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再び呼ばれた異世界 シリーズ

再び呼ばれた異世界も、無事解決できました

作者: 山蕗綾乃

 再びこの世界にクラスメイトと共に召喚された、神山杞紗は、この世界の危機たる問題をクラスメイトと共に解決した。そして、元の世界に戻るための準備を進めるべく、幼馴染の上木洸と、今後の対策の話し合いをしている場へ赴いていた。

「帰る前に、俺も冒険者ギルドに行ってみたい」

 今後の対策がまとまりかけ、帰還に向けての準備について師匠と3人、夕食前に打ち合わせをしていると、(こう)が言い出した。まあ、確かに、こんな世界に来ることはもう無いだろうし、ゲームや小説などでだけ聞く、冒険者ギルドなんてリアルで見られるものではないだろう。杞紗(きさ)も洸が行きたがっていたのは知ってはいたが、ここを離れても良いものか悩んでいた。すると、


「いいよ、二人で行ってくればいいじゃない」

 師匠がそんな事を言った。

「いや、でも・・」

 杞紗が迷いの声を出すと、

「そもそも、これらは私たちがやらなければならないことだ。せっかくだから、この世界を楽しんできなよ。なんなら、簡単な依頼もいくつかやってみたら?」

 師匠に言われると、杞紗もこの世界を少し満喫してみたい気分になる。ギルドの依頼に興味もあった。

「こっちのことは気にしないで、明日は2人で行ってくるといい。外に出られるようにも、してあげるよ」

 外に出る手続きも請け負ってくれるとまで言われ、洸も行きたいと熱望の視線を杞紗に向けている。洸と久しぶりに、しかも異世界で出かけるのも悪くないかもしれない。そう思うと、杞紗も自然に笑顔になり、

「分かった、明日は洸と出かけます。師匠、よろしくお願いします」

「えぇ、楽しんでおいで」

 その言葉に、洸は小さくガッツポーズをしていた。




 翌朝、朝食を終えると、師匠の部屋のある東棟へ行く。城外に出るための許可証を用意してくれるとのことで、受け取りに行く。

「ギルドで依頼を達成すれば、報酬がもらえると思うけど、一応、これ、昼食代に持ってってね。夜7半の時に城門が閉まるから、それまでに戻るように」

「分かりました、ありがとうございます」

 許可証と日本円に例えると1万円程度のお金を渡してくれた。今はまだ朝8の時を過ぎた頃なので、かなりのんびり過ごせそうである。

「行ってきます」

 杞紗と洸は、笑顔で出かけて行った。


 街までは距離があるので馬車を使う。それも手配済みだった。城門を出て神殿に行き、馬車を預けて神殿の門から街に出る。

「まず冒険者ギルドで登録だね!」

「おぅ」

 二人はいつもどおり手を繋いで街を歩く。杞紗は再びこの世界に呼ばれてから、何度か冒険者ギルドに来ていた。とはいえ、依頼を受けたことはなく、ギルドにある、この世界の地図や魔物などの資料を読みに来たりしていたわけだが。

 

 ギルドへ向かう道すがら、気になったお店を窓から覗いたり、屋台から漂う匂いが気になって見に行ったりしたため、通常よりも着くまでに時間がかかったが、時間はあるし、のんびりで良いだろうと思っていた。


