恐怖!
「ドビャーー!!」
まるでウォータースライダーに乗っているかの如く俺の体は流される。ここがプールなら「どうせ死にはしない!!」と心を落ち着ける事が出来るのだが、訳も分からず流されるのは恐怖以外の何物でもない。
「待て待て。ここはゲームの中。リアルで死ぬことは無い。大事なことだから繰り返す。『リアルで死ぬことは無い』。痛みも……あるにはあるけど軽減されてる。大丈夫。何も怖くない。何も怖くないんdああああーーーーーー! 急に加速しないでぇーー!」
結局、恐怖を抑えることは出来ませんでした。
◆
「う、うーん?『ここはどこ?私は誰?』……違うな、この場合は。『見たことのない天井だ』の方がいいかな。うん、しっくりきた」
恐怖のあまり瞑っていた目を開くと、そこは洞窟の中だった。日光が差し込んでいないにも関わらず、周囲が見えているのは俺が光の魔石を握っているからだ。
天井の高さは約4m。奥行きは……不明。そして、寒い。俺が濡れているからという意味ではなく、背中に悪寒が走るような不気味さを感じる。
「ま、まるで幽霊が出てきそうな……。もしかしなくても、ゴースト系の敵が現れるダンジョン……とか?」
そんなことを想像し、身震いしていると、洞窟の奥から足音が聞こえてきた。こつん、こつんという足音は、獣の足音というよりは人のそれに聞こえる。
「だ、誰かいるのか? PC? NPC?」
「……」
影は俺の叫びに応えることなくこちらに近づいてくる。徐々にその輪郭がはっきりするようになり、それが人であることが分かった。
「なんだ、人かあ……。人……? なのか?」
いや、人の形をしているのは確かなんだ。だけど、全く喋らない。不気味だ。俺は後ずさる。しかしそいつは俺の方へふらふらと接近してくる。
「ウガアアアーーー」
「ぎゃーー! ゾンビィ!! 助けてーーーー!!」
残念ながら、現れたのはゾンビだった。肉体から魂が抜け落ち、そのまま朽ちてしまったような見た目。あと、若干腐卵臭もする。リアルすぎ!ちょっとリアルに作りすぎ!!
気が付けば、俺は全速疾走していた。
「なんで?! やっぱりここはダンジョン的な場所なのか? そうだ、ステータス画面……やっぱり、セーフティーエリア外! やだもぅーーー! こういうのが嫌で生産職になったのにぃ~」
弱音を吐きながらも足を動かし続ける。いや待てよ。ここで、あいつに倒されれば、俺は無事にゲートシティへ戻れるのでは……?
振り返る。遠目でははっきりしないが、おそらく捕食者の目をしているであろうゾンビが俺の方目がけて走ってくる。
「やっぱいやだーー。あいつに殴られるの怖いい!!」
俺にはあいつに殴られて平常心でいられる自信がない。ゲートシティに戻っても暫くまともに歩けなくなるかもしれない。
「いっそのこと、自殺用のアイテムとか無いの? 無いの? ねえ! 『強制死亡』とか無いの? ねえ!」
泣き言を言っても、そんなものはない。ログアウト&ログインするという手が無い訳ではないのだが、推奨されていない行為だ。(デスペナを受けたくないから、負ける寸前にわざとログアウトするのは良くないだろう? だから、セーフティーエリア外でのログアウトは推奨されていないのだ。もちろん、どうしてもって場合には仕方がない。けど、そういう行為を続けると、ブラックリストに登録されるらしいのだ)
「うん、これは……?」
ふと、所持品一覧のなかのとあるアイテムが目に入った。その名も「毒薬」、味方・敵を問わず触れた物を毒状態にする自爆系アイテム。レシピは他の誰かが先に公開した物だったけど、興味本位で作ってみたのだ。
持っていても、使わないと思っていたけど……今こそ、使い時である。さあ、その真価をみせてみよ!!
ゴクン
結構苦い
……あ、ステータス画面に「異常状態:毒」ってなってる
よく見ると、じわじわとHPが減っていく
よし!あとは逃げ惑うだけだ。走るのだ、俺!
◆
「はあーーーー! 助かったあ……。怖かった……」
ゲートシティに戻りました。今の言葉からも分かる通り、助かりました。ゾンビに殴られたり噛まれたりせずにゲートシティに帰って来れました!毒薬万歳。
あ、周囲にいる人が「何言ってんの、こいつ。死に戻っておいて『助かった』ってどういうことだよ?」みたいな視線を向けてくる。ついつい叫んでしまったが、良く考えれば迷惑極まりない行為だった。逃げるように、鍛冶ギルドへ向かった。
…
……
………
「という事があったんだ」
ひまわりさんの所へ、綿菓子製造機を受け取りに行ったついでに、ひまわりさんに先ほどまでの俺の大冒険(逃亡劇)を語る俺。そんな俺の話を相槌を入れながら楽しそうに聞いてくれるひまわりさん。こういう人って、話しやすくていいね!親しみを覚えた俺であった。
「それは、それは。まさか毒薬にそんな使い道があるとは……。モンスターが近くにいない場合の死に戻りの手段としてすごく便利になりそうね……! あ、これが注文の品です」
「ありがとう。えーっと。うん、完璧だな! さっそく使ってみるよ!」
「良かったー! もし迷惑じゃなければ、使うところを見せて頂いても?」
「あ、ああ。構わないけど、成功するか分からないぞ?」
「ええ、それでも見てみたいんです」
「そうか? それじゃあ、錬金ギルドに行くからついて来てくれる?」
「はーい」
初めての綿あめ製作はひまわりさんに見られながら行う事になったのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。今後とも本作をよろしくお願いします!




