日本が戦国時代に転移した。
戦国時代の群雄割拠の時代に日本列島が転移してしまった。最初は何が起こってるのか 誰もわからなかった。
異変は夜明けが1時間ほど早かった。幸運にもGPSも衛星画像も反応した。どうやら日本がカムチャッカ半島の南端に転移したようだ。日本と一緒に転移したのは気象衛星ひまわりと日本所有のGPS衛星と通信衛星だった。
気象衛星に映し出される地球には日本が2つあった。正確に言うともう一つの日本は、樺太全域 千島列島全域 本州 北海道 九州 四国 沖縄 小笠原諸島 対馬壱岐である。
これに尖閣諸島 竹島なども含まれる。おそらく日本がかつて領土とした地域や工作物を含めて時空転位したのだろう。
樺太について少し細かく言うと カムチャッカ半島の東に 新たな 海峡を挟んで転移した。これを新間宮海峡という。
日本にとって非常に幸運だったのはサハリン油田がそのまま使えるということだ。
岸川総理:「官房長官 これは一体どうしたことかね」
官房長官:「ご覧の通りでございます どうやら 日本が時空転した模様です。」
岸川総理:「君はいつも冷静だね。まあ良い、それで各国の反応はどうかね。」
官房長官:「各国と申しますと?」
岸川総理:「米国 中国 ロシア 韓国 台湾だよ。」
官房長官:「お言葉ですが総理、米国はまだ存在しておりません。ロシアも未だ遥か西方の国です。台湾という国はまだないようです。中国は今だ明王朝です。韓国は李氏朝鮮です。」
岸川総理:「何だって、随分と情報が早いじゃないか官房長官。16〜17世紀に転位したとは初耳だぞ。」
官房長官:「我が国の偵察衛星が安土城を確認した模様です。西暦で言いますと1579年から1582年と思われます。」
岸川総理:「なんと これは物凄い時代に来たものだな。」
官房長官:「はい、私としては大変ワクワクしております。」
この後、数十分にわたり、官房長官の歴史談義が続いた。総理も嫌いではなかったが、今、国のトップが話すべき事ではないだろうと思われた。
山田一郎はスマホのアラームに起こされた。「なんか外が明るいな。」しまった寝過ごしたか。とっ思った。スマホで時間を確認した。いつも起きる時間だ。それなのに外が妙に明るい。「まあ 暗いよりはいいか。」日課の朝のジョギングの用意をして外にでた。普段と対して変わらぬ朝だった。
ふと ずいぶん 合ってない友人のこと思い出した。
「あいつも 渡米してかなりになる。商社マンも大変だが、あちらは景気が良さそうだ。」
(あなたは 北村さんのコーディネーターに選ばれました。)突然 頭の中にそんな言葉が浮かんだ。
「何なんだよ今のは?ちょっと変になったかな?」
山田一郎は気にせず 朝の散歩コースを走って行った。
日本人の海外在留邦人は130万人、そのうち永住権を持つものは60万人にもなる。今回の召喚ではその全てに転移がなされた。
北村:「よう山田 久しぶり 今回は世話になる。」
山田:「なんだ、何だいきなり。お前、米国に行ってたんじゃないのか。」
北村:「召喚されたんだよ。俺は天涯孤独でお前しか頭に浮かばなかったからお願いしたんだ。」
山田:「召喚?誰にお願いしたんだよ?全然わかんねえ。まあいい、でっ、お茶でも飲むか。」
北村:「あぁ、そうしよう。住むとこも考えないといけないし、まあ、お前には迷惑をかけない。金ならある。」
北村は笑いながらボストンバッグを開けた。日本円の札束がごっそり入っている。後から考えて非常に奇妙に思ったのだが、まあ、金には違いない。
NHK報道総局:異常事態に緊張と混乱が走る。
海外総支局長:まだ連絡は取れないのかね。一体どうなってる。
支局員:はい 米国をはじめとして ヨーロッパ総局 中南米 アフリカ 中国 インド支局 いずれも連絡が取れません。
支局員:編成局衛星放送管理センターから画像が入りました。メイン画面に転送しましょうか?
