一方その頃:マルベーシは新たなスキルを試す
七瀬葵はマルベーシという名前でAWTをプレイしている。彼女は武術大会の直前、対人戦の腕を磨こうと地下エリア(セイはペナルティーエリアと呼んでいる)へ通っていたのだが、武術大会後もそこの攻略を進めていた。これには訳がある。
彼女はこのゲームを始めた初日、複雑に入り組んだ迷路のような市街地を探検し、その先に祭壇を発見した。後にその場所はゾンビエリアに関係していることが判明したのだ。「迷路のような場所には何かが隠されている」のであれば、あの地下エリアにも何かが隠されているのではないか? 彼女はそう考えたのだ。
掲示板や攻略wikiを調べた限り、あの場所の完全なマッピングは完了していない。ただでさえ、暗くて地味なエリア故に人気がないエリアなのだ。ましてやそこのマッピングを完了させた猛者はいないようなのだ。
そういう訳で、マルベーシは時々地下エリアを探索してみようと思ったのだった。
「交差点を通るたびにアイテムを落としていけばいいかな?」
地下エリアはどこも似たような風景であり、下手したら同じところをぐるぐる回る羽目になる。前回の迷路探索ではセイが見つけたマンホールの数字を頼りにしたが、ここではそれが無いのだ。だから、彼女は自分のアイテムを道端に落とす事に決めた。
そして、そう決めたマルベーシは地下の探索に労力を費やした。そして分かった事は……。
「この場所、想像以上に探索が難しいわ……」
という事だった。
地点Aと地点Bが繋がっていて、地点Bと地点Cが繋がっていて……のようにコツコツマッピングしようとしたものの、エリアの広さと複雑さの為、途中で断念。もっと効率的にマッピングを行う方法を模索する必要があるとマルベーシは考えた。
その後暫くは火の町や水の町の探索をしたりして、何かアイデアが浮かばないか考えていた。しかし、何もアイデアが浮かばない。マッピング用のアイテムが売られていないか調べたりもしたのだが、そう便利な物は売られていなかった。残念。
そんなある日。フレアシティーの北側でモンスターとの戦いを楽しんでいたマルベーシは、高所にいる敵目がけて小刀を投げつけた。
「ふっ!」
投擲用のスキルを持っていないため、当てるのは困難なはずだが、マルベーシはスパンと命中させた。なお、マルベーシ自身もこれには驚き「あ、当たった」と声を漏らしたほどである。
投げたアイテムは時間経過で自身のインベントリに収納される。故に「落とし物」が発生する事は無い。ただ、毎度インベントリに収納されるので、連投は出来ない。インベントリから取り出し→投げて→時間経過→インベントリに帰ってくる→インベントリから取り出し→……と少々面倒である。
その仕様に少しイライラしながらも、レベル上げとドロップアイテムの為に短剣を投げていると、不意にシステムメッセージが。内容はアクティブスキル『武器転移』の取得条件が満たされたとのこと。
「えっと、何々……。投げた武器を瞬時に手元へと戻すスキル。良さげじゃない! ボーナスポイントもそんなに消費しないし、取得しちゃお!」
『武器転移』を取得すると、なんとスキルをアクティベートにしている間は「投げたアイテムは時間経過で自身のインベントリに収納される」機能が消えるみたいなのだ。つまり、放置されたアイテムは『武器転移』を使わない限り戻ってこなくなった。なお、『武器転移』の効果を切ると、自動帰還機能は復活する。
また、『武器転移』の消費魔力だが、距離に応じて増えるらしい。5m以内なら消費魔力10だが、5m~10mなら消費魔力は12、10m~15mなら消費魔力は14と増えていく。
「じゃあ、100m離れた所に武器があったら……」
武器をその場に置いて、100mほど歩く。『武器転移』を使用すると、MPが50消費された。これはかなりの消費量だ。
「なるほど。あくまで投げた武器を回収する事が目的だものね」
マルベーシは独り言ちる。つまり、このスキルは投げた武器を瞬時に手元に戻すスキルであり、せいぜい20m以内にとどまっていると考えられる。何百メートルも離れた場所にある武器を回収したいときは『武器転移』を切るべきと言えよう。
「ちなみに、複数の武器が放置されていたらどうなるのかしら? あと、消費魔力の上限ってあるのかしら?」
ゲームの仕様を調べたいと思うのはゲーマーの性と言えよう。そして、色々と調べた結果、次のようなことが分かった。
◆
1.手元にない武器が複数ある場合、全てが自分の所に戻ってくる。この時、自分により近い場所にある物が優先される。
2.上限は設定されておらず、魔力が足りなければログにその旨が出る。
例えば、「現在の残MPが100」「武器Aは100m地点に放置」「武器Bは200m地点に放置」の場合。
・武器Aが自分の下に転移される。消費MPは50である。残MPは100-50=50である。
・武器Bを自分の下に転移しようとする。必要魔力は90であり、MPが足りない。よって武器Bの転移には失敗する。
なお、この時ログには
・武器Aの転移。MPが50消費されました
・武器Bの転移に失敗。必要MPは80で残MPは50です
と表示される。
◆
結論。重ね重ね言うが、スキル『武器転移』は近距離でしか使えないようだ。