 冒険者ギルドに入ると、洸も中の様子に驚いているようだった。出入り口付近にいる、杞紗が何度か顔を合わせたことのある案内係の女性に、

「こんにちは」

 挨拶すれば、

「あら、今日はどうしたの? そちらは、お友達?」

「はい、彼の登録と、少し依頼を受けてみようと思ってきました」

「そう、無理しないでね」

 そんな会話をしたあと、案内され、受付に向かう。どうやら登録には、決まった受付があり、案内が必要みたいだった。


 洸も登録手続きは一通り受けたいだろうと思い、杞紗は口を挟まず、一歩下がった位置で、嬉しそうな洸の横顔を見ていた。


「ありがとうございます」

 説明を受け終わったようだ。洸が振り返る。そして、掲示板に向かい、依頼を選ぶことにした。


「これは?」

「うん、そんなに遠くないかも」

「オークなら討伐で戦ったぞ」

「へぇー素材もお金になるからいいかもね」

 和気あいあいと仲良く選ぶ二人を、周囲は微笑ましく見ていた。

「この素材採集も方向一緒だから、この2つ同時に受けようか?」

「そうしよう!」

 以前、このギルドにある資料室で、周辺の魔物や地図は確認しているので、地理は分かっていた。

 受ける依頼を決めて、受付で番号を言い、依頼を受けると、街の外へ出て、依頼の場所へと向かった。




 昼12の時の鐘が鳴る頃に、街へ戻る。今ギルドに行くと、午後の依頼貼りだしで、混雑するだろうと予想し、お金はもらっていたので、先に昼食をとることにした。昼食を食べながら、午後の動きを確認し合う。

「まず、ギルドで依頼達成の報告をしてー・・どうする? また新しい依頼受ける?」

「うーん・・なんか街を少し見て回りたいかな? 異世界の街並み見たり、屋台も色々見てみたいかも」

「あっ、そうだね! 前回そういうこともあんまりできなかったから、いいかも。ウインドーショッピングも楽しそう♪」

「うんうん、もし時間余ったら、依頼受けるのもいいし」

「だね! 午後は観光にしよう♪」

 方針が決まると、二人は微笑みあって、

「「美味しい!」」

 と言いながら、昼食を終えた。


 冒険者ギルドに戻り、依頼達成の報告と素材を買い取ってもらう。それぞれお金を手に入れて、

「こういうのも、なんかいいな」

 洸がつぶやくように言った。

「クエスト達成ってかんじだね!」

「あぁ・・じゃ、行こうか」

 洸が差し出した手に、杞紗は重ね、手を繋いでギルドを出ようとしたとき、

「あっ」

 杞紗が思い出したように、立ち止まった。出入口にいる案内係さんに振り返り、

「私たち、もう少ししたら、ここを離れるんです。今日でここに来るのは最後になると思います。色々お世話になりました」

 色々お世話になったので、報告兼ねて挨拶をした。

「あら、そうなの?」

「この後は、街を観光しようと思っています。あっ、どこかオススメの場所とかありませんか?」

 洸がついでとばかりに尋ねる。

「オススメねぇー・・あっ、街の中心に大きな噴水のある公園があるんだけど、それは見た?」

「いえ、まだです。ありがとうございます。行ってみます」

 その情報に洸は目を輝かせた。この世界の公園を見てみるのもいいかもしれない。

「あと、観光と少し離れるかもしれませんが、街のはずれに迷宮もありますよ。初心者用もあるので、試してみるのも良いかもしれませんよ」

 迷宮に今度は杞紗の目が輝いた。迷宮とはダンジョンではないかっ。ゲームの世界おなじみの・・そして、

「やばい」

 杞紗はつぶやくのだった。二人は、再びお礼と挨拶をして、ギルドを後にした。


「聞いて良かったね!」

 歩きながら杞紗が嬉しそうに言う。

「だな。じゃあ、街をあちこち見ながら、噴水のところ行って、その後、街はずれまでウロウロして、時間あったら迷宮入ってみる?」

「みるー♪」

 おー!というかんじで、杞紗が答える。その様子に、洸も嬉しくなり、笑い合いながら、店の立ち並ぶエリアへと向かって行った。



「やばい、楽しすぎる」

 お店や屋台を見てまわり、噴水のあるという公園に入ると、興奮で洸の腕を掴んでいた杞紗はつぶやいたあと、一瞬暗い顔をした。

「杞紗?」

 それに気づいた洸が、どうしたのかと問うと、

「なんかさ、こんな変な世界に突然連れて来られてさ、色々大変で、心に傷を抱えたクライメイトも居る中で、私こんなに楽しんで、楽しんじゃっていいのかなって」

「お前は十分頑張ったよ、このくらいのご褒美あっても良いと思うぞ」

「ご褒美・・か」

「俺はこうして杞紗とこの世界に来れて良かったと思ってるよ。今、喜んでいる杞紗を見れて、俺は嬉しい」

「うん、私も洸と来れて良かったよ」

 杞紗は少し笑顔を向ける。


 ……少しは刺さったトゲを取ることはできただろうか?

