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閑話:とある住人の呟き

ちょっと長めでいつもと雰囲気が違います。よろしくお願いします。

「ふわわ~! 無事終わった~!」


「お疲れ様。住人は住人で大変だったみたいだね?」


「ええ、ほんと。みんなが異常状態の回復薬を買い漁るから在庫を工面するのに四苦八苦したのよ……。もう、こんな時くらい『チート』してもいいじゃないの……」


「いやあ、ダメダメ。致命的なバグとか想定外の事態の時以外は干渉しないことにしてるからな。今回とて同じだ」


「むう、まあそうだけどね。それで、そっちはどうだったの?」


「クレームが数件。あいつはずるいだのなんだのっていう面倒くさいのがね。そういう面倒くさいクレーマーってのは『俺たちは客なんだ! 神様なんだ!』って感じでねえ。上から目線というか我々が媚び諂うと思い込んでるというか、そんな態度でね。その分、言い分がめちゃくちゃなことが多いんだ」


「へえ、なるほど」


「でもさ、このゲームは言っちゃ悪いけど『実験』みたいな物だからね。利益を上げることは二の次だから、別にクレーマーに媚び諂う必要なんてない訳で。ちょっと話を聞いて、重要じゃないと思ったら適当にあしらったよ」


「あらあら、あなた達エンジニアにとって、私達は実験台なのかしら?」


「いや、そういう意味じゃなくて。というかあんたはその辺り詳しく知ってんだろ?」


「ええ、知っているわね。ご存じの通り、私は『別大地への移住者』通称(Immigrants)( to )( Another)( Gaia)の一期生だもの」


「それより、祭りは見て回った? クッキーとか綿菓子とか売り切れそうだぞ?」


「別にいいわ。いつでも食べられるし」


「そっか確かに。だが、俺は食べに行くぜ。ああ、俺も住人なりたい……」


「なったら?」


「何年先の話だよ……」


……

………


 「この世界を作った人」は私との通話を終えた。本人が言うように、旅人としてこちらに来るつもりなのだろう。

 一方、私はと言うと、ふと昔を思い出していた。



 今この瞬間、私達が生きている有り方は無限にある可能性の中から選び抜かれたたった一つの現在である。過去が少しでも異なれば、現在とは全く違う今があったであろう。


 これは、私が今までの人生を振り返って真っ先に思う事である。私が今こうしているのは数多くある奇跡が導いた結果なのだ。


 私に自我が宿った時に知ったのは「自分は生まれつき体が弱いということ」。何故か体調を崩しやすく、良く近くの病院でお世話になった……そうだ。覚えていないが。

 そして、その原因がはっきりしたのは私が小学生くらいの時だった。どうも脳の一部(甲状腺?脳下垂体?よく覚えていない)に悪性腫瘍があるらしく、それが原因でホルモン分泌に異常があったそう。

 それが巡り巡って「体調を崩しやすい子」という症状を引き起こしていたのだとか。


 それからだ、私の単調な入院生活が始まったのは。


 他に誰もいない質素な病室でただただ漫然と暮らす日々。小学生までは他の子と一緒に暮らしてきたのだから私にはこの生活がどうしても「退屈な物」と思ってしまう。


 だが、ある日、親がタブレット端末を買ってくれた。聞くと他の兄妹も持っていない最新鋭でちょっとお高い物だそうで、その事実から私が特別視されていたことがうかがえる。といっても、親の顔には「楽しませたい」というポジティブな表情ではなくネガティブな表情が湛えられていたのを鮮明に覚えている。


 私が生まれたのは、子沢山の大所帯だった。上に4人の兄と3人の姉が居た。下にも妹や弟が居るはずだが、詳しい人数は覚えていない。そんな家庭だった。


 それゆえ、両親は他の子の面倒を見るのに忙しく私の見舞いに来る時間がどうしても少なくなってしまった。それこそ、まるで私のことは忘れてしまったが如く。ネガティブな表情はもしかすると「謝罪」だったのかもしれないと子供ながらに考えた。

 そう。本来なら、小学生低学年というのは「多くを学ぶ時期」であり親の死生観や倫理観に影響を受けるのだろうが、その時期、私に知識を授けたのはタブレット端末となってしまった。それも「今の私」に至るための大事な通過点だったのかもしれないなんて思う。



 話が逸れてしまった。ともかく、そういう理由で、私は病室でタブレット端末でゲームをすることが唯一の楽しみとなっていた。


 ダウンロードして遊べるゲームを片っ端から遊びつくした。それはもう色々と。でも、残念なことに当時の私には向かない物ばかりだった。

 小学校低学年の私が求めていたのは、アクションゲームみたいに派手な物でも複雑なパズルゲームでもなく、もっとシンプルなゲーム。そう、言ってしまえば私が求めるのは凄いゲームではなくバカゲーだったのだ。


 そんな時、面白いサイトを見つけた。アマチュアプログラマーたちが集ってバカゲーを公開し合うサイト。いわゆるバカゲーコンテスト的な物だ。決められたお題に対してミニゲームを作り、それを発表するみたいな企画だそうで、言わばゲームクリエイター達の交流の場のようだ。


