光の魔石と水中探検の開始
「ローズ! 質問いいかい?」
「うん?ああ、セイね。どうかした?アルバイトしたいなら、今は水中呼吸薬の供給が追い付いていないの。作ってくれると嬉しいわ」
「ああ……すまん、今日は違う用件で……」
「ちなみに、今作ってくれたら、普段の1.5倍の値段で買い取るわよ。アルバイトのチャンスなの! どうかな、どうかな!」
「うーー! それは……それは……。いや、すまん。ちょっと今日は無理なんだ!!」
「そう。残念だけど、仕方ないわね。それで、何の用かしら?実は私もアルバイト中なんだけど……」
「え、す、すまん。えーと、聞きたいことがあって。光を発する物ってないかな? できれば水中でも光る物だとありがたいんだ」
「うーん、光属性の魔石は駄目?」
「なにそれ?」
「光属性の敵を倒したときに得られる物よ。『ライト』と唱えたら光を発するわ」
「じゃあ、それを10個くれ!」
「いいけど、結構高いわよ。現状、1個3万ゴールドするの……」
「オーケー、オーケー。全然大丈夫……じゃないな! 高!!」
「仕方ないわよ。光属性の敵は今現在『発光スライム』しか見つかっていないし、そこから魔石が得られる確率なんて超レアだからね」
「そ、そうなのか……。分かった。それじゃあ10個で30万ゴールドだな。即金で払うよ」
「え?!」
「?」
「いやいや。そんな衝動的に買うのはどうかと思うのだけど……」
「大丈夫。HP回復薬(大)のレシピとか水中呼吸薬のレシピで儲けさせてもらってるから。多少の浪費は気にしないことにしたんだ」
「そう……。私にとやかく言う資格は無いけど、自己破産だけはしないでよ。ほんと」
「ははは、心配のし過ぎだ。借金だけはしないようにするから」
「最初はそう言ってたけど、いつの間にか……って事もあるのよ!」
「いざとなったら、妹に助けてもらう!」
「サイテーな兄ね」
「何も言い返せないよ。まあ、妹に助けてもらうかどうかは今はいったん置いておいて、ともかく魔石とやらをくれ! はい、送金!」
「うげ、まじで一括で払ったよ。はい、受理しました。これが商品よ」
「ありがとう。ここで使ってみても?」
「ええ、いいわよ。消すときは『ダーク』と唱えてね。ちなみに、一個当たりだいたい1日くらい光るわ」
「お、おう。了解。結構持つんだな」
「あれ、想定以上だった? なんだったら、何個か返品する?」
「いや、いいよ。いつか使うかもだし。『ライト!』」
確かに、魔石が光始めた。スマートフォンに付いている懐中電灯よりも明るいのではなかろうか?これは、なかなか圧巻だな!!
「ふえーー。ほんとに光った。じゃあ、次は『ダーク』」
次の瞬間、今まで光っていたのが嘘かのように魔石とやらはただの石に戻ってしまった。
「なるほど。いい買い物が出来たよ。ありがとう」
「そう言って貰えて何より。それじゃあ、私は呼吸薬を作るとしますか……。セイも気が向いたらいつでもアルバイトしに来てね!」
「は~い」
◆
光の魔石・自分で作った「水中呼吸薬(凝縮)」。ひとまず、準備はオーケーだな。それでは、潜水しましょうかね。
例の濁流までやってきた俺は、水中呼吸薬を一気に飲み干し、すぐにダイブする。
仮に命を落としても、また生き返ることが出来るこの世界だからこそ、俺はこうして危険を顧みずに探検できる。だけど、これがもし地球での出来事だったら、絶対に俺はこんな冒険をする勇気がわかないだろう。ぶっちゃけると、遊園地のジェットコースターすら俺は乗れない。「万が一にもベルトが外れたらどうしよう」とか考えてしまうのだ。小学生の頃はそんなことを考えてなかったから、恐怖心無く乗れたんだけどなあ。だから、地球において未開の地を探検した冒険者たちには本当に頭が上がらないなあ。
そんなことを思いながら、俺は川底へ飲み込まれていった。
…
……
………
水に流され、体が振り回される感覚に襲われること数十秒。水の流れを感じなくなった。視界は真っ暗なままだ。
「ライト!」
水の中で叫んだ故、その声が届かないかと焦ったが、魔石は反応し光ってくれた。危なかった……。魔石の原理が音声認識だとしたら、俺の二回目のダイブは無駄に終わるところだった。
魔石が光ると、周囲の様子がうっすらとうかがえるようになっていた。ここは意外と水が透き通っているようだ。水面は濁流だが、底に近づくにつれて流れが緩やかという事であろうか?
のんびりしている時間はない。慌てつつもじっくり周囲を観察する。どうやら、俺の今いる空間はちょっとした広場になっているようで、そこには二か所の出口がある。
片方は断面が正方形になっている。いかにも「人工物です」と言っているかのような穴である。
もう一つは、穴の形はいびつな形である。その外では水が激しく流れているのが見える。
前者が俺が向かうべき道、後者が俺が入ってきた穴であろう。
俺は、水路と思われる穴の奥へと泳いでいった。
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