アルコール発酵
夕飯の支度を終え、掃除を終え、ランニングマシーンを使った運動も終え、流した汗をお風呂で洗い流す。
その後、教授から与えられた課題も終わらせる。(課題といっても、プログラミング関係の物だから俺にとっては遊びみたいなものだ。夏休み中にもこうして課題を与えられるのは、とある教授から気に入られてしまい学部生にして彼の研究室の一員になったからである)
そんな感じで雑務をテキパキこなしていると、リオカ……今はリアルだし香と呼ぶか……もログアウトしてきた。
「ふう~。今日は早い目にログアウトしたから私が夕飯の準備しよっかな~! ってもう出来上がってる?!」
「おう。俺も訳あって、早い目にログアウトしたからな。ああ、でも寝る前にもう一度ログインするつもりだ。ともかく、そういう訳だから早速飯食うか。それとも、先に風呂に入りたいか?」
「げ! まさか実の兄から『お風呂にする~? ご飯にする~?』って聞かれるとは思ってなかった!!」
「んな言い方してねえだろうに……。で、どうするんだ?」
「まだお腹すいてないし、先に運動とお風呂を済ませたいわ」
「了解。それじゃあ、俺は部屋でゆっくりしてるよ。夕飯になったら呼び鈴を鳴らしてくれ」
ちなみに、『呼び鈴』とは普通は玄関に設置するインターホンの事。だが、俺達の家ではインターホンの呼び出し装置を一階のリビングに置いておき、受信機を二階の自室に設置しているのだ。さらに、俺がいじくりまわしてIoT化したから『香の部屋に繋いで』と口頭で言えば俺の部屋との通話が始まるようになっている。便利だろ? 料理中、両手が塞がっている時でも、簡単に二階にいる人を呼び出せるようにしたのだ。必要は発明の母って事だな!
「お兄ちゃん、先に食べてていいけど?」
「ああ……まあそうだな。別に毎日一緒に食事を摂る必要がある訳じゃないよな……。でも正直俺ももう少し腹を空かせたいから、リオカ……香が食べ始めるまで待つよ」
「はーい。じゃあそうするね」
◆
食事も終え、歯磨きも終え、もういつでも夢の世界へ入れるようになったところで、俺は再びログインする。
ログインしたのはいいんだが……。
「あれ? 入るゲームを間違えたか?」
俺はいつもの中央広場で立っているのではなく、布団で横になっている状態で目覚めた。これは一体……?
「ああ、ホームに転送されたのか。マイホームを買ったらこんな風になるんだね。これは面白い。という事は、アクアシティへの転移もここから可能なのか?」
可能でした。逆に言うと、アクアシティからゲートシティに転移すると中央広場ではなくここに現れるみたい。やっぱりこんな辺境にマイホームを構えたのは失敗だったか?まあ、今更悔やんでもダメだな。
ところで、マイホームには家具一つ設置されていない。前の住人が残して行ってくれたりもしていない。本当に「新品同様」である。
だから、俺好みの住居に仕上げる事が出来るのだ。俺の場合、大理石とかメタリックな家具よりも木で出来たクラッシックな家具の方が好みだ。そういうのを基調にお部屋のデザインをしていこうと思う。貯金がたまったらだけどね。
「さてと……。時間経過は進んでいるかな……?」
ログアウトしていたのはだいたい5時間である。すなわち、うまくいけば2の5乗で32個のアイテムが出来上がっているはずだ。耐久値が0になり、消えてしまったものも含むと2の6乗-1=63個の腐敗状態のアイテムが出来たはずである。ちなみに、消えたアイテムは全部「ゴミ」というアイテムとなる。よって、その一角は黒いゴミで覆われている。すぐに掃除しました。
「で、確認した結果、どれ一つ発酵状態にはなっていないと……はあ」
ログアウト中も時間経過は進むようである。これは朗報である。寝ている間も腐敗が進むという事なのだから。一方で、63個中一つも発酵状態が付与されていない所を見ると、発酵状態の付与率の小ささを身にしみて感じる。
明日の朝、ログインするまで8時間のインターバルがあるよな?その分のアイテムを設置して置いて……よし、これで準備は良し。明日、ログインするまで放置で良きかな?
字面通りの「果報は寝て待て」だね。俺はすぐにログアウトして、自室のベッドにダイブしたのだった。
ところで、「果報は寝て待て」の[かほう]は[家宝]ではない。良い運という意味の[果報]である。小学生の時、テストで間違えてすごく情けない思いをして以降、決して間違えたことがないのである。
◆
次の日。ログインしました。
最終ログインから8時間が経過しました。初めから考えると5+8で13時間、腐敗状態をコピーしているわけで。出来上がった合計アイテムは10000個を超える。
これだけの量を陳列させた俺、すごくない?正直に言うと、途中で適当になったから実際に生み出された腐敗アイテムは10000に満たないのだが。
ともかく、10000個近くのアイテムを見て回る。すると、とある一角。不思議な光景が目についた。その一角だけ黒くないのだ。すなわち、腐食を付与し終え、ごみとして残った黒墨が存在していない。これは一体?確かに俺はこの部屋の隅々に有機系アイテムを配置したのだが?
そして、そこに置かれているアイテムを見ると、その原因がはっきりした。
エタノール(魚肉加工食品):発酵状態にある有機系アイテムから得られる
その一角には(なぜか瓶詰めされている)エタノールが転がっていたのだ。この瓶は一体どこから来たんだよ!というツッコミは今はおいておこう。考えても分からないことを考える程、俺は暇ではない。
その周辺には変な色のキャットフードが散乱している鑑定!
発酵した魚肉加工食品:発酵している魚肉加工食品
<状態>
発酵:特殊効果『発酵の波及』が付与される
<耐久値>
100
<特殊効果>
発酵の波及:1時間連続で隣接していた有機系アイテムに対し発酵状態を付与する。耐久値が0になった時、このアイテムは液体系アイテム『エタノール(魚肉加工食品)』へと変化する。
ですよね!やった!
いつも読んでいただきありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。




