薬草を摘みながら
「へえー、それでは植物の採取には『植物図鑑』というサブスキルが必要で、それがあれば草むらの中に鑑定可能ポイントが見えるのですね。なるほどなるほど」
「ああ。ただこのスキルは俺のような生産職でないと必要ない代物だな。しかも、入手のためのフラグを立てるのがちょっと面倒だし」
「そうなんですか?」
「まあね。町の東にある花屋さんに行く必要があるんだが、町の東は道が迷路みたいに複雑になっていてね……。地図を作りながらじゃあないと進めないんだよね……」
「そうなんですね。無理してまで行っても大した恩恵はないという訳ですか。道理で掲示板には上がっていない訳ですね」
「フラウは掲示板を見るタイプなのか?」
「ええ、見るし書き込みもします。昨日は『猫がモフモフだよ~』っていうどうでもいい書き込みをしましたー」
「へえー。錬金術師が少ないし、俺にとっては掲示板見る意味がないんだよね……」
「確かにそうですよね」
「花……じゃなくてフラウ! お兄ちゃん! モンスターが来たわよ!!」
「「了解!」」
香の警告と共に、俺たちはフォーメーションを組む。俺が中心。香が後ろを守り、フラウが前を守る。左右はタマ(猫)とラビリンス(兎)が守る。俺は一発でも攻撃を食らうと即死だから、二人に守ってもらいながら進んでいるのだ。おかげさまで、昨日までは来れなかったような所まで来ている。
「いけーータマ!」「やっちゃえ! ラビ!」
二人の召喚術師の掛け声とともに、二匹のペットが迫りくるモンスターを倒す。おお!! かっこいいね。
戦闘で得られる経験値は与えたダメージ量に比例する形で分配される。よって俺には全く経験値が入らず、二匹のペットで経験値を分配するようだ。召喚術師のレベルは自身の召喚モンスターの経験値の半分を取得できるらしい。俺には関係ないけど。
「うーん、それにしてもラビのレベルがなかなか上がらないわ……」
「そうね、タマのもつスキルの熟練度もあんまり上がらないし……」
「そうだな。熟練度が上がるのに必要な経験値は1、11、29、52、81、112って具合に増えていくからね」
「へえー、そうなんですね。よくご存じですね」
「昨日、錬金スキルの熟練度を上げる際に調べたんだ。俺の予想ではレベルnからn+1に上げるのに必要な経験値はfloor(10×n×sqrt(n)) + 1ではないかと考えている」
「えっと?」
「要するに、レベルが高いほど成長しにくいってことよね? お兄ちゃん」
「そういう事」
「二人ってやっぱり……会話のレベルが高いわね……。家でもこんな会話ばっかりしてるの?」
「お兄ちゃんって数学が得意だから、こういった表現をよく使うのよね。しかも素でそういう表現を使ってくるの……。いつも一緒にいると、いつの間にか慣れたわ」
「そ、そうなのね……」
◆
二人(正確には二人の召喚したモンスター)に護衛されながら、薬草採取を行い続け、かなりの時間が経った。かなりの量のヒールウィードを手に入れたし、植物図鑑の熟練度も徐々に上昇している。
今、我々は低木がちらほら生えている所にやってきた。
「ここから先、茂みの後ろにモンスターが隠れているかもしれないから、お兄ちゃんは特に気を付けて!」
「そうね、この辺りまで来ると、スライム以外の敵が現れます。ホーンラビット、スネーク、猫キャットなどですね。これらの敵は攻撃力が高いので、セイさんならワンパンされてしまうかもしれませんね」
「ああ。というか、俺はスライム相手でもワンパンされるから、敵が強くなってもあまり関係ないんだがな」
「そ、そうなんですね。そういえば、セイさんの服装は初期装備のままですね……。防具は買わなかったんですか?」
「まあね。錬金術で使う素材なんかを買うべく、お金はためておくことにしたから」
「な、なるほどです」
「あれ、そこの低木鑑定可能だ。なんだろう?」
ブルーベリー:実は食用。『植物図鑑』Lv10になると、実を採取できる。
「あ、これブルーベリーなんだって」
「ほんと?! じゃあ、実を収穫できたりする?」
「そうだなあ……。収穫した草を全部鑑定したときに熟練度9になっているから、もう少しで収穫できるようになりそうだ。計算上はあと16個鑑定したらレベルが上がるはず」
「じゃあ、早速レベルあげちゃって! みんなで試食しよう!」
「はいよ~」
周囲にある鑑定可能ポイントを鑑定する事16回、熟練度が10になった。
「お、熟練度10になった。これで実を採取できるはずなんだが……。おお! ほんとに実がなってる!」
「え? 私達にはただの茂みにしか見えないけど?」
「なるほど、すると私達が見ている世界とセイさんが見ている世界は異なっている、というより『所持スキルによって世界の見え方が変わる』という事なのでしょうね」
「あ、なるほど。さすが花ちゃん!」
「ま、まあ他のゲームでこういう仕様があったりしますからね」
「それじゃあ、早速試食してみますか……」
青色の木の実に手を伸ばし、プチッと採取する。収穫するたびに自動でインベントリに入ってくれる仕様なのはすごくありがたいな。どんどん収穫できるぞ。
「とりあえず、一人15粒ずつ食べれるぞ。早速頂こうか」
「「「いただきま~す」」」
「うん。おいしいな、こりゃあ」
「美味しい~! お兄ちゃん、今度これでパウンドケーキ作ってよ!」
「へえ! おいしいですね。他のゲームよりも味覚が忠実に再現されていそうです」
確かにこれは上手い。香が言ったように、これで料理したいところだ。もっとも、この世界で料理が出来るのか分からないが。
もしかするとスキル『錬金』で料理を作ることが出来たりするだろうか? いつか試してみたいな。
いつも読んでいただきありがとうございます。
今後とも本作をよろしくお願いします。