魔物を狩る魔物
私は彼の事を忘れない。
彼と出逢ったのはある夏のこと。
冒険を共にした仲間とはぐれ、一人森の中を彷徨っていた時だった。
私の三倍もある魔獣と遭遇し、死ぬ。そう思った。
死を覚悟したその時、彼は魔獣を斬り伏せ私を救った。
黒の鎧に身を包み、彼の背丈ほどある大剣を軽々しく振るう姿に見惚れていた。
無言で立ち去ろうとする彼に私は感謝を伝え、森を抜けるまで共にすることを願った。
彼は一言。
「好きにしろ。」
と答えた。
それが私と彼との出会い。
森を抜けるまで三日もかかり、魔物に対し剣を振るう姿は美しく、いつしか私は彼に恋心を抱いていた。
彼の名はテロス。
この名は偽名かもしれない。だけど彼が初めて自身の事を話してくれた。それだけで嬉しかった。
森を抜け、彼は私に別れを告げようとした。
私は遮り、これからも共に旅を続けたいと伝えた。
今思えば私はあの時仲間達に見捨てられたのだ。仲間の援護しかできない援護魔術師等必要とはされていなかったのだ。
彼は困っていたが、私が何度も何度もお願いすると一言だけ。
「好きにしろ」
そう答えた。
私達は旅を続けた。
彼の目的はわからなかった。
私はそれでも彼に着いて行った。好きだったから。
彼は時折辛そうな苦しそうな表情をする。私はそれがこの上なく耐え難かった。
イーリス帝国に立ち寄った際、彼は「用事ができた。」と言い残し、一人城下に消えて行った。
戻ってきた彼は辛そうな表情をしていた。
旅の途中、私達は仲を深めていった。
彼は最初私の事を遠ざけたり、無視したりしていた。
次第に口数は多くなり、彼の人柄を知る事ができた。私は彼の事をより一層好きになった。
私は彼に想いを伝えようとはしなかった。関係が壊れてしまうのが怖かったのだ。
今思えば伝えていれば良かった。
私達は旅を続けながら冒険者を行なっていた。旅の資金を稼ぐ為である。
西の都カスターナでは大雪のシュランと呼ばれ都で恐れられていた魔神種を彼と倒した。
シュランはその二つ名の通り、雪を操る魔術にて私達の視界を遮り、地面を凍結させ、魔力の籠った雪で攻撃してくる非常に厄介な相手だった。
彼は私の事を心配してか、シュランに斬りかかり反撃魔法を喰らってしまった。
私は急ぎ彼を担ぎ、風の魔術で都まで飛び戻った。
彼は一命を取り留めた。
私は安堵し大粒の涙を流した。
赤子のように泣いた。
彼は私を見て、
「すまない…。ありがとう。」
そう言った。
再び彼と私はシュランに立ち向かった。同じように攻撃してくるシュランに対し、私は援護魔術で彼の身体能力、魔術耐性を向上させた。
彼はシュランに同じように斬りかかった。シュランはニヤリと笑いあの時と同じ反撃魔術を繰り出そうとしたが、隙をついた彼の刃の方が一瞬早かった。
真っ二つに切り分けられたシュランは死に際、
「お、おのれ…!貴様!魔物屠りの魔物か…!」
私には分からなかった。
彼はそのことについて語らなかった。
時が来たら彼自身から話してくれる。そう思い私はそれ以上何も聞かなかった。
後に知った事だが、賢王は何者かに殺されたそうだ。
私たちの旅は十年経った。
彼は私の事をどう思っているのだろう。
この想いを伝えたら彼はどう思うのだろう。
彼は魔物を見境無く殺して行く。まるで何かに駆り立てられるように。
私は彼の事を知りたいと思った。
彼はどこで生まれたのか。
その強さはどう手に入れたのか。
どうやって生きてきたのか。
彼は、
「俺は…。俺が生まれた時には誰もいなかった。強くならなければ生きられなかった。無我夢中で生きてきた。気がついた時には強くなっていた。」
私は
「そう…。話してくれてありがとう。」
そう言った。
彼との旅から十五年が経った。
彼は一言。
「俺はこれから一人で行く。」
私はいつかこの日が来る事をわかっていた。
涙を堪え深くうなづいた。
彼は振り返り消えて行った。
それ以降彼と2度と会う事は無かった。
彼の目的や特異的な強さの謎には辿りつけぬまま。
彼と旅を終えて時は過ぎ、世界を巻き込んだ大戦が起こった。どこの国にも属さない組織、七つの夜の暗躍により、大戦の首謀者、若丸を討ちこの戦争は終結に向かった。
私は一人故郷に帰り、今は生まれ育った村で魔術の先生をしている。子供達に魔術を教え、成長していく様を間近で見られるこの生活にやりがいを感じている。
しかし、
今もふと思い出す。
彼は…。テロスは今どこで何をしているのだろうと。
読み終えていただきありがとうございます!
モヤっとした終わり方になってしまい申し訳ないですm(_ _)m