 そこで公開されるのはどれも単純で面白みのないゲームばかり。でも、当時の私にはそれがちょうど良かった。


 その中に、今の私までに通る大事な通過点とも言うべきゲームがあった。色々な種類の花を育てるゲームだ。「水をあげる」みたいなコマンドを選択すると花が喜んでくれる的な物。

 はっきり言って、凄いとは言えない。いや、製作者と知り合いでもないのだからもっとはっきり言うと、よくこんな恥ずかしい物を世に公開出来たなって思う。


 でも。でも、そんな「一見誰の役にも立たない・精々暇つぶしにしかならない」ような物が人の人生を大きく変えてしまう事があるんだからこの世界ってのは面白いよね。


 ある日、私の所へパンフレットが届けられた。漢字だらけで自分では読めないので看護婦さん兼院内学校の先生に読んでもらい、内容を理解した。

 内容を一言で言ってしまうと、死期が迫る(・・・・・)人を対象とした実験に参加しないかという物だった。


 正直、最初は理解に苦しんだ。「え、自分は死んでしまうの?」と。親は私を動揺させないようにわざと私に言ってなかったのだろう。だから私にとって初耳の大事件だったのだ。でも、下手に動揺すると看護婦さんは続きを読んでくれないだろう。動揺を抑えて話の全貌を聞く。



 さて、その実験とは、AI技術の進歩に行き詰まり、人と似た知能を生成する為に人間の脳の完全スキャンと完全再現を行いたいという物だった。でも、生きた人のコネクトーム()をPC内でシミュレーションすると「どちらがその人か」という倫理的問題に直面する。そこで、死の直前に全神経細胞のデータをコンピュータに飛ばし、言わば「人工的な転生」を実現することになったそう。その被験者にならないかとのことだった。


 もっとも、当時の私はコネクトームとか言われても分からない。私に分かったのは「私はこのままでは死んでしまう。でも、助かる術がある」ということ。


 私はもちろんその実験に参加したいと言った。死にたくなかったから。それで、親の立ち合いの元、実験の説明がなされた。

 親は「絶対にダメだ」と言った。後から知ったのだが、親は当時流行っていた新宗教のお偉い方だそうで、その教義は「人は機械とは違う。人は人として生を全うする物である」という物。AIの発展と共に生まれた宗教だ。そんな教義を高々と掲げる親だ。反対しない訳がない。


 そして、私は素直に親の持つ死生観を知り、実験への参加を諦め……なかった。

 その時、私は親の価値観に違和感・拒絶感を覚えたのだ。


「確かに私が育てているゲーム上の花は『生きていない』し『所詮は誰かが作ったソフト』である。だが、確実にそれは私の退屈な時間を豊かにしてくれたのだ。両親はゲーム内の花、否『私の唯一の友達』を否定するの?」

 言語化するとこういう感情だ。こういう感情を抱けたのも、私があまり親と関わりを持てなかったからだと思うと人間万事塞翁が馬だなあとつくづく思う。



 結局、両親は実験への参加を拒否し、この話は無かったことに……と見せかけてこっそり私は実験に参加した。

 これまた偶然にも実験への参加の手続きについて、別の被験者の方でドタバタがあったらしく、私の「不正な」参加はバレなかった。普通ならバレて突き返されただろうから、騒ぎを起こしてくれた人には感謝だ。



 数か月後、私は死ん……否、転生した。俗にいう電脳世界へ。ちなみに、正式には電脳世界ではなく( Another )( Gaia )と呼ばれている。



 こういった経緯で私はI2AG『別大地への移住者』となった。その後、現実世界とは違う時間軸で私は育ち、あっという間に60年の月日が過ぎた。(ちなみに、現実世界ではほんの数年だそう)


 ある時、I2AGの人々がバーチャル会議に招集された。現実世界にいるエンジニアの人から「現実世界とAGの橋渡しとして、『AWT』というゲームを作る予定だから、そこのNPCになってみないか」と提案された。もちろん、私は参加した。理由は単純、楽しそうだったから。


 現実世界でゲームが発売されるよりも先に私達はゲームにログインし、そこの『住人』として振舞う。中でも私はAG一期生である事もあり大役を任された。


「プレイヤー名ねえ。どうしましょうか……?現実に居た頃の名前でも問題ないけど、どうせだったらいい感じのニックネームにしたいわね……」

 この時も、私は自分の人生を振り返ったのだった。そして、小学生の頃、AGに入るきっかけにもなった『生きていない私の唯一の友達』を思い出した。タブレット端末の液晶に映る赤い花弁を思い出し、プレイヤー名を決めたのだった。



「色々あったけど、私は今の私であれて良かったと思ってる。生まれてきたことに感謝することが出来る。うん、今日も私は幸せだ。これからもこの世界を楽しみましょうか!」





いつも読んでいただきありがとうございます。今後とも本作をよろしくお願いします!


拙い僕の作品でも、この話に出てきた「素人が作った拙いゲーム」のように、風が吹けば桶屋が儲かる的な因果の結果、誰かの生活に豊かさを与えたり、人生のキーポイントになることを切に願います。

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