流される俺
商業ギルドの係員の方に案内され、町の南へと下っていく。どんどん歩き、ゲートシティの端にある城壁が見えてくる。
ゲートシティの中央区は中世ヨーロッパの景観をイメージしている。その世界観に合わせてか、ゲートシティの周囲をぐるっと取り囲むように城壁が建っている。だいたい高さ5m~10mくらいであろうか。少なくとも、人間やモンスターが乗り越えることは出来なさそうだ。
ちなみに、飛行系モンスターであっても城壁を超える事が出来ない。これは、この町にはドーム状の結界が張られている為である。つまり、城壁は結界の接地地点に建てられているという訳だ。
まあ、『結界』という名前が使われているが、要はセーフティーエリアの事である。大して驚く設定でもない。
さて、目的地はそんな城壁のすぐ隣に建つ家だった。というか、想像以上に大きな家だな、こりゃ。
「こちらとなります」
「すごく……広いですね」
「ええ。元は資産家の別荘だったそうですが、その人がアクアシティの一等地に別荘を買い直したようで。それで、この家を売り払ったんです」
「そうなんですね。それにしても、この大きさで1750万ゴールドは安いですね。暫くしたらなんとか買えそうです」
「そうですか。それは良かったです。ああ、ちなみに安いからと言ってボロいなんてことは無いですよ。中は新品同様、綺麗なままです。この世界ですから!」
「ああ、なるほど」
「便利な世界でしょう?インベントリがあるから、引っ越しなんて楽々なんですよ」
「でしょうね~! ところで、どうしてそんなに安いのでしょう?」
「この値段設定の訳は、ここが不便である上に、ゲートシティの地価が下がっている事にも起因します。みんな、アクアシティの方に興味があるようで……。実際、アクアシティの方がワクワクする景観じゃないですか? 町の中のいたるところに噴水があり、道端には綺麗な植え込みがあり……。ひどいでしょう、この差は!」
「で、ですね……」
「で、どうです? 買っていただけますか?」
「そうですね……ちょっと考える時間を頂きたいのですが。どうせ今すぐは買えませんし」
「あ、ああ。そうなんですね」
「本日は誠にありがとうございました。ここの購入を前向きに考えさせてもらいます」
「……ちょーっと待った! じ、実はここでセイ様に耳寄りな情報が!」
「?」
「セイさんはギルドの方からゴールドが振り込まれていますよね?」
「ですね。特許みたいな感じで」
「あれは、ギルドから確かな収入源として認められます。ですので、おそらくローンを組むことも可能になるかと思います」
「そうなの? さっき、即金じゃないと駄目だと言ってませんでした?」
「ええ、通常、旅人は確かな収入源を持っているのかどうかの確認を獲ることが出来ません。突然、この世界を去る可能性だってあります。だから、ローンが認められません。ですが、そういう訳ではないセイさんなら、もしかすると大丈夫かもしれません。ちょっと確認を取りますね」
「確認してからそれを言わんかい!」
「す、すみません」
「あ、ごめんなさい。関西風のツッコミがちょっとマイブームでして。ついつい口に出してしまっただけです。文句を言いたい訳ではないです」
「そうですか? ふふ、確かに良いツッコみでしたよ。ともかく、少々お待ちください」
…
……
………
「という訳で、大丈夫みたいです。普段、ギルドから支払われる特許収入から自動的に引き落としをしてくれるみたいです」
3分ほど電話越しにあれこれ言っていたギルド職員さんが、ようやく俺の方に向き直りそう言った。
「そうですか、それはいいですね」
「という訳で如何でしょう?」
「今日からこの家を使うことが出来る感じですか?」
「ええ、そうなります」
「敷金・礼金、それと更新料とかは?」
「必要ないですよ。煩わしい制度は極力減らしてありますから」
「それじゃあ……どうしよう……。ええい、買ってやる! どうせリアルに影響ある訳じゃないし!」
「そうこなくっちゃ! それじゃあ、ここにサインしてもらえる?」
…
……
………
「か、買ってしまった……。衝動的に買ってしまったけど、本当に良かったのか? これで?」
マイホームとなった家の和室で俺は大の字で寝転がっていた。いやね、わざわざ電話までしてもらって「やっぱり買いませんーー!」って言うのは申し訳なく思っちゃってね。は!もしかしてそういう戦略だったのか?!
まあいい。どうせ、リアルには影響ない。考えるのは辞め辞め。発酵を試してみるぞ!
…
……
………
腐敗状態が付いた物に隣接するように二つの有機系アイテムを設置。その二つそれぞれが二つの有機系アイテムと隣接する。それを繰り返し三角形上に平面に積んでいく。腐敗状態を付与されたアイテムが次のアイテムに腐敗状態を付与して……という連鎖反応が起こるはずだ。
「問題は、ログアウト中も反応が進むのかどうかだよなあ。試してみるか!」
という訳で、いつもよりも早く、俺はログアウトし、夕飯の準備を始めたのだった。
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