 洸は、そう思うと、ポーチから、リボンのついた掌に乗るくらいの、小さな袋を取り出して、杞紗の前に立ち、その袋を差し出した。

「今日のお出かけ、実は杞紗と話す前に、師匠さんに相談してたんだ。お金を得て、杞紗にプレゼントが贈りたくて・・」

 洸の頬がうっすらと赤く染まる。杞紗はその話を聞いて驚く。

「冒険者ギルドに行ってみたかったのもホントだけど、一番は杞紗と二人で出かけたかったんだ」

 嬉しそうに柔らかく洸は微笑む。


「・・これ、受け取ってもらえる?」

 洸の差し出した袋を、頷いて受け取る。リボンとほどくと、包まれた布のような紙が開き、中にあるものが見えた。

「・・ネックレス?」

 さっき、あちこち見たお店にあったものだろうか? 店内で分かれて見ている時に買っていたようだ。

「これなら、つけていたら元の世界に持っていけるんじゃないかって・・」

「うん・・可能性はあるかも」

 杞紗は思案モードになり、答える。すると洸は笑顔になり、

「つけていい?」

「うん」

 杞紗の手にあるネックレスを取り、杞紗は髪をかき上げると、洸が後ろにまわってつけてくれた。


 つけ終わると再び杞紗の前に立つ。

「うん、いいかんじだ」

「ありがと」

 首にかかるネックレスの米粒ほどの小さな石部分を手で触れながら、嬉しそうに言うと、顔をあげ、洸を見つめる。


「俺は、ずっと前から、杞紗のことが好きだ。幼馴染じゃなく、俺の恋人になってほしい」


 二人が見つめ合うと、洸が告白をした。杞紗の顔が真っ赤に染まる。心臓が激しくドキドキする。杞紗がずっと望んでいた、幼馴染ではなく恋人になりたい・・それが叶う。まさか洸が告白してくれるなんて・・嬉しすぎて、幸せすぎて、言葉にならない。


 そして、杞紗は小さく首肯した。それが、今できる杞紗の精一杯だった。でも洸も、杞紗がパニックになるのは分かっていたので、「クスッ」と笑うと、杞紗の両手を取って、自分の手で包むようにした。


(ホントは抱きしめたいくらいだけど、人の往来のある公園じゃ、まずいかもしれないしな)

 この世界のことは、分からない部分が多いので、やらないのが無難と洸は考えていた。


 その反応に、ようやく杞紗も、

「笑わなくても・・」

 すねるように、声を出すことができた。そして、深呼吸すると、


「私も、ずっと洸が好きだったよ。洸がいたから、この世界で頑張れた」


 前回は洸の元に帰るために頑張った、今回は洸と戻るために頑張ったのだ。

 杞紗の告白を聞いて、洸は満足し、二人は笑いあった。


 そして、噴水を見に行こうと、腕を組んで、噴水へ向かった。

「わぁ、すごい」

「ホントにな」

 その噴水は、かなり大きく、ヨーロッパのお城の庭にありそうな、立派な彫刻のほどこされた、白い石造りのような噴水だった。噴水を見ながら、周りをゆっくり歩く。半分ほど歩いたところで、昼3の時の鐘が鳴り、移動することにした。


「このあとは・・迷宮、行くか?」

 公園の外へ向かいながら、洸が問う。

「行ってみたい!」

「だと思った」

「洸もでしょ」

 洸がクスクス笑うと、杞紗も反論する。迷宮だなんて、異世界やゲームの名物みたいなものではないか。あるなら、行きたいと思うに決まっている。そう思う二人だった。

「でも、街のはずれって、どのあたりなんだろ?」

 グルグル観光しながら巡れば、いずれ見つかるかもしれないが、限られた時間で行くには、あまり無駄な時間を使うわけにはいかない。


 そう思っていると、公園の出口付近に、管理棟のような建物があった。中に人がいる気配がするので、立ち寄り、迷宮の場所を聞いてみると、教えてもらえた。



 途中屋台で、串焼きを買って食べたり、気になったお店を覗いたりしながら、迷宮のある場所へ向かう。途中、休憩もいれ、迷宮に到着した。そこは、頑丈そうな門があり、街の騎士らしき者たちが立っていた。彼らは出入りをチェックしているようで、二人が腕を組んで近づくと、

