100 1594年2月2日 名護屋城攻城戦8
ついに100話到達、名護屋城攻城戦も佳境になりました。寄せ手に島左近の登場です。
イージス艦(まや型)
1594年2月2日 名護屋城々下の屯所
島左近は考えていた。3日前の大友義統の謀反である。全く訳が判らない。織田信孝の鞆幕府軍6名により殲滅され、さらに大砲を破壊されながらも大友側が勝ちを納め、主の石田三成以下30名の諸将ばかりか、秀吉をも人質にして逃走したという。
逃走先は石見の温泉津温泉というのも奇妙どころの話ではない。石見銀山は信長と朝廷の管轄下の天領である。
それと大砲を破壊した砲撃の方向が変だ。北からとの目撃情報が多数であり、名護屋城からなら北西方向となる。
名護屋城の城郭には複数の砲台が設置してあるが、最新鋭のカルバリン砲かもしれない。ただし射程は長いが大友義統の陣地まで届くとは思えない。しかるに目標物を正確に撃ち抜いている。
大友義統のクーデター事件から3日目になる。今日が名護屋退去の最後通告日になる。島左近は異様な胸騒ぎに捕われ確信へと変わる。通信機器にて島津や小西、加藤の屯所と連絡を取るが責任者は不在である。全て石見銀山に行っている。ワントップの最大の弱点である。
AM10時、けたたましいサイレンが3回鳴った。ついに最終勧告の猶予時間が切れたのである。
それでは双方とも戦闘開始である。という理由にはいかない。戦は命のやり取りであり、普通、命は一つしかない。サッカーやラグビーの試合開始とは些か異なる。
1594年2月2日AM10時 快晴 名護屋城6階
村上景子:「なかなか動きませんね。乱波にて仕掛けますか?」
織田信孝:「うむ、こちらから仕掛ける訳にいかんからな。いゃ、軽く仕掛けてみるか。カルバリン砲
、いゃ、フランキー砲がいいかな?」
どうも歯切れが悪い。空砲を二発打つが反応がない。
茶々:「ところで、先日の竹屋鰻店での食逃げ事件の探索は如何がなっておる?何処の家中か判明したか?」
森蘭丸:「島津かと思えるゆえ、問い合わせたところ、掛け買いにて代金が即日払われました。」
村上景子:「食逃げにて、乱暴狼藉が有れば良いが、一斉に逃げたので有れば仕方ない。」
犯人隠匿なら陣所を攻められても仕方ないが弁済している。
森蘭丸:「そういえば、例の大友義統の残党に島津を責めさせては如何かと。
彼らは日向をめぐりて犬猿の中にて、豊後半国を残して欲しくば島津の食逃げ犯人を捕縛せよと通達しましょう。」
織田信孝:「面倒くさい。」
森蘭丸:「はぁ?何と申された?」
織田信孝:「面倒くさいと申したのだ。刻限が来たゆえ、退去しないなら攻めれば良い。フランキー砲に実弾を装填して島津の陣屋に打ち込め。腹も減ったし仕方なかろう。」
織田信孝は雑な男である。言動がコロコロ変わる。
栗林詩乃陸曹:「八咫烏システム起動、各ターゲット確認、殺害除外人物確認、大砲ICチップ確認、火縄銃確認、3次元配置にて各目標確認。」
自衛隊員A:「イージス艦「まや」の62口径5インチ砲と城塞砲の連動確認。発射間隔は各城塞砲3分にて4門・「まや」の5インチ砲間隔45秒」
自衛隊員B:「目標、火縄銃5000丁に大砲100門。」
信孝は間違えていたが、城塞砲はダミーであって実弾は装填されない。偽装の噴煙と音と光芒を放つだけで実弾はイージス艦「まや」から発射される。
小早川秀包の屯所
イージス艦「まや」からの炸裂弾が小早川秀包の陣所のフランキー砲を襲う。正確に着弾して砲術兵ごと・・・(ズッガーン)・・・(ギャー)・・・と盛大に吹っ飛ぶ。
島左近:「やはりおかしい。破壊力が尋常では無い。しかも間隔が正確過ぎる。」
