実験に頓挫?じゃあ、身体を動かしてリフレッシュ!
粗悪な枝・粗悪な木材関連の実験は困難を極めた。
そもそも、粗悪な枝はあまりドロップしないアイテムだ。イメージ的にはおみくじの大凶のような物。数はかなり少ない。
ようやく手に入ったとしても、俺の立てた仮説はどれも失敗に終わった。つまり、【B案】のように、遺伝子ドナー+アグロバクテリアの組み合わせの錬金は全て失敗に終わった。配置が非対称な物は試していないので、この仮説が間違いかどうかは断定できないが。
※【B案】の具体例
「魚の遺伝子入りアグロバクテリウム」を作る
□粗□
粗魚粗
□粗□
【C案】のように、遺伝子ドナー+アグロバクテリア+遺伝子レシピアントの組み合わせの錬金も(俺が試した限りでは)全て失敗に終わった。こちらについては、配置する物が三種類ある分、全てのパターンを確認する事は不可能に近い。だから、C案が間違いとは断定できない。終わりなき実験となりそうだ。
※【C案】の具体例
「魚の遺伝子入り苺」を作る
魚粗魚
粗苺粗
魚粗魚など
そして、当然ながら、遺伝子ドナーと遺伝子レシピアントの組み合わせも無数にある。「魚の遺伝子入り苺」は作成できなかったけれど、「マグマクロコダイルの遺伝子入りの白樺は作成可能」のような可能性もある。
ギルドを介して粗悪な枝・粗悪な木材を買って、それを使って実験。そんな地味なゲーム生活を一週間繰り返していた。
遺伝子ドナー、遺伝子レシピアントの組み合わせを色々試すべく、モンスターの肉を大量に購入したりしたので、どんどんお金が無くなっていく。レシピの使用料で儲かる分を考慮しても、完全に赤字である。
研究職とはそういう物である。当たれば億万長者、当たらなければ莫大な予算の無駄遣い。今までが調子が良すぎただけだと痛感させられた。
「この一週間で、手持ちのゴミは増えたなあ……。あ、もしかして、ゴミと粗悪な枝だと、ゴミ+ゴミで凄い事が起こったりしないかな!」
起こりませんでした。
◆
「お兄ちゃん、なんだか最近やつれてない? 大丈夫?」
「ええ?! 嘘、俺ってそんなに不健康そう?」
「いや、ぐっすり寝てるし、食事も同じ物食べてるし、身体は問題ないと思うけど……。なんというか『作ったゲームに大量にバグが発生してその対処に追われている日々』みたいな顔をしているわよ?」
「流石、妹。俺のことは何でもお見通しって訳か。まあ、単純な話でさ。なかなか、新しいレシピが見つからなくってさ」
「それはご愁傷様。うん? それってつまり、ログイン中はずっと錬金してるの?」
「そう言う事になるな」
「それは疲れて当然よ……。せっかくのゲームなんだし、リフレッシュしないと! 遊ばないと! 楽しまないと!」
「と思う人が多かったせいで、錬金術師になる人が少ないんだよな。うん、今になって、分かるよ」
「一緒に召喚術師やる?」
「遠慮しておきます」
「とにもかく、お兄ちゃんは根を詰め過ぎないようにした方が良いと思うよ! よし。それじゃあ、明日は、私と過ごさない? 一緒にフレアシティーの周辺の攻略をしよ!」
「おう。誘ってくれてありがと。もう既に、あの辺りの植物サンプルは集めたんだけどなあ……。まあ、いくらあっても問題はないか。それに、マグマが辺りを照らす光景はかっこいいし。うん、一緒に過ごそうかな」
「うん!」
「それじゃあ、明日はよろしく!」
◆
さて、やってきましたフレアシティー。リオカに連れられ、マグマ地帯を歩く。
「こっちこっち! これ、凄くない?」
「こんな場所があったんだ……」
そこは俺が初めて訪れた場所だった。広大なマグマの谷があって、そこを抜けるには、マグマの中に点々と存在する小さな足場を渡っていく必要があるようだ。
「すごいでしょ? まるで大規模なアスレチックみたいじゃない?」
「いや、本当にすごいなあ……。なあ、これってマグマに落ちたら……」
「即死ね」
「うわあ……。死んでも町に戻されるだけのゲームだからまだしも、リアルでは絶対に体験したくないアスレチックだな!」
「そうね。こういうスリリングな冒険が出来るのも、ゲームならではよね!」
「そういえば、この区域でも、モンスターは発生するのか?」
「するわよ。でも、積極的に襲ってはこないわ。マグマから顔を出して、ファイヤーボールを吐いて、逃げていくって感じ」
「なにその……嫌がらせは」
「本当にいい迷惑よね。まあ、おかげでスリルは増してるんだけど。という訳で、お兄ちゃんにはこれを渡そうではないですか!」
「盾か? 確かに必要そうだな」
「そうそう。ここでは武器も持っていてもあまり意味は無いからね。むしろ、身を守るのに徹した方が良いわ。私もラビちゃんは召喚せずに進むつもりだし。ちなみに、その盾は私のおさがりよ」
「ありがとう! いいのか?」
「もう使わないやつだから、大丈夫よ。あと、盾で防ぐとどうしてもバランスを崩しやすいわ。だから、出来る限り避けるようにして」
「分かった。確かに、この狭い足場でバランスを崩すのは致命的だよな」
改めまして、お久しぶりです。作者の青羽真です。
約一年ぶりとなる更新で、もしかしたら文章の雰囲気が変わっているかもしれませんが、ご容赦頂けると幸いです。
今後とも、本作をよろしくお願いします!