一方そのころ ~リオカ編~
【AWT公式ニュース】
回復薬の回復量に対するクールタイムが割にあっていないというご意見を頂きました。次回のアップデートにて、クールタイムを減らす・回復量を増やす等の修正を行わせて頂く所存です。
プレイヤーの皆様にはご迷惑をお掛けし誠に申し訳ございません。引き続きAWTをよろしくお願いします。
※時間が少し過去にさかのぼります。
私は今、お兄ちゃんと家の掃除とリフォームをしている。お兄ちゃん曰く、これは『最適化』だそうだが、やっていることは変わらないね。
「香、このゲームカセットまだ使う?」
お兄ちゃんがそう言って私に見せるのはちょっと前に女子中学生の間で流行った乙女ゲーム。周りの流行に乗り遅れないためにも購入したのだが、これがまた面白くてついついのめりこんでしまったの。ストーリの分岐が多く、まるで本当に自分が主人公になって恋をしている気分になれて……。こんなゲームを作りたいと思ったのだった。その影響か、私は兄とゲーム製作を行うようになったのだから、ある意味いい思い出かしら。
しかーーし! 「いい思い出」≠「家族に見られても恥ずかしくない」である。まだあれ家にあったのね……。もう捨てたと思ってたのに……。異性には見つけられたくなかった。
「それは……もういらないわ。オンラインオークションに出品ね。それと、お兄ちゃん。ここにおいてある大量のマンガは置いておきたい?」
っち!!お兄ちゃんの私物を発見しても大抵は「真面目な」物。この漫画だって、表紙こそ可愛らしい女の子が載っている物だけど、そのタイトルは『漫画で覚える古文漢文』『漫画で分かる!!グラフィックライブラリ』『行列なんて怖くない!』だ。どうしてこう……真面目なのかしら?いいや、彼はこれを勉強とは思っていないのかもしれない。「知識を付けるって楽しいーー!」みたいな雰囲気を出しているものね。
「うわ、懐かしい! 昔めっちゃはまってたなあ。うーん、もういらないかな。状態が良さげなら出品するけど、どう?」
そう聞かれて、ぺらぺらと中身を見てみる。要所要所に「ここ重要!」と書き込まれているし、幕間の練習問題はしっかり解かれている。
「うーん、いい状態とは言えないかな……」
「じゃあ廃棄で」
「オッケー」
うーん?私の見られたくない思い出を見つけたお兄ちゃんだが、別に驚いている素振りも引いている素振りも見せない。
ばれていないのかしら?
いや待てよ、見つけたのはお兄ちゃんだ。「へえーー! ゲームを買って、ノベルゲーム製作を勉強していたのかーー」とか思っているのかもしれない。
ともかく、ちょっかいかけられなくてよかった。
◆
しばらくすると、リビングには生活に必要な物だけが残った。まるで、大きな家に引っ越したかのような感覚だ。
お兄ちゃんは、一か月分の食料を買いにスーパーマーケットへ行った。暑い中ご苦労様です。ちょっと几帳面だけど、いいお兄ちゃんなのは確かだ。
帰ってきたお兄ちゃんは、料理の作り置きを始めた。手際よく様々な食材を調理していく。
一週間かけてこのような事をしていたのには訳がある。ゲームを始めるためだ。バーチャル空間に入り、本格的な冒険を楽しめることが売りの「AWT」。これを最大限楽しむべく、リアルの生活を最適化していたのだ。
それにしても……「ゲームを楽しむぞ!→リアルを最適化しなくては!」というお兄ちゃんの本気っぷりを何とも思わない私は、彼に毒されているのだろうか?
それはともかく、あと十分でゲームが開始される。すごく楽しみだ。
「あと10分ね」
「そうだな。トイレは済ませたか」
「もちろんよ。お兄ちゃんも準備はばっちり?」
「もちろんだよ。それじゃあ、行くか!」
二人でリビングのど真ん中に置いてあるFDVRマシーンの中に入った。
◆
白い霧で覆われたような空間に出た。まずは利用規約の承諾確認みたいね。
<【重要:利用規約】このゲームにおいて……承諾しますか(Yes)>
勿論承諾する。読み飛ばしたわけではない。ちゃんとリアルで読んでおいたわ。お兄ちゃん曰く「利用規約は冗長で分かりにくいけど、要点は押さえておくべし。利用規約を読んでいないと後から痛い目に遭うかもしれないからな」とのことだ。
プレイヤー名は香を反対にしたリオカとする。普段からこの偽名を使っているの。私達が作るゲームのクレジットにも「絵:リオカ」と表示するようにしている。
次は容姿の変更だ。髪型を変えたりできるみたいね。せっかくだしおしゃれしてみようかしら。
色々な髪形を試して、しっくりくるものを探す。三つ編み?ショートヘア?ロングヘアにしたら大人っぽく見えるかな?逆にツインテールにしたら可愛いかしら。後々顔を変更するとフレンドに「○○さんがイメチェンを行いました。こんな感じです<写真>」みたいな通知が行くらしいの。それはちょっと恥ずかしいから今のうちに決めてしまいたい。よし、ここは無邪気さを強調してツインテールでいきましょう。
顔の美化も出来るみたいだけど、そんなことをしたらお兄ちゃんに「え? お前誰?」みたいな反応されそうだし、顔の変形はしないでおこう。
ジョブはモフモフと戯れる事が出来るという「召喚術師」! これしかない!
動物が好きで、昔から「ペットが欲しいなあ」と思っているんだけど……いざペットショップに行ったらくしゃみが止まらなくってね。軽度のアレルギーなんだと思うわ。
だからペットと戯れる生活は諦めていたのだけれども、その諦めてた夢がこんな形で実現できるようになるとは!ゲーム内でペットと戯れてもくしゃみは出ない。思う存分可愛い動物と触れ合えるわ!!
<ジョブは後から変更も出来ますが、その場合、以前の経験値や称号は失われます。ですので、慎重に決めてください。
職業:召喚術師
本当に宜しいですか?
(OK)/(キャンセル)>
確認のメッセージが表示される。もちろんOKよ!
<キャラメイクが完了しました。それでは、異世界での旅をお楽しみください~!>
アナウンスの声とともに視界がぼやける。次の瞬間、私はAWTの世界にいたのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします!




