方向性
武術大会後、俺は暫くの間、各種薬品の増産に力を入れた。もちろん、キャットフード店は引き続き開いているが、それが無い日はほぼずっと錬金室に籠っている。
スキルの熟練度を上げるという意味でも、貯蓄を増やすという意味でもよい時間つぶしである。
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実を言うと、アクアシティ周辺の探索を自分でもしてみたいと思い、(リオカに護衛をしてもらいながら)向かってみた。いやあ、すごい人だった。わざわざ自分で探索しなくても隅から隅まで探索されているように思われる。いったいどうしたんだろ? レベル上げやドロップアイテムの為にモンスターを周回するよりも、冒険の方が楽しいと思い始めたのかな? と思ってリオカに聞くと。
「アルカディアが新エリアなどを発見して、最新情報を提供してくれた人に多くの賞金を渡すと発表したのよ」
と教えてもらった。ふーん?いったいどうして?
「私達『モフモフ同盟』が、アルカディアより先に地下水路&ゾンビエリアを発見、発表したことが悔しかったみたい。あとは単純に自分たちの活動をもっとよく知って貰うためだと思うわ」
「ああ~。『今登録したらポイント5000円分プレゼント!』的な?」
「そうそう。まさにそんな感じ」
「リオカはそういう事はしないの?」
「私たちは情報の売り買いはしないわ。面倒だし。そういう意味では、アルカディアってすごいと思うわ~」
「確かに。起業家って感じだな」
「そうそう! 私にはそういうのは無理ね。フラウちゃんもそういうのは御免みたいだし」
「うんうん。確かにリオカってお金の遣り繰り苦手だもんな。ゲーム製作で上げる利益の計算とか、機材の管理とか、その辺を集計した上での確定申告とか全部俺に丸投げだもんな」
「お世話になってます! いやあ、優秀な兄を持つと楽でいいわあ~」
「……高校時代は『兄が優秀なせいで私にもプレッシャーが……。優秀な兄弟って目障りでしかない』とか言ってなかったか?」
「それはそれ。これはこれ」
ともかく、そういう訳で、色んな人がこぞって新情報発見に努めているそうだ。つまり、俺の出る幕は無いのである。
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「誰も探索し無さそうな場所を探すのが楽しかったのに、今や『探索が進んでいない場所=モンスターが強い最前線』だからなあ……。俺に出来る事は薬作りと時々レシピ探しって所か……」
と独り言を漏らすと、返事が返ってきた。
「あ、そういえば、おかげさまで薬の在庫が何とか確保出来てきたの。暫くは休憩してもいいわよ」
とローズが言った。
「マジで? そんな簡単に需要量を上回る事ができたの?」
「えーっとね。おそらくだけど『各種の薬が足りないらしい!』ってデマが流れて、それでプレイヤーの皆さんが水中呼吸薬の買い占め行動に出たらしいの」
「ほう。それで、買い占め行動によって、デマが現実となってしまったと」
「そういう事みたい。あれから数日経って、需要量も落ち着きを取り戻したようで」
「へえ……」
そういえば、高校の時に公民の授業で似たような事件が度々あったって聞いたことがあるなあ。そういう事が起こると、転売屋とかが現れて余計パニックになるんだっけ?
「私達としても、転売するプレイヤーが現れてほしくない。だからこそ、需要を絶対に満たしておきたいの。あ、そうだ。『旅人統計情報』見た?」
「え? ああ! そんなのあったな!」
公式が発表している、(旅人)プレイヤーに関する統計情報である。ベースレベルの分布とか、各ジョブの人数とかが分かるんだっけ?
「へえ~。え! 錬金術師が二桁行ってるじゃん! 何があったの?!」
「そうなの! 私もびっくりなんだけど、武術大会以降、錬金術師に転職したプレイヤーが現れたのよ。おそらく、セイやひまわりさんの活躍もあって、生産職に興味を持ってくれた……というポジティブな理由と、逆にトッププレイヤーとの実力差を思い知って逃げてきた……というネガティブな理由があるんでしょうね」
「前者の理由だったら嬉しいなあ……! そうは言っても、割合で見るとやっぱり生産職は人気がないよねえ……」
「まあ、地味な作業は『向こうの世界』でも出来るからかしら?」
「ああ……。でもさ。酒造りとか『向こうの世界』では勝手にできないじゃん? あと、いつか作りたいと思ってるんだけど、爆薬の製作とかも剣と魔法の世界であるこのAWTならではの活動じゃない?」
「言われてみれば……。そういう『錬金術の魅力』をもっと多くの人が知って欲しいわ……」
「うーん、ところでさ。一応確認だけど、引き続き各種薬製作を続けるっていうのはダメ?」
「もちろん、問題ないわよ。在庫はあればあるほど良いから」
「そうなの? ……よく考えたら、この世界で物が腐る事って基本無いもんな」
「そういうこと~。でも、せっかくなんだし、自由に過ごしては?」
「そう言われてもなあ……。探索は他のプレイヤーが進めてるしなあ。あ! そういえば最近サブスキル『植物図鑑』の熟練度上げをしてなかったし、リオカに頼んで護衛してもらいながら外の世界を探検しようかな?」
「いいんじゃない? それで採取したアイテムを使って研究するなりポーション作るなり出来るわけだし。一石二鳥じゃない?」
「そうだな。うん。昼食時にリオカに話してみよう!」
いつも読んでいただきありがとうございます。
訳あって、今後投稿が数日空いたりするかもです。
今後とも温かく見守って頂けましたら幸いです。




