議論の行方
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マルベーシこと七瀬とクリムゾンこと紅の応酬が続く中、遠くから「お兄ちゃーーん!」という声が聞こえてきた。
「おあ、香。無事合流できてよかったよ。ふーん、ツインテールにしたのか。新鮮でいいな!」
「そう?! よかったーー。『気持ち悪い』って言われたらどうしようと思って心配してたんだ。お兄ちゃんは……何も変わってないね」
「おう。全くそのままだぞ。キャラメイクの時間は出来る限り短くしたかったからな」
「そういうところ、お兄ちゃんらしいわね……。ところでそこで議論しているのは誰と誰? 迷惑プレイヤーなら通報したらいいと思うよ」
「ああ、こいつらは俺の大学の友人だ。高校の時からの俺のライバル七瀬と大学で知り合った紅ってやつだ。プレイヤー名はマルベーシとクリムゾンだな」
「おお、貴殿がセイの妹殿か! 我が名はクリムゾン=サンライズ。この世の邪をわが剣で打ち滅ぼすものだ!!お嬢様のお名前を伺っても?」と紅が言い、
「へえー。そういえばセイは妹がいるって言っていたわね。はじめまして、私の名前は七瀬葵でプレイヤー名はマルベーシよ。よろしくね」と七瀬が笑顔で挨拶する。
「兄の友人でしたか。いつも兄がお世話になっています。私の名前は香でプレイヤー名はリオカです。よろしくお願いします」
「いやはや、お嬢様の写真をセイから見せてもらった時からずっとお会いしたいと思ってました! 写真で見るよりもずっと美しく、薔薇の花のようですね……ぜひ、現の世でもご友誼を結びたく思います!」ハアハア!!
「お兄ちゃん、この人通報したほうがいいかな?」
「一応、俺の友人だ。今は通報しないでやってくれ。おい、紅、次に香にちょっかいかけたら容赦しないからな。気を付けろ」
「そうよ、リオカちゃん。こいつは中二心と下心で溢れている子供だから。容赦なく通報しちゃいなさい。それにしても、キャラメイクにこだわったわね……。よくそんなに可愛く調整出来たわね」
「いや、これが香の素顔だぞ」
「本当に? それは……すごいわね」
「ああ、自慢の妹だ」
「そうだ、おいマルベーシ。さっきの議論の判決をリオカちゃんに決めてもらおうではないか!」
「ええ、私はいいけど……」
「えっと? どういうことですか?」
俺は、先ほどから二人は討論していたんだという事を話す。
「へえ、どういう内容の討論?」
「まずはクリムゾンの主張。アウトローはかっこいい物である。ルールは大事かもしれないが、時にはその枠を超えた活動を行うのがヒーローがヒーローたる所以である」
「リオカちゃんもそう思うだろう? 物語の主人公が真面目一徹なストーリーなんてつまらないだろう?」
とクリムゾンはキメ顔を作って言う。
「次はマルベーシの主張。ルールは自由を束縛するものではない。ルールがあるから我々はその中で自由な活動を出来るのだ」
「リオカちゃんもそう思うでしょう?」
とマルベーシは冷静かつはっきりと意見を主張する。
「さあ、判決をどうぞ!」
「ええっとそうですね。確かに面白い映画の中にはアウトローな要素が多く含まれていますよね」
紅が勝ち誇ったような顔をしている。
「でも、じゃあクリムゾンさんはそれを実行するのですか?」
「実行?」
「アウトローな行動が、本当に素晴らしいと思っているのであれば、実生活でもアウトローな行動をしているのですか? アウトローな行動によって人々を救えると本当に思うのであれば、それを実行すればいいじゃあないですか」
「……」
「もし、すでに様々な行動を起こしたうえで、『アウトローはかっこいい』と主張するのであれば、納得のいく発言だと思います。でも、アニメや映画を見て『アウトローはかっこいい』と感じているに過ぎないのであれば、説得力に欠ける論理展開と思います」
今度は七瀬が勝ち誇った顔をしている。
「一方でマルベーシさんの主張は的を射ています。ルールとは人類がはるか昔から使ってきた自由になるための道具ですものね。それに、真面目一徹な人物を主人公に据えた物語だって沢山この世に存在します。そういう意味でもマルベーシさんの主張の方が説得力があると思います」
「ふふふ、流石セイの妹さんね。説得力があるコメントをありがとう。だってさ、クリムゾン。あなたの負けよ」
どや顔で紅の方を見る七瀬。そこには膝から崩れ落ちる紅の姿があったのだった。
直後、七瀬と香はフレンド登録をした。紅もフレンドIDを交換したがっていたが、香が通報ボタンを押そうとしているのを見て、諦めたのだった。香の中で「紅=中二病の変態」と認識されてしまったようだ。
紅は「このクリムゾン=サンライズ。リオカさんに認められるように、修行を重ねるのであります。この世を生み出しし者(=運営)がいつか開催するって言っていた武闘会で優勝して、リオカさんに認めてもらうのだ!」と言っていたが、その努力を見て香の心を掴むことが出来るかどうかは神のみぞ知ることだ。