最終決戦
いよいよ始まった優勝決定戦。互いに相手の出方を伺い動かない「静」が、突如として「動」に変わった。両者が同時に動き始めたのだ。
マルベーシの強みは何と言ってもその洗練されたテクニック。厳しい鍛錬を乗り越えた者だけが達することが出来る境地に至った彼女に単純な力で勝てる者はいないであろう。
それに対し、アルカディアメンバーの強みはその資金力。メンバーの共同資産として購入したのであろう武器・防具はソロプレイヤーでは手の届かない強力な物。
今までの試合は皆が楽しんでいた故に良くも悪くも「お祭り」であった。一方、この試合は観客席にまで緊張が張り詰めていた。自分たちを正義と信じて疑わないアルカディアの有様に反発する者はマルベーシを応援し、アルカディアに陶酔する者はアルカディアを応援する。そんな訳で、観客席でも一触即発の空気が張り詰めていたのだった。
真っ先にマルベーシに向かって来たのは『クリムゾン=サンライズ』『竜飛』の二人。近接攻撃部隊であるようだ。そして、中距離にいるのは『舞影』。遠距離から魔法を打つのが『サファイヤ=フォトン』である。
明確に役割分担をしているな。マルベーシはどうするんだろう?
マルベーシはまずは近接攻撃部隊を躱し、シャドーダンサーの元へ向かった。剣をきらめかせスキルコンボを発生させる。大ダメージが通るものの、一撃では沈まない。防具の質のおかげだろうか、それとも彼のレベルが高いのだろうか?
勿論、攻撃を躱されたクリムゾンとドラゴンフライも黙っちゃいない。すぐに身を翻し、マルベーシの元に向かう。
一方で、サファイヤは敢えて遠方へ避難した。一見、リーダーとして不格好な行動に見えるがこれは戦略である。サファイヤは「天よ!」と叫ぶと共に、杖を振るって天から雷を降らす。
マルベーシの相手をしていた三人はサファイヤの叫びを聞くと同時に目を瞑った。瞬間、彼らのいる場所が光に包まれる。フレンドリーファイヤ、つまり味方を攻撃してしまう事、が起きないからこそできる技である。
マルベーシはダメージを負ってしまったがそんなことは些細な事である。重要なのは「まばゆい光が彼女の網膜を焼いた」という事。あ、本当に火傷を負ったわけではないからそこはご安心を。
ともかく、急激に目の前が真っ白になった彼女は思わず目を瞑ってしまう訳で。その隙に三人は攻撃を仕掛ける。
この戦法。サファイヤの魔法がないと成り立たない。だからこそ、サファイヤは遠距離攻撃を徹底したのだろう。
この事で、マルベーシにかなりのダメージが入ってしまったが、まだまだ安全圏。マルベーシに「掛け声がしたら目を瞑る」という事がばれてしまった以上同じ手段は使えない。にも関わらず。
「天よ!」
サファイヤが再び叫んだ。マルベーシは天からの攻撃を避けるべきその場を退きながら目を瞑る。だが……。
「ふ!」「は!」
天から雷が落ちてくることは無かった。むしろ、一瞬でも目を瞑ってしまったせいで、目の前にいるクリムゾンらに攻撃されてしまった。
要するに、マルベーシをだましたのである。何とも卑怯な奴らだ……。これがサファイヤの言っていた「これは生死をかけたデスゲームなのだ。それに全力で挑まなかった彼女に後悔というものを味わわせてやろうではないか」と真意なのか。
試合である以上、出せる手は出し尽くす。いくらそれが卑怯な手口であっても。
どちらの精神が褒められるべきかは俺には判断しかねるが、俺的にはクリムゾンらのやり方もあながち悪くないと思った。「作戦」の範疇だと思うからだ。
さてさて。時間は過ぎ、互いの体力と集中力はどんどんすり減っていく。おお!
<ドラゴンフライ:HPが全損>
「よし、ナイスだ! マルベーシ!」
ついつい叫んでしまった俺。俺の声は向こうに聞こえていないはずだが、まるで俺の声を聴いたかの如くマルベーシも口元を緩めにやりと笑みを浮かべた。
否。浮かべてしまった。
「今だ!」
クリムゾンが叫ぶと同時に、マルベーシの顔へと液体を投げつける。血のようにどす黒い色のそれを投げつけられマルベーシは困惑の表情を浮かべたが暫くすると、彼女がよろめき始めた。
「こ、これ……ワイン……?」
「すまないな。マルベーシ。お前はここまでのようだ。この世界では現での酒の強さは反映されないようだな。一定量口に含んでしまった時点で異常状態が付与される」
と見下すような目でマルベーシに告げるクリムゾン。
「そ、そうね。それは知っていたわ……。でも……。ひどいわね」
「卑怯と思うか、マルベーシ。だがな。これが勝負の世界というやつなのだよ。これを考えたのは我が同胞の一人なんだ。彼の助言が無かったら、我々はお前に負けていたやもしれん。お前は『私は一人じゃない』と言っていたが、それは我々も同じ。お前を奈落へと落とす戦略・戦術は我々だけでなく多くの同胞が知恵を寄せ合って作ったものなのだ」
と、いつの間にかマルベーシの目の前に移動していたサファイヤが言う。
「こ、これを作ったのは、あくまで人々を楽しませようとワインを作ったのよ。多大なる苦労の末に。それを……それをこんな風に利用するなんて。あなたたちは人の心が無いの?! うう……頭が」
「残念ながら、それがこの世界という物だ。ダイナマイトを発明したかの有名なノーベルも、それが人を傷つける道具に使われていることを非常に嘆いたそうだ。すべての新技術には危険性が裏に潜むんだ。ワインを作った者は十分頭に叩き込んでおけ。それじゃあ、さらばだ、マルベーシよ。死ね!」
うまく体を動かせないマルベーシ VS アルカディア。どちらが勝ったかは言うまでもない。
「優勝は、西軍! おめでとうございます!」
司会者の声が響き渡ったのであった。
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