水路の恐怖
真っ暗な水路の中を魔石の明かりのみを頼りにしながら泳ぐこと4~5分。数メートル離れた所に天からさす細い光を視認した。あれってひょっとして……?
「やっぱり、マンホールだ!」
俺の予想通り、光の正体はマンホールに空いている鍵穴(?)から射し込む光だった。小さな穴からこんな深い所まで光が届いているという事は、太陽は大地の真上にあるという事だよな?
もしかすると、こういうギミックが存在するからAWTでは昼夜の概念を無くしているのかもしれない。こういうメタい思考をしない方がゲームを楽しめるのだろうけど、俺はどうしても色々勘ぐってしまう性格なのだ。
水中呼吸薬(凝縮)の効果はまだ切れていないが、いったんここで休憩だ。次のマンホールまでは結構距離がある。効果の持続時間は8分だから、あとほんの数分で効果が切れる。クールタイムは10分だから、効果が切れてから10-8=2分は水中呼吸薬を飲めない。すなわち、ここで3分近く待たねばならない。
暇だ……。
そういえば、このゲームにおける「クールタイム」の計測は「効果が切れてから○○分」という意味ではない。「薬を摂取後○○分」という意味だ。これもメタい考察になるが、HP回復薬などの即効性の薬と水中呼吸薬などの持続性の薬でクールタイムの定義が変わるのを避けたかったのだろう。薬の種類が即効性であろうが持続性であろうが、一律に「薬を摂取したまさにその時」からタイマーを開始する方が、プログラミングが楽なのだ。
◆
そんな風に、このゲームをプログラムしたエンジニア方に思いを馳せている内に、時間が来た。いざ、水中呼吸薬を飲んで再潜水!!
……と思った矢先、ひまわりさんから連絡が来た。
「はい、もしもし?」
「もしもし、朝h……じゃなくてひまわりでーす。注文してくれた物が完成したので、いつでも取りに来て~」
彼女の発言で、気になったことがある。すなわち、彼女は自分の名前を"朝h"と言いかけた。俺のように自分のあだ名をプレイヤー名にしていると間違える事は少ないが、彼女のような場合、言い間違えるのも無理はない。実際、リオカもついつい自分のことを「香」と言ってしまうケースがある。まあ、現実の名前が知られただけで、プライバシーが侵害され、事件に巻き込まれるような事態に陥るとは思わないけど……。是非とも気を付けて頂きたいものだ。
それはともかく。もう完成したのか。それはありがたい。
「はーい! ありがとうーー!! ちょっと遅くなるかもだけど、今日中にうかがえると思いま~す」ちゃぷん、ちゃぷん
「今水の音が聞こえたような……。もしかして、今、アクアシティに居る感じですか? きれいな場所ですよね~。あの町の一等地に豪邸を立てるのが私の今の目標です!」
「アクアシティ、見たことがあるんだね! うんうん、綺麗な街だよな~! 別荘を建てたら、ぜひ招待してほしい! ああ、でも、俺が今いるのはゲートシティだぞ」
「ああ~いつもの川辺?」
「でもなく」
「?」
「あまり、言い広めないで欲しいのだけど、実は俺は今、ゲートシティの地下水路で冒険中」
「へえ! そんな場所が! 何かあるの?」
「何もない。暗い。寒い。早くお家に帰りたい」
「そ、そうなんだ……。ともかく、探検頑張って!」
「ありがとう。探検が終わったら鍛冶ギルドに行きますーー!」
「はーい、待ってます~」
◆
さっきの通話でも言ったように、地下を流れる水という物は結構冷たい。ちょっと不安になってステータス画面を開いてみたが、『状態異常:低体温』にはなっていなかった。正直、相当安心した。
という訳で、探検を続けよう!
…
……
………
「えっと、さっきのが113番のマンホールだから……なるほどなあ」
今俺は三叉路に直面している。つまり、分かれ道になっているわけで。進むべきは右か、左か。ここで注目したいのは、地上でのマンホールの配置。実は、地上においても113番のマンホールからは3本の道が出ているのだ。
川→……→114番→113番→(112番or89番)
「地下水路が地上の道と同じように走っているのであれば、89番に進んだ方が近道だな。よし!!」
という訳で、89番のマンホールがある方へと俺は進んだ。
…
……
………
ゴーー!!
「な、何の音だ?」
突然、どこからともなく変な音が聞こえてきた。何と表現しようか?「トイレで水を流す音」に近い音が響いている。
次の瞬間、俺は周りの水が流れるのを感じた。えっと、もしかしなくてもこれって……。
さっきまで、流れが緩やかだった水路だが、突然濁流の如く水が流れ始めた。え、ええ?急に何?手足をバタバタと動かすが、濁流に逆らう事が出来るはずもなく……。
俺は文字通り「流れに身を任せる」他なくなったのであった……。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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