「迷宮は遊びじゃないんだ、デートなら他へ行け」

 と、言われてしまう。すると洸が、

「俺たちは冒険者です。初心者迷宮に入りたいので、手続きが必要ならばお願いします」

 まあ、気分的には遊び感覚ではあるが、ギルドカードを出しながら言えば、カードリーダーのようなものに通すように言われ、手続きをしてくれた。近くに時計の魔道具もあったので、時間を確認すると、夜6の時まで、あと1時(いっとき)というかんじだった。

「鐘の音は、中にも聞こえますか?」

 杞紗が質問すれば、

「戦闘中だと聞こえにくいかもしれないが、中にも聞こえるよ」

 と教えてくれた。ならば、鐘の音が聞こえたら出ればいいなと、二人は心の中で確認し、案内してもらった洞窟のような入口から迷宮に入った。




 6の時を過ぎてすぐ、杞紗と洸は笑いながら、大興奮というかんじで、迷宮から駆け足気味に出てきた。

「やばい、やばい」

「迷宮やばすぎー」


 迷宮の出入り口から、門のあたりまで戻ると、

「おっ、無事戻ったな。お疲れ。その顔を見るに、順調だったみたいだな」

 入る時、手続きしてくれた街の騎士さんが二人の様子を見て、声をかけてきた。

「はい、楽しめました! ありがとうございました!」

 杞紗が答えると、興奮の勢いに押されたのか、

「お、おぅ、それは良かったな」

 そう言って、迷宮から戻ってきたという帰還の手続きをしてくれた。門を出る前に、杞紗は自分たちの姿を見て、洗浄の魔法を使い、身ぎれいにした。

「洗浄の魔法、便利だな」

 洸がつぶやき、近くで様子を見ていた騎士は驚いていた。


 そこから、まず神殿に戻る。神殿に馬車を待機してもらっているので、そこから馬車でお城まで帰るのだ。馬車を使っても、神殿から城の門までは半時(30分)ほど、そこからお城の前まで、更に半時というかんじだ。戻るのは6の時頃と、馬車の御者さんには伝えてあったので、神殿に行けば、すぐ馬車に乗れた。


 馬車に乗り、落ち着くと、

「あー楽しかった。この世界でこんなに楽しかったの、初めて来たとき興奮して魔法使いまくった時以来だよ。洸、今日計画してくれてありがとう」

 二人は今、貴族用の豪華な馬車に、隣り合って座り、手をからますように繋いでいる。肩と肩が馬車の揺れで時々触れ合う。

「それは良かった。まあ、俺も楽しかったし、杞紗と出かけられて良かったよ」

「うん」

 見つめ合い、笑いあう二人。そして杞紗が口をひらく。


「今日のことは、一生の宝物にするね! これと共に」

 ネックレスに触れる。そして目を伏せると、

「洸・・その・・元の世界に帰っても私たち、このまま付き合うでいいんだよね?」

「当たり前だろ! やっとこうして触れることができるのに・・戻ってたまるか!」

 元の世界に戻れば、時間はこちらに転移した直後に戻ることになる。せっかく恋人同士になれたのに、戻ってしまうのかと杞紗は不安になったが、洸は戻るつもりはなかった。そして、洸は、手をつないでいないほうの手を、杞紗の頬にやさしく触れ、自分をみるように杞紗の顔を寄せると、目が合う。あまりにも洸の顔が近くにあって、杞紗は頬が赤く染まり、戸惑うように目がさまよう。その様子に、

「ぷっ・・」

 洸が吹き出せば、

「か・・からかわないでよ」

「からかってないさ、可愛いなって思っただけだよ」

 手を頬から頭をなでるように移動する。

「むぅー・・なんか洸が落ち着いてて、ずるい」

「おいおい、落ち着いてるわけないだろ? 好きな子とこんなに近くにいて・・俺だって初めてなんだから」

 そう言うと、杞紗の頭を今度は、自分の胸のあたりにもってきて、耳を当てさせる。

「わかるか?」

 洸の声が響いて聞こえてくすぐったくなる。そして、洸の心音に耳をすませば、自分と同じくらいドキドキしていることを知る。洸の胸の前で頷く。


 ドキドキしているが、不思議と心地よかった。

「杞紗は・・幼稚園の時、言ったこと覚えてるか?」

 おもむろに洸が語り出す。

(幼稚園の時? 何の話だろう?)

