105 1594年4月3日 斬き裂かれた宇宙
だいたいタイムスリップ小説は歴史の改変がテーマになる。普通の異世界転移小説はしっかり元の歴史に戻っている。ただし元の歴史が、未来で断絶したらどうなるんだろう?
波紋干渉
1594年4月3日 横須賀
A・ホーキングは困っていた。ジョージ・ラウル4世に故郷に帰る方法が有ると言ってしまったからである。リッキー・ラップ中将は半信半疑だが、ジョージ・ラウル4世はすっかりその気である。
確かに転移前世界のL5に物質の創生が有った。【もう一つのビッグバン波紋】が太陽系を襲ったのは明白だとする。
波紋干渉が【既存の波紋】を分断した。それによって【世界の谷間】が出来て日本列島が【世界の谷間】に落ち込んだのがタイムスリップで良いのだが・・・。
日本列島のみならず、海外在留邦人130万人が選択されて転移など物理現象では有り得ない。さらに15世紀の地球に日本列島が綺麗に【軟着陸】など考えられない。
A・ホーキング:「3つの可能性が考えられる。【魔法】か?【新たなる創生】か?【世界が仮想空間】か?」
いずれにしても、何らかの【転移の筋書き】と【帰還方法】を提出しないとジョージ・ラウル4世に絞殺されそうだ。
A・ホーキング:「やはり【特異点】が必要かな?人為的特異点・・織田一族・・」
本来、滅ぶべき種族が転移世界では生き残っている。すなわち彼らの為の世界で在り、彼らが創造した世界で良いのではないか。A・ホーキングは簡単に結論を出した。織田一族、織田信長、信忠、信孝、それと茶々・・
A・ホーキング:「やはり、今度の転移の特異点は茶々さんにしよう。うん、それが良い。」
A・ホーキングが机の引き出しを開けると一冊の写真集があった。題名は【戦国の美妃】、茶々のオールヌード写真集である。天才物理学者の双眼が異様な眼光を放った。
「進み過ぎた科学技術は【魔法】と変わらない。」、23世紀の天才物理学者が言った名言である。
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1594年4月6日 マイニラ
船外発動機を搭載した曳船と帆船が行き交うマニラ湾に注ぐパシッグ川に面したサンティアゴ要塞にイスパニア総督府がある。
曳船には船外発動機が使われていたが、遠洋航海の主役は3本マストのガレオン帆船である。
イスパニア・フランシスコ総督:「なぁ、現代日本にディーゼルエンジン付きの交易船の借受は出来ないか?」
イスパニア兵士A:「それですが、何度も頼んでますが歴史介入になるから駄目だそうです。」
フランシスコ総督:「現代日本が駄目なら在日米軍は何とする。」
イスパニア兵士A:「在日米軍はイングランドの子孫にて、敵対するイスパニアには農産物以外は協力出来ないそうです。」
フランシスコ総督:「なんと、それではフェリペ2世(67歳)がエリザベス1世(61歳)に頭を下げたらいいのか?」
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1594年4月7日 東京大学
A・ホーキングは喋りだしたら止まらない。先ずは宇宙創世から始まるから先が思いやられる。
ただし、ここは世界の最高学府・東京大学である。転移により世界29位から一気にトップなった。
A・ホーキングは全世界3位のマサチューセッツ工科大学出身であるから退屈でも聞かねばならない。
A・ホーキング:「小石が・・(中略)・・時間振幅・・(中略)・・波紋宇宙論・・(中略)・・これがタイムスリップの大まかな説明です。」
松平定信:「それで証拠は有るのかね?」
松平はN2HKから、在日米軍の物理学者が、大変な話をすると言うので東大に来ている。
A・ホーキング:「証拠はこれです。転移前のハップル宇宙望遠鏡とJW宇宙望遠鏡の観測データです。」
松平定信:「何ですか?このボャとした星雲みたいな物は?」
A・ホーキング:「それは転移前にラグランジュ点L5に形成されつつ有るテイアです。火星くらいの大きさになると軌道を離れて地球に衝突します。」
流石に退屈そうだった東大教授達も色めき立つ。
松平定信:「それを先に言ってください!なんでこんなモンが突然現れたんですか?」
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1594年4月9日 N2HK会長室
枠田麻由子N2HK会長:「俄に信じられない話ですね。」
松平定信:「その俄に信じられない話が、12年と5ヶ月前に起きています。」
枠田麻由子:「それでは、私達はテイアから逃れて来たのですね。」
松平定信:「いいえ、逃されて来たのです。」
枠田麻由子:「だれに?」
松平定信:「勿論、判りませがA・ホーキング申しますところによると【特異点】が呼び込んだとの事です。」
枠田麻由子:「【特異点】?」
松平定信:「A・ホーキングによると【特異点】は織田一族、信長、信忠、信孝、そして浅井三姉妹、特に茶々様、だそうです。」
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どうやら転移世界の時計が、突然、早くなりそうである。抗すべき敵は梅毒からテイアになった様だ。