マイホームが欲しい
状態『腐敗』とそれに伴う特殊効果『腐敗の波及』。その発見は、AWTの世界には無いとされてきた『腐敗』やその派生としての『発酵』という概念が実在する事を意味する重大な発見だった。
だったのだが……。
特殊効果『腐敗の波及』は「1時間連続で隣接していた有機系アイテムに対し腐敗状態を付与する。ただし、極低確率で腐敗ではなく発酵を付与する」という物。文言からも分かるように、発酵状態が付与されるのは珍しい事のようだ。
取りあえず、その効果を試してみよう。「腐敗した魚肉加工食品」に隣接させるように普通の魚肉加工食品を設置する。その状態で一時間待つとするか。
…
……
………
一時間経ちました。ちなみに、待ち時間は水中呼吸薬量産のアルバイトをしていた。決して、ボーっとしていたわけではない。さて、『腐敗の波及』の結果だが、予想通り「腐敗した魚肉加工食品」がもう一つできていました。残念、発酵してくれなかったよ……。しかも、興味深い……というよりは「嫌な意味で重要な」変化が起きていることに気が付いた。
最初からあった「腐敗した魚肉加工食品」を鑑定すると、なんと耐久値が50になっていたのだ。元々100あった耐久値が一気に半減しているのだ。すなわち、もう一回でもアイテムに腐敗・発酵状態を付与したら、その時点で自身が消えてしまうということ。面倒な設定だな、これは……。まあ、実を言うと、鑑定時に耐久値の項目があった時点でその覚悟はしていましたけどね。
「しかし、耐久値制度があるとはいえ、一つの腐敗アイテムから二つの腐敗アイテムを増やせるという事は、1→2→4→8→……と腐敗アイテムを指数関数的に増やすことが出来る訳だよな。これは楽しみだな。すぐにでも発酵食品を実現させてやろうではないか! だが、そうなると……」
家が欲しいな!夢のマイホームを買ってそこの地下室に酒蔵を設置。いいね、いいね。一軒家を買う事が出来ないか調べてみようではないか。こういうことは……やっぱり商業ギルドで聞いたら良いのかな?
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「はい、不動産も商業ギルドの管轄ですよ」
「なるほど! それで、マイホームを買いたいのですが!」
「予算は幾らほどで?」
「あ……一括ですよね?」
「旅人さんの場合、一括払いでお願いしてますね……」
「そ、そうですか。分かりました。では、一軒家・二階建て・地下室の条件で価格帯を教えて頂きたく……」
「小さくていいなら1500万ゴールド。 豪邸レベルになればその十倍になる事もありますね」
「億単位の家……無理無理。いや、買えなくはないか?」
現在、水中呼吸薬が不足しているそうだが、今後それが解消され多くの人が水中呼吸薬を買うようになったら、俺の所にかなりの額が入るよな。それに、武術大会前であるが故に探索よりもレベル上げに固執している上位プレイヤーが再び探索に力を注ぎ始めたらさらに水中呼吸薬の需要が高まるはずだ。
そうはいっても、億単位のゴールドを集めるには一か月以上かかるだろう。それまで待っているわけにはいかない。まあ、そんな豪邸に住むつもりではないのだけどね。
今更だが、「億単位のゴールドを集めるには一か月以上かかる」って、現代日本で考えたら物凄い資産家のセリフだよな。サラリーマンの一生の収入がだいたい2~3億であると聞いたことがある。それを数か月で稼いでいるんだぞ?もう現実は卒業してこっちの世界の住人になりた~い!!なんちて。
「そういえば、セイ様は旅人唯一の錬金術師ですよね? という事は水中呼吸薬の権利者でありますよね? でしたら、この際、お金を貯めて豪邸を買うというのも視野に入れてもいいのではないかと個人的には思いますよ」
「そうですかね?」
「ええ。錬金術師は『どんどん稼ぎ、どんどん使う』というコンセプトの元、作られた職業ですから」
「はあ、なるほど?」
イメージはベンチャー企業を立ち上げようって所だろうか?ああ、誤解しないでくれ。俺は決して、ベンチャービジネスを舐めている訳ではないぞ。自分が作った商品を社会に広める事の難しさはゲーム製作を通じて十分承知している。
「ですので、是非! 例えば、こちらの物件ですと、アクアシティ周辺の森と湖が一望できる絶景が眼下に広がっています。ここに、気になっている子を連れてきて愛の告白。成功する事間違いなしですよ」
「なるほど、なるほど。……なるほど?」
いやいや、何納得してんだよ、俺は。この受付嬢、俺に高い物件を押し付けようとしてないか? いや、商売人としてはそうやって客の心を揺さぶるのは大正解だと思う。けれど、それを客に気付かせてはいかんだろう。それはともかく。
「いい物件だと思いますが、流石にこのお値段はちょっと……。実は出来るだけ早く定住したいと考えていましてね。それに、この先もっといいスポットが見つからないとも限りませんよね? その時までゴールドは貯めておこうと思います」
と俺は遠回しに断ったのだった。
「そうですか……。いい物件だと思ったのですがね……」
「確か、1500万ゴールドの物件もあるのですよね?」
「一軒家・二階建て・地下室がそろった物件ですと、本当に小さい家になってしまいますよ? ああ、もしくはアクセスがすごく不便な所とか。」
「と言いますと? アクセスが不便?」
「ええ。例えばこちらの物件は1750万ゴールドで1LDKと比較的広いです。ですが、立地場所がゲートシティの南の端でして……。アクセスが悪い事この上ないんです」
「なるほど……。南というと田園風景が広がっている?」
「ですです」
「うーん、見に行ってもいいですか?」
「一応言っておきますが、町の中心からかなり遠いですよ?」
「大丈夫です。是非見てみたいです!」
南というと、いつも魚を捕まえる所に近いのではなかろうか? 確かにあそこは中心から離れているが、俺にはいい場所かもしれない。いやあ、これは楽しみだ!
いつも読んでいただきありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。
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誤字報告すごく助かっています。
本当にいつもありがとうございます!