 杞紗は首をひねる。

「“大きくなったら洸のお嫁さんになる”って宣言したんだぜ? で、まあ、俺もそれから、いつか杞紗と結婚するって思ったわけだが・・」


(ひぃぃ・・確かにそんなこと言った気がするー)

 杞紗は、洸の胸に寄りかかりながら、真っ赤になるが、ハッと気づく。


「結婚?」

 おずおずというかんじに、洸を見上げと、


「そ、結婚。あの杞紗の宣言のあと、18になったら結婚できるって知って、18になったら杞紗と結婚するって決意してた」


 そんな前から決めていたなんてビックリだ。

「この世界に来て、18になったから・・なったとはいえ、結婚できるわけじゃないけど、杞紗に好きだと伝えたかったんだ。今まで待たせて、ごめんね」

 そう言うと、洸は杞紗の唇にやさしく口づけをした。


 軽く触れる程度の短いキスに、杞紗は目を丸くして、驚いたあと、洸の視線から逃げるように、オロオロと視線をさまよわせる。

「あの・・洸・・」

「こんな杞紗の姿が見られるなんて、告白して良かったな」

 洸の口元がゆるむ。再び、杞紗の頬に手をふれると、「俺を見ろ」というかんじに顔を自分の前に固定する。


「キスしていいか?」

 洸が優しく問い、杞紗が首肯すると、先ほどと違って、二人は深くキスをする。


 ――と、馬車が大きく揺れ、鼻やあごがぶつかり、二人は離れ、大笑いした。


「お腹いたい・・アハハ・・」

「笑いすぎだろ」

「でもさ、こんな豪華な馬車の中でキスなんて、絶対元の世界じゃできないね!」

「だなー・・外国とかですごい金かかりそうだ」

 なかなか笑いがおさまらず、笑いながら二人は話す。

「今日は、なんか異世界でしかできないことを、したんだね・・私たち」

 落ち着こうと、笑いすぎて出た涙をぬぐいながら、言うと、深呼吸をする。

「あぁ・・絶対忘れたくないな」

 洸も深呼吸をし、そして力強い声で言った。

「大丈夫! 前回は上手くいったんだし、私頑張るよ!」

 前回はちゃんと記憶を残せた。師匠と共に研究し措置したのだ。今日のお出かけで、一段と頑張れそうだと、杞紗は手をグッと握り締めた。



 夜7の時より前に、城の門をくぐり、城の正面扉の前に到着する。

「・・寝ちゃってた」

「俺も」

 さすがに1日動き回っていたので、疲れが出て、馬車に揺られているとウトウトしてしまった。馬車の御者さんに二人はお礼を言って、さすがに正面から入るのは忍びなく、本館の召喚者たちの生活する西棟近くにある扉から入り、西棟の食堂へと向かった。

「帰ったら、普通のゲームじゃ、物足りない気分になっちゃうかもね」

「あーかもなー・・VRでも、まだここまでリアルなかんじじゃないし」

 そんな雑談をしながら、二人手を繋いだまま食堂に入ると、夕食の出る6の時からかなり時間は経っているが、半数ほどのクラスメイトたちが残っていた。まだ、食事を取っているものもいる。以前は6の時すぎには集まって食べていることが多かったが、最近は大分食事の時間もばらばらになっていた。


