帆を持つ汽帆船だった。旗艦のサスケハナは全長78.3メートル、全幅13.7メートルの(小舟)である。
航路はアメリカ東沿岸から大西洋を渡り、喜望峰からインド洋と恐ろしく遠回りだった。各港で補給が欠かせないから仕方ない。
アメリカ西海岸かメキシコから来ればいいが、大量の石炭と真水がいる。とても航続距離が持たない。
当時、既にメキシコから帆船でマニラ航路が有ったが、そちらの方がマシかもしれない。
ディーゼル機関とGPSと造水機が徐々に帆船に搭載されていった。何故、帆があるかと言うと【風と潮流はタダ】だからである。全行程で軽油を使うと商売にならない。それに世界政府の方針で軽油の供給を厳しく制限している。
この時点で、石油はサハリン、遼東半島、ブルネイのみであり、中東からは産出されていない。
来たるべきテイア対策と、現代日本が中東の大油田の権益を確保してないため、隠密裡に事を運ぶ必要がある。さらに帆船が大航海時代の地中海には似合っているとの上層部の判断によるところが大きい。早い話が好みの問題である。
それと大問題が発覚した。ディーゼル機関とGPSと造水機が買えない地中海航路の船舶主ばかりである。原因は地中海沿岸諸国がフランスを除いて、異常に貧しい。
スペインとポルトガルはインドとの交易で銀を蓄えていたが、イタリアやエジプト、ギリシアは貧しい。オスマン帝国が最初にバルカン半島を征服したが、おそらく税収どころの騒ぎじゃ無かっただろう。地中海気候と言うと温暖で良さそうだが、降水量が少なく、特に夏に雨が降らないから穀物が出来ない。灌漑する河川もナイル川以外は貧弱である。オレンジやブドウは少雨だから糖度が増すが主食にならない。
酷いのは今も昔もギリシアである。ブドウを作ってもイスラム教の教義で輸出用の酒が作りにくい。ギリシアはギリシア正教が認められているから酒は大丈夫だが支配層のオスマン帝国がイチャモンを付けるからやりにくい。
スペイン・ポルトガルも基幹産業の農業が無茶苦茶悪い。交易船で儲けた金銀も食料品購入でフランスから思い切りボッタクられている。
イタリアは北部に穀倉地帯が有るが、南部は貧しいが見栄だけは立派なので余計に悪い。
エジプトはナイルの恵みで農業が活発だがナイル氾濫で元も子も無くなる。アスワンダムは先の話しだし、たとえ日本が作っても民族主義者が金も払わず接収されるだけだ。
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鈴木建設・浜地知安部長:「スエズ運河って、開通する前から赤字確実みたいですね。」
五郎洋建設・水野専務:「21世紀は1船あたり通行料が3000万円だったけど無理ですね。」
浜地知安部長:「それってボッタクリでしょ。パナマ運河は水門とか複雑で真水も馬鹿にならないけど、スエズ運河は平らだし。」
水野専務:「どうやらこちらのスエズ運河は10万円とれるかどうからしいです。積荷も少ないから仕方ないです。古代スエズ運河は砂に埋まって浚渫代がかさんで駄目になったみたいです。現代でも管理費が出ません。しかもイングランドが軽油代安くしないと喜望峰回りで良いと言ってます。」
浜地知安部長:「イングランドやオランダはジブラルタル海峡を通らないと本国に帰れないから軽油代もかなりかかりますね。それと南アフリカを植民地にしたいらしいです。」
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地中海側工区の食堂
オスマン帝国のエジプト駐在員:「だからぁ、豚を使わないトンカツや豚骨ラーメンにメニューを変えて下さい。それとノンアルコールビールにしてください。」
食堂のチーフ:「判りました。チキンカツに鶏ガララーメンとノンアルビールに変えます。」
この後、イスラム教からキリスト教に改宗するエジプト人が続出した。