調理器具店
少し短めとなっています。
町の北にやってきた。……洒落のつもりで言った訳ではないぞ!!
町の南側は田舎を彷彿とさせるゆったりとした雰囲気だったのに対して、ここは繁華街のような雰囲気だ。人がいっぱいいる。
こうして人が沢山いる所も、にぎやかで楽しいな。他のプレイヤーは何を探しているのかな?武器とか売っている感じかな?そう思って、道行く人の話し声に耳を傾けると……。
「あら、今日は焼き肉パーティーでもするのかい?」
「いや~。実は今日息子の誕生日でねーー。何が欲しいか聞いたら肉食べたいって言われちゃってね」
「プレゼントよりも、食欲なのね。まあ、この世界だと娯楽が少ないしねーー」
「まあ、この世界自体が娯楽みたいなものだし?」
「それもそっか」
……おいおい。もしかして、ここにいる人ってほとんどNPCなのか?前にローズが言ってた「私達はこの世界で暮らしているというだけで、あくまでプレイヤーの一人よ」っていう一言が脳裏をよぎった。
それはともかく、調理器具店はどこだろう?うーん、こう店が多いと分からないなあ。誰かに聞くか。
あ、そこを歩いている男性、なんとなくおっとりしてて優しそう。ちょっと聞いてみるか。
「すみません、調理器具を扱う店があると聞いたのですが、どこにあるかご存じですか?」
「うんー? ああ、それならこの道をまっすぐ行くと左手に見えてくるぞー。確か、名前は……すまん、思い出せないわー。インパクトのない名前だったからなあ……ははは。ともかく、木製スプーンやら木製フォークやらが店の前に飾ってあるから、一目でわかると思うぞーー」
「ありがとうございます」
「いえいえーー」
目立つ店とのことだし、すぐに見つかるだろう。
◆
あ、見つけた。木製スプーンとか木製フォークを飾っていて、アンティークな雰囲気を放っているあのお店だな。
「こんにちは~」
「はーい、いらっしゃい」
「ここで、調理器具が売ってるって聞いたのだけどあってます?」
「ええ。揃っていますが、旅人さんには扱えないかと……。ああ、錬金術師なのね。それなら扱えるわ」
「え? 料理をする人は全員、錬金術師ってことですか?」
「いいえ、そういう訳ではないわよ。料理を行うには『錬金』『家事』『料理人』のいずれかのスキルを持っていないと駄目なの。そして、『家事』も『料理人』もこの世界の住人じゃあないと取得できないスキルなの。おいおいこの辺の設定も変わるかもしれないって聞きましたけどね」
「へえー。なるほど。じゃあ、露店で食べ物を売っている人たちはみんなNPC、じゃなくて住人ということになるのか」
「ええ、そういうこと。露店の人は基本『料理人』スキルを持っているらしいけど、詳しくは知らないの。ちなみに私は『家事』しか持っていないわ。というか住人のほとんどは『家事』スキルを持っていると思うわ」
「確かに、家事が出来ないと不便だもんな」
「そうね。で、あなたはこの世界で料理をしたことは無いわよね?」
「ああ、勿論」
「それなら、取り敢えず初心者用セットを渡しておくわね」
「助かります!!」
「まずは発熱石。遠くの地方でゲットできる魔石の一種ね」
「わーお、どう使うんだ?」
「錬金スキルが教えてくれると思うわ。私は詳しく知らないの、ごめんね」
「了解です」
「次にフライパン。1000ゴールド」
「定番ですね」
「そして鍋三点セット。1500ゴールド」
「なるほど」
「発熱石は消耗品だから、使う頻度にもよるけど……とりあえず20個セットで4000ゴールドの物でいいかしら?」
「はい、それでお願いします。ちなみに、20個ってどれくらいの時間使えますか?」
「そうね、家事としてなら一か月はもつけど、屋台を開くとなれば1日で使い切っちゃうかな」
「なるほど、それじゃあ、20個セットのものでお願いします」
「毎度あり~。あ、発熱石はギルドでも買えるわ。追加で必要になったら錬金ギルドで買ったらいいわ」
「はーい。それじゃあ、合計6500ゴールドですかね? 送金っと」
「はい、確かに受け取ったわ。これが商品よ」
「ありがとーー」
「またお越しくださいねーー」
◆
ところで、なんていう名前のお店だったんだろう? 振り返って確認すると、大きな看板が目に入った。
<ウッドスプーン&フォーク>
……確かにインパクトのない名前だね。いや、一周回ってインパクトがあるような気もする。
そういえば、道を教えてくれたあの男性、「店の名前は覚えてない。木製スプーンやら木製フォークやらが店の前に飾ってあるから一目でわかる」って言ってたよな?まさにベイカーベイカーパラドックスだね。
※特徴は思い出せるのに、名前は出てこないという現象。