十六話(最終話)
十六話
その、殊勲式とやらが、
翌月、美保の都の、皇帝城内で催された。
「皇帝城」の名前に、おれは行く前から、かなりビビっていたのだが――
それはたしかに、やたらでかい壮大な城みたいなモノで。
いや、だけどおれはそれよりも――
そこに集まった人数の多さに。そっちにむしろ、度肝をぬかれた。
兵士だけでも万の単位でいるだろう、これ――
さらにそのとりまきの、一般参賀でやってきたという、
その、美保の都の人たちまでも、全部これ、加えると――
いったいどれだけの人数になるのか。。
かくも多くの人間に、一度に注目を浴びるなどという経験が。
恥ずかしながら自分には、ここまでまったく、ゼロだったので。。
城内の通路をすすむ、おれの、足が、
なんだか油の切れたロボットみたいに、ぎこちなく――
「おいおい、蜜柑よ。あまりの緊張に、足がもつれておるぞ」
うしろから、楽常が。いつもの気安い声でおれの名を呼んだ。
「なに。観衆は、おまえを取っては喰わん。心をしずめてむかえよ、蜜柑」
「わ、わかってる、けど、けど――」
その、おれの先生である楽常と。おれと。そして、他には――
あの日の突破戦に加わった、紅、月姫、それから白桃。
猫は、まだ少し療養が必要とのことで、この日の式には出なかった――
そして、避難する学生らを指揮し、すべてを無事に外へと逃がした、
その統率力を評して、鳳凰院学長の爺さん―― 常山翁。
以上、猫をのぞいた6名が、その日の式に招聘された。
まるであの日の戦勝を祝うかのごとく、燦々(さんさん)と照る初夏の日差しの下で――
目にも鮮やかな緋色の祝儀の垂れ幕で覆われた、その、城内の広場。
その中央で、帝が。
北帝武皇こと、若き皇帝・綿陵が。
賞を受けるひとりひとりに、ねぎらいの言葉をかけながら、
ひとりずつ順番に、記念の宝珠を。それぞれの胸に、つけてゆく。
その五番目に、おれの前で、その人が足を止め、
宝珠を差し出し―― それをおれの着物の、胸のところに留めながら――
帝はおれの耳もとに口をよせ、単純にこう言ったのだ。
「蜜柑よ。こたびは、じつに、よくやった」
そしてその言葉に続け、
その彼は、そして、こう、囁いたのだ。
たしかにそう、おれに、言ったのだと。思わざる、を、え、なく――
「褒美として、今宵、風呂で、背中を流してやろう。これ、一番の報酬よの」
「???? み、みかど、さん?? あなた何―――」
パニックになるおれの唇を、指一本で制して黙らせ――
彼はその―― イケメンフェイスの、その、目を、少し細めて――
そして、そこには―― あの――
おれがなぜだか嫌と言うほどよく知っている、
ちょっぴりイジメっ子が入った、あの、ムフフ・スマイルを浮かべつつ――
「なに。これが初めてでもあるまいに。おぬしの裸形は、わたしはすでに、よくよく存じておるわ。のう、蜜柑よ?」
そう囁いて、
帝がクールに、おれのところを通り過ぎ――
「ほえええええええええええええええええええええええええええええええええええ????????????!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その日の昼、
晴れわたる初夏の皇帝城内に、おれが発したその、およそありえない絶叫・奇声が――
高く遠く長く、ひたすらどこまでも鳴り響いてしまったことは――
おそらくその後の、史記の類にも――
ばっちりしっかり、あらゆる記録に残されて。しまうのだろうと――
大変不本意ながらに、思うのだ。
おそらく、きっと、確実に――
【 この戦記、誰にも読んで欲しくない! 終 】