海外総支局長:なんだね?映したまえ。
メイン画面に映し出される画像:衛星画像に映し出される地球そこには日本が2つあった。
支局員:局長 これが一番わかりやすいんじゃないですか。 7時のニュースで流しましょう。それともう一つの、いえ、本来、我々がいた位置の日本列島の拡大画像もニュースにあげたらどうでしょうか。
海外総支局長:バカな。そんなことNHK会長の了解、いや総理大臣の了解も無しにできるか。
支局員:いいじゃないですか、支局長。こんなスクープは滅多に取れません それに許可を受けていたら7時のニュースに間に合いませんよ。民報に先を越されていいんですか。
それにね、今はネット時代です。YouTuberに先にアップされるワケにもいかないでしょ。準備は整っています。それじゃ、そうゆう事で。
NHK 7時の朝のニュース:「第一報が入って来ました。」
いささかの興奮をも押し殺した真実のみを伝えるNHK独特のアナウンサーの言い回しが恐ろしくもある。
枠田アナウンサー:「皆様おはようございます。 NHKアナウンサーの枠田です。 本日未明、日本史上最大の天変地異が起こりました。皆様も薄々お気づきのことと思われますが気象衛星ひまわりの最新画像をご覧ください。」
視聴者1:「なんだ 台風でも発生したのか?もうすぐ正月だぞ。」
視聴者2:「日本列島が2つあるな。沈没する心配が無くなったな。どっちが本物だ?酷い合成映像だな。(笑)」
枠田アナウンサー:「視聴者の皆様、これは CG や合成映像ではありません。先ほど気象衛星より送られた画像そのものです。何ら加工したものでもありません。」
一切の感情を押し殺した枠田アナの、正確な言葉の一つ一つは、彼女独自の報道官としての凄みを持って視聴者に伝えられる。
枠田アナウンサー:「次に民間衛星から、この世界の日本の画像をご覧ください。解像度は最大の50cm以下です。これは軍事機密レベルの解像度に相当します。」
500年以上前の日本の原風景、小さな板葺の家屋が続く、いったい何処なのか。時折、瓦葺の建物が見受けられる。
かなり大きな瓦葺きの屋根が見える。おそらく寺社だろう
。さらに塀で囲まれた四角い敷地にかなり大きな建物が見える。 これは京都御所であろうか。
枠田アナウンサー:「ご覧ください。これは現在の衛星映像です。中央に見える大きな建物は 京都御所と思われます。さらにこの映像をご覧ください。」
七層のひときわ高い建築物、六角形の青い屋根瓦、金箔の装飾、これは伝説の安土城ではないか。
NHK解説委員:「これまでの情報を整理しますと 我々日本は16世紀の 安土桃山時代に転移したものと思われます。」
枠田アナウンサー:「なぜそのようなことが起こったのでしょうか。」
NHK解説委員:「それは勿論、判かりません。我々はこの事実を受け止めるしかないようです。」
枠田アナウンサー:「これは一時的な現象でしょうか?
それともこのまま続くのでしょうか。」
NHK解説委員:「それも- - - 、勿論、判りません。」
2025年12月3日(転移後3日目):有識者会議
内閣官房長官:「本日はご多忙中の中 この会議に出席していただき誠にありがとうございます。この異常事態に対し 皆様の見解をお聞かせ頂きたく存じます。」
内閣官房副長官 長谷川博:「では状況よりご説明いたします。12月1日未明、旧日本時間3時40分、新日本時間5時に日本列島と周辺諸島、及び日本国籍の在留邦人が東経155度を中心とした北大西洋上に転移しました。」
小説家美濃朗氏:「凄いな!まるで私が書いた小説だ。日本国が旧世界に召喚されたのだ。」
小躍りする美濃朗氏
「それでこの世界は龍が飛んでいるかな?魔法は使えるのかね?いや、素晴らしい まさしく私が予想していた通りだ。」
内閣官房副長官 長谷川:「美濃様、今だ、龍や魔法の存在は報告がございません。」
大和田哲夫 名誉教授:「いや、これは大変なことです。まさしく、歴史考証が変わるでしょう。いいですか、我々の目の前に、本物の歴史が転がってるんです。しかも最も大事な時代、大航海時代と戦国時代と安土桃山時代とそして 信長、織田信長がいるんですよ。」
内閣官房副長官 長谷川:「えー、諸説、色々、貴重なお話をお聞かせ頂きまして大変恐縮ですが、今後の方針についてお聞かせ願いたいと思います。」
大和田哲夫 名誉教授:「いや、もちろん、こんな、こんな歴史的なチャンスはない。ここは彼らの歴史に干渉せず、じっくり見守るべきです。」
小説家 美濃氏:「まずは食料の確保でしょ。食料の自給率は40%を切ってるんですよ。輸入が途絶えれば 日本人全員が飢え死にですよ。」
有識者全員の拍手が起こる。
内閣官房副長官 長谷川:「分かりました まずは食料の確保ということで、皆様のご賛同を得たと承りました。」
歴史学者の大和田哲男氏が憮然とした表情で席を立った。