「「ただいまー」」

 二人そろって食堂に入れば、

「「「おかえりー」」」

 と、返ってくる。その中に、友達の遥香(はるか)の姿があり、杞紗は驚いて声をかける。


「今頃食べてるなんてどうしたの?」

「帰る前に、この世界の本たくさん読みたくて、図書館にギリギリいちゃった」

 なるほど・・しかし、この世界に来た当初は、怖がって、一人で行動できなかった遥香が成長したものだと思うと、「あっ」と思い立ち、

「じゃあ、これあげるよ」

 金貨を3枚出すと、

「なあに?」

「この世界のお金。図書館で保証金に使って。借りてくれば、寝る前も読めるよ!」

「えぇー悪いよぉー」

「どうせもう使わないし、持ってても仕方ないから。でも、夜更かしはしすぎないようにね!」

「そっかー・・ありがとう」

 今日ギルドで稼いだお金だが、当然使いきれていないので、せっかくだからこういう使い方も良いだろう。本が読みたい気持ちは良く分かる杞紗は、

「あっ、他に図書館通ってる子、居たらお金渡せるから、声かけるよう言ってね!」

「分かった、伝えとく」

 遥香はとても喜び、受けおってくれた。


「杞紗、メシー」

 メイドさんに声をかけてくれていた、洸が呼んだ。

 遥香とは別の、近くの席に、夕食の準備が進められていた。向かおうとすると、

「あれ? 杞紗、そんなネックレスしてたっけ?」

 目についたのだろう、遥香が聞いてきた。

「ううん、今日、洸にもらったんだ・・あのね、洸と付き合えることになったの」

 後半は、少し遥香に近づいて、小声で伝えれば、遥香は一瞬驚いた顔をしたが、

「そうだったんだ。良かったね!」

 遥香は杞紗の気持ちを知っていたので、喜んでくれた。

「ありがとう」

 と、返して、洸の待つテーブルに向かった。


 なんだったの?という顔をしている洸に、

「遥香に聞かれちゃった」

 ネックレスに触れながら、言うと、微笑んだあと、「ふむ」というかんじで、何か思いついた様子だった。


 夕食を食べ終えると、洸と手を繋いで、食堂を出て、2階の踊り場で分かれることになるわけだが、

「洸?」

 洸が手を離してくれない。今日は長時間一緒にいたから離れがたいのだろう。それは杞紗も同じではあるが、

「また明日、ね?」

 繋いでいた洸の手をもう一方の手で包むようにして、離そうとする。


 手が離れた・・そう思ったら、杞紗は洸に抱きしめられていた。

「杞紗・・」

 洸がつぶやく。杞紗は一瞬驚いて固まってしまったが、洸が落ち着くまで、身をゆだねることにした。


 しばらくすると、落ち着いたのか、洸は杞紗から離れ、向かい合うと、

「ごめん、今日はありがとう。・・また、明日」

 そう言って、二人はそれぞれの部屋へ戻った。


 杞紗が部屋に戻ると、先に戻っていた遥香から聞いたのか、同室の芽衣と裕子が「良かったね」と祝福してくれた。




 ――翌朝――――――

「おはよう」

「おはよう、杞紗」

 朝6の時になり、2階の踊り場に着くと、すでに洸が待っていた。手を繋いで食堂に行く。

 朝食もクラスメイトたちはまばらだが、二人が食べ終わる頃には、かなりの数がそろっていた。


「食べてる人は、そのまま聞いてくれ」

 洸が食堂の前のほうで、クラスメイトに向けて話しだした。

「今日、昼12の時の鐘のあと、全員に話しがあるから、今日の昼食はみんな集まってくれ。今、ここにいない人にも、伝えてもらえると助かる」

「OK―」

「分かったー」

 そこに居た面々は了承し、伝言を請け負ってくれた。


 9の時少し前に、二人で師匠のところに行くと、

「師匠、昨日はありがとうございました。この世界をとても楽しめました!」

 報告すると、杞紗の興奮する様子を見て、師匠の顔もほころぶ。

「それは良かった。目一杯楽しんだようだね」

「はい! ギルドで依頼受けて、ご飯食べて、迷宮にも行きました!・・あと、大きな噴水も見ました!」

 噴水のある公園で、洸に告白されたことを思い出し、一瞬言葉につまり、更に杞紗の頬がほんのり染まった。胸に光るネックレスに気づいた師匠は、その様子に、

「二人の関係にも進展があったのかな?」

「はい、あなたの助言のおかげで、無事」

「ふむ・・うまくいって良かったよ」

 杞紗が照れて返事ができずにいたので、洸が答えた。

「その大きさの石のネックレスなら、きっと元の世界に持ち帰れるだろう・・あれ? もしかしてもう魔力ぬいてる?」

 魔力の大きな物――魔道具や魔石、武器などは持ち帰ることはできない。帰還用の魔法陣からはじかれるらしい。記憶保管は魔法陣を使い、ごくわずかの魔力なので、問題ないようだが。ネックレスの石は、魔力を帯びた宝石でもあったので、絶対持ち帰りたい杞紗は、夕食後自室に戻ってすぐ対処した。

