101 1594年2月2日 名護屋城攻城戦9
すこし更新が遅れました。なかなか戦況がつかめません。
名護屋城 北から
何故、城を攻める。炸裂弾に誘導弾の攻撃、更には八咫烏による百発百中の銃弾の雨、勝てる訳が無い。わざわざ死地に留まる必要は無い。それなのに挑みかかる。そして虫けらの様に殺される。
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島左近:「密集隊型で進め!ひたすら進め!」
50人ばかりの集団が盾を構えて北側の城下部を目掛けて突入する。20式5.56mm小銃(HOWA5.56)の銃弾が盾を貫き将兵の鎧を貫通して生身の肉体に到達するが辛うじて致命傷にならない。火縄銃とは比べ物にならない貫通力だが将兵は怯まない。既に心臓が止まっていても数十メートルは前進出来るらしい。
足場の最下部に張られた構造合板とワイヤーメッシュの破損部を刀で引き剥がし、辿り着いた20名が石段に取り付くが既に5名は死んでいた。心肺停止を人の死とすると、何時死んだのか本人も判らなかったらしい。
動ける15名が刀と槍を持って進入する。火縄銃は装填する余裕も無く、既に打ち捨てられている。
城内では自動発砲の八咫烏システムは使えない。局地戦用の八咫烏もドローンが無いから、これも使えない。完全に想定外だった。壁付けセンサーを付けておけば良かったが後の祭りである。
防御する鞆幕府兵は目視で侵入者を銃殺しなければならない。なれど白兵戦では侵入者に一日の長がある。むやみやたらと銃口の前には出ない。
侵入者は鞆幕府兵に背を向けて火炎弾に百円ライターで火を付ける。転移12年目だから有って当たり前である。
投げられたのは、火炎弾又は手榴弾であるが爆発力より煙幕弾である。・・・(ボン)・・・辺りが白煙で真っ白になる。
と同時に侵入者が襲いかかる。・・・(ダダッ、ダダッ)・・・既んでのところで連射弾が侵入者を撃ち抜く。
侵入者A:「ダメだ、やはり勝てない。」
侵入者Aの意識が遠のく。既に激痛は去り永遠の睡魔が死へと誘う。
鞆幕府兵:「何故、勝とうとする。そんな武器では俺達には勝てない。」
侵入者A:「そうだな。なぜ儂は戦った・・・・。」
侵入者Aは事切れて跪いたまま骸となる。
煙に反応したスプリンクラーで1階が水浸しになる。未だに5人の侵入者が生き残っている。
侵入者達:「やめた。やってられるか。こんなモンで勝てるか。降伏する。」
侵入者は槍や刀を打ち捨てて、その場で座り込んだ。そういえば包囲軍、秀吉軍、どちらがどちらか判らない戦争である。
包囲軍は二の丸、三の丸に押し寄せる。イージス艦からの迫撃砲や誘導弾に追いやられて、むしろ城郭の方が安全だと気付いたようだ。自動防御システムの銃口から逃れれば命が助かる。
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島左近:「大砲を上に向けよ。仰角60度、目標、名護屋城上方、足場の上10メートル。」
島左近は軍事的天才である。名護屋城の防衛システムの弱点を見抜いていた。大砲のICチップステッカーを剝がして、更に名護屋城の足場防壁の弱点をも見透かしていた。下部と上部に攻略の要が有る。
そして上部の弱点に大砲が在らぬ角度で向けられる。まるで打ち上げ花火だ。
城郭の石段を入れると70メートル上空を目掛けて砲弾が・・(ドーン)・・と放物線を描いて翔ぶ。
運動会の玉入れ競技の要領である。
古来より劣勢を戦術に依って覆し、局地戦での勝利をもたらす【天才的軍師】がいる。孫氏、諸葛亮孔明、山本五十六、などである。
しかし大局を覆す事は無く、結局は多くの犠牲者を出して終わる。
今回の鞆幕府側の戦術では、少ない死傷者で豊臣軍を崩壊・逃走する手筈であった。