島左近は猛々たる噴煙の中に微動だにせずに腕時計を見ている。恐るべき胆力である。
島左近:「しかも着弾に至るには砲弾が点から面に成らねばならないが、突然噴煙が上がる。あの球筋は城からではない。」
島左近はすっくと立ち上がり無線機を手にする。日本国が転移して12年もなるので、戦国大名が無線機を持っていても不思議ではない。
島左近:「各砲台兵に告ぐ。今すぐ【大砲狩3年間免除】のカードを削ぎ落とし、その場に捨てて10間(18m)前進せよ。生き残りたかったら指示に従え。」
各大名や諸侯を人質に取られた各隊は烏合の衆である。そこに島左近なる人物が指令を出した。藁をも掴む思いの兵卒には「生き残りたかったら指示に従え」の文言は絶対的である。
砲兵がカードを削ぎ落し、前進するとカード目掛けて炸裂弾が襲い掛かる。間一髪のところで命拾いする。
砲兵A:「島左近殿の指示に従え。我ら生き残りて妻子に相まみえん。」
他の兵からも「エイエイオー」という勝鬨とも思える雄叫びが名護屋城の四方に木霊する。
この時点で火縄銃3000丁に大砲60門が残っている。戦闘開始時の6割が現行戦力である。
島左近:「各砲門、名護屋城の1階中央部に集中砲火を浴びせろ。突破口を開く。」
砲弾が名護屋城の下部に集まる。足場の一部が損傷を受けるが60ミリの鋼管にて倒壊はしない。石垣が露出するだけである。
島左近:「場内への進入路は何処に有る。そこに大砲を射掛けよ。」
城内に白兵戦にて突撃する箇所を探している。
兵卒が叫ぶ。「あれなるは大手門にて石垣が切れております。」
島左近:「各隊、期を見て城内に突入せよ。進入路は必ずある。砲撃兵は味方の損害を気にせず発砲せよ。」
決死の突撃部隊が、味方の砲弾が頭上を飛び交うのを御構い無しで挑みかかる。
1594年2月2日 正午 名護屋城6階司令室
織田信孝:「奇妙だな。敵の砲撃が激しくなってきている。」
自衛隊員A:「敵の大砲の残有数は27門です。」
織田信孝:「ドローンからの映像に切り替えよ。」
自衛隊員B:「砲弾の煙で良く見えませんが、拡大しますか。」
映像が拡大される。噴煙の隙間に僅かに地上物が見える。
織田信孝:「なんと、イージス艦からの砲撃が目標物を反れておるでは無いか。」
指令室が混乱する。よもや八咫烏の連動システムにエラーが有るとは想定外である。
織田信孝:「目標設定をICチップから目視によるマーキングに切り替えよ。」
自衛隊員A:「目視にて5インチ砲の発射を続けますか。」
織田信孝:「当然だ。いや待て。砲撃では手温い、誘導ミサイルに切り替えろ。」
村上景子:「誘導弾ですと、それは協約に違反します。威力が大きすぎます。」
織田信孝:「何を言う。敵は我が戦術を掻い潜って反抗している戦上手だ。さらに此れなるは本城決戦なるぞ。敵はあのヤマト(民族)じゃ。こちらが苦しい時はあちらも苦しい。ここで頑張り抜いた者が勝利を掴める。」
村上景子:「しかるに、いや、、お辞めください。ここは和議にて豊臣秀吉軍との平和共存の道を・・。」
織田信孝:「我が最愛なる愛妻とても、此の戦はもはや止められぬ。それに私は今、戦争をしているのだよ。私の大事な時間を邪魔しないでくれ給え。自衛隊の諸君。」
織田信孝が戦闘を楽しむかの様に少し笑った。さらに少し血の気の引いた信孝の肌が蒼く見えたのは目の錯覚だろうか。
砲弾で穿たれた名護屋城の突破口に豊臣秀吉軍の精鋭が突入する。西欧式の兜や玉逸らしの鎧を着た者いる。命を捨てての特攻ではない。明日に生きるための突撃である。
待ち構えるのは八咫烏の自動防御システムの銃口である。