 ――とはいえ、それは魔法陣を駆使するという、杞紗だから簡単にできたものであった。

「はい・・迷宮で魔石や素材をたくさん手に入れたので、助かりました」

 それらを使ったことを知ると、更に師匠は呆れ果てた。

「そうだ師匠、迷宮で得た、魔石や素材、あげますね! 私たち持ってても仕方ないし」

 アイテムボックスである肩掛けバッグからザクザク取り出す。ひときわ大きな魔石を出したところで、

「その大きさ、ボスも倒したのか?」

「です~♪」

 師匠はあっけにとられていた。二人の実力なら、初心者迷宮のボスくらい余裕だとは思えど、限られた時間で、そこまで行っていたことに驚きだった。


 素材を渡し終えると、昨日の進行度を確認し、文官たちの集まる研究室へと向かい、作業を進めた。


 12の時になり、西棟の食堂へ向かう。クラス全員ちゃんとそろっているようだ。

 食事を終えると、洸が前に出て話し出す。

「帰還の日が決まった。何もなければ1週間後だそうだ。問題がおきれば伸びるが、遅くとも10日以内には、元の世界に帰還できるそうだ」

 その報告に、食堂が沸き上がった。

「今後俺たちのように呼ばれることのないようにする対処は、もうじき終わるそうだ。この後は、俺たちの帰還に向けての準備を進めることになる。まあ、記憶の扱いとかだな」

 記憶を残すには、魔法による対処が必要だ。

「まあ、それは準備ができたら、帰還3日前くらいから順番に行うそうだから、順番が決まったら、ここに貼り出すから確認してくれ」

 全員が、やっと帰れるんだという気分になる。

「まあ、今までも進めてただろうけど、戻ったら魔力はなくなるし、魔法は使えないからな。この世界の物は持ち帰れないから、そのつもりで残り1週間行動してくれ」

 図書館で本を読んだり、訓練場で魔法を使ったり、この世界でしかできないことをしておこうということだ。確か明後日あたりには、外に討伐がてら、出かける計画があるとも聞いている。騎士のお守つきで希望者だけではあるが。

「・・あと、最後に俺たちから報告がある」

 俺たち? と、杞紗が思って洸を見ると、自分のほうに来るように手招きされる。洸は横に杞紗が来ると、肩に手を回して抱き寄せた。

「俺と杞紗は、付き合うことになった。これは帰っても確定だ。杞紗に手を出したり、何かしたら、許さないから、そのつもりで」

 はっきり宣言し、後半は少し怒気が込められていた。杞紗は、ちゃんとみんなに宣言してくれて、嬉しくなる。

「私も、洸に言い寄ってきたら、許さないから」

 そう杞紗が言い放つと、洸が驚いて目を丸くした。杞紗がこんなこと言うとは予想外だったようだ。


 そんな二人の様子に、

「はいはい、分かってるから」

「やっとくっついたか」

「今までもそうだったよねー」

 クラスメイトたちは、色々好き勝手言っていた。


「報告は以上っ、解散っ」

 照れた表情で、慌てるように洸は話しを終わりにした。



 ――――――――――――――――――――――――――――――


1週間後、予定どおり元の世界に帰れることになった。

「あれ? みんなは?」

 西棟から本館へ向かう渡り廊下前の踊り場に来た杞紗は、洸しかいない状況に問いかける。

「先に行ったよ。俺たちが最後だ」

 そう言って、手を杞紗に差し出す。その手を自然に取り、手をつなぐと、西棟に体を向ける。二人そろってお辞儀をし、

「「お世話になりました!」」

 その場には誰もいなかったが、大きな声でお礼を言った。そして笑顔で目を合わせてから、渡り廊下へ歩みを進めた。


 渡り廊下を渡りきると本館に入るところに見張りの騎士が2人いる。その人たちにお礼を言うが、何故かとても笑顔で、二人が通り過ぎたあと、パタパタと立ち去る音が背後から聞こえた。お城の正面から出発するとのことなので、城の南側へ歩みを進める。杞紗は、端の階段から行くと思っていたが、洸はメインの大階段のほうへ手を引いていく。杞紗が戸惑うと、