然るに島左近が勝利を手繰り寄せた。そのため戦国最強の豊臣軍と近代兵器が真っ向から衝突する悲劇を生じさせたのだ。
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名護屋城6階司令室 午後5時
既に開戦から7時間が経っている。なぜ長引いているかと言うと、城郭の鞆幕府側が攻撃に転じる戦力が無いからだ。自衛隊と織田信孝手勢で300人しかいない。然るにイージス艦からの砲撃と自動防御システム【八咫烏】にて圧倒的に有利である。
ここで織田信孝の近代装備の鉄鋼騎馬隊が討って出れば勝敗が決する筈だがそうはならない。
数で優る包囲軍の突入隊の波状攻撃が城の4方から有るため兵を廻す訳にはいかない。
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城の下部から発せられた砲弾が足場を乗り越え、放物線の頂点を少し過ぎた辺りで名護屋城7階の屋根にゆっくりと軟着陸する。発射時の運動エネルギーが位置エネルギーに変換されたため屋根瓦さえ撃ち抜けない。
丸い砲弾が屋根瓦を転げ落ち屋根から跳ね落ちる。足場にぶつかり再び城郭に襲いかかるが、位置エネルギーが運動エネルギーに変わっている。見事な軌跡を描いて丸い砲弾が勢い良く6階司令室の窓を直撃する。さらには綺麗な放物線での直撃弾もある。
まるでピンボールの様に城と足場に弾かれながら在らぬ方向から砲弾が襲いかかる。
織田信孝:「何事であるか!何故、ここまで大砲が到達する!あり得ないだろう。」
自衛隊員A:「砲弾です。敵は丸い砲弾を使っています。跳弾にて軌道解析が不可能です。」
織田信孝:「うぬ!丸い砲弾だと・・・(ズガーン)・・・うっ、うぬ!やっ、野蛮人めが!」
窓ガラスや機材の破片が織田信孝を襲う。額から一筋の血が流れている。
自衛隊員A:「包囲軍、秀吉軍、反乱軍、が本丸北門を突破して城郭に侵入しています。」
織田信孝:「面倒くさい、反乱軍で良い。」
自衛隊員B:「自動防衛システム【八咫烏】損耗率30%、稼働率70%。」
織田信孝:「本丸北門の反乱軍を制圧する。イージス艦にて迫撃砲、誘導弾を打ち掛けろ。それと敵の大砲をなぜ撃たせる。さっさと応戦しろと伝えろ。」
自衛隊員A:「イージス艦艦長に通達、各目標を直ちに殲滅せよ。武器の種類は問わない。」
イージス艦艦長:「飛翔兵器の使用率70%、これ以上は当艦の安全面に支障あり。」
織田信孝:「なんと、出し惜しみ致すか。それでは大砲だけでも殲滅せよ。これは兵部卿中将・織田信孝としての命令である。」
イージス艦艦長:「命令??、まぁ良い。城の自衛隊員を見殺しには出来ない。大砲発射点に向けて誘導弾を射出せよ。」
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反乱軍兵卒A:「敵船より発射光確認、誘導弾と思われます。」
島左近:「砲兵、全員退避、大砲から離れよ。・・・(グワーン、ズドーン)・・・やはりな。」
反乱軍の乱波(忍者・情報部隊)は砲弾の飛来方向からイージス艦の存在を確認している。
反乱軍兵卒A:「敵船回頭、半島の西側に進んでおります。」
島左近:「なるほど、遊撃丸から船手口か。そこに兵を集中しろ。」
反乱軍大将A:「何故に御座いますか。敵の退路を無くして何と致します。」
反乱軍の1人が島左近に食いつく。かなりの地位の有る大将クラスの人間である。
島左近:「なんと申される。みすみす敵を逃がす所存か。勝利は目の前なるぞ。」
反乱軍大将A:「勝って何と致すか。この戦に意味など御座らん。程々になされよ。」
鞆幕府と自衛隊の名護屋城守備隊を、追い詰めた島左近は解任された。代わりに反乱軍大将Aが指揮を取る。大将の名前は不明であるが終戦処理を託される事になる。