「いーから、いーから」

 最後に使いたいとか思ったのだろうか? まあ、いいかと、手を引かれるまま一緒に向かう。


 大階段へ続く扉の前に、城の執事と、先ほど本館渡り廊下にいた見張りの騎士が居た。その様子に、どういうこと?と、執事と洸を見るが、何も言わず執事は大階段の扉を開けた。そこから階段の、二人で扉を出たところの踊り場に立つと、眼下に大勢の人の姿が見え、杞紗は息をのんだ。

 クラスメイトたちに加え、王族に騎士たち、西棟のメイドたち、そして師匠の姿や図書館の司書たちまでいる。王様や王妃が階段の中腹にある踊り場にいて、とても居心地が悪く思っていると、静まり返る中、隣に居た洸が、跪く。

「え?」

 洸が手をとり、杞紗を見上げると、目が合う。柔らかい笑顔を向けると、


「杞紗。これからもずっと俺のそばにいてほしい。結婚してください」


 突然のプロポーズに、杞紗の心臓は一気にマックスともいえる速さで脈打つ。洸が真剣な眼差しを杞紗に向ける。ほんのり頬が赤い。杞紗はきっと自分もそうだろうと思いながら、返事をしなきゃと口を開く。


「はい」


 小さく返事をすると、洸は満面の笑顔になり、立ち上がって、杞紗を抱きしめた。その光景に、階段下に集まった者たちから、拍手喝采が沸き起こった。その歓声に目を丸くする杞紗の様子に気づいた洸が、耳元で、

「驚かせてごめんね」

 優しく囁いた。杞紗は首を軽く振った。


 体を離し、向かい目が合うと、

「俺たちは帰ったら、高2の夏休み明けだろ? 結婚できるのは1年後だし、この世界でお世話になった人たちを呼ぶことはできないから。杞紗がお世話になった人たちに、ちゃんと結婚の報告をしたかったんだ」

 そう言って、師匠や図書館の司書たちがいる方を見た。その心遣いに、胸がつまり想いが溢れる。


 杞紗の目から一筋の涙が頬をつたうと、洸がそれをぬぐって、踊り場から階段の下を眺めるよう正面を向く。杞紗も洸の横に立つ。すると、静まり返る大階段前のホール内。緊張を見せた洸は見渡して、深呼吸すると、


「俺はこれからも、どこに居たとしても、杞紗を愛し続け、幸せにします!」


 世界が変わろうとも、杞紗への気持ちは変わらない。宣言するように言ったあと、杞紗の手を取って、大階段を下りるべく歩みを進める。ホールに集まった人たちから、再び拍手喝采が湧き上がった。階段をゆっくり降りながら、

「洸ばかり、ずるい」

「なにが・・?」

 杞紗が、若干ふてくされたように言うと、戸惑う洸。階段の途中で二人は立ち止まる。その様子に拍手の音がまばらに小さくなる。


 杞紗が1段上にいて、こちらを戸惑い顔で見る洸を見つめると、口を開く。

「洸、ありがとう。こんなサプライズ、すごく嬉しいよ」

 そして、階段を降りたことで距離の縮まった師匠のほうへ体と視線を向けると、

「師匠、私、洸と結婚します。二人で幸せになります。今まで、本当にありがとうございました!」

 もう会うことのない師匠に、宣言し、最大の感謝を述べて、深々とお辞儀をした。師匠も目を潤ませて、

「おめでとう。こちらこそ、有意義な時をありがとう」

 と、言ったところで、また大きな拍手が起こった。


 階段をゆっくりと降りる。この世界で交流を持ち、信頼関係を築けた者たちの姿がある。きっともう、ここに来ることは無い。この景色を見ることはもう無い。杞紗は、今はもうここにはいない、前回、仲良くなった女性騎士と男性文官の姿も思い浮かべる。心の中で報告する。感傷にひたりながらも、洸と一緒に居られる幸せに包まれていた。


 連載の話を書いている時、少し行き詰まり、行き当たりばったり異世界旅に出た時の一部分。・・というか、頭と最後だけ書いた最後の部分なかんじを、せっかく書いたので、あらすじ&前書きで補足と修正して載せてみることにしました。

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