品種改良の失敗
マシカクサボテンの開花条件は育てる場所であることが分かった。正確には気温が関係するという事だろう。つまり、ゲートシティでもビニールハウスを作れば育てられるのではないかと俺は思っているが、ビニールが無い故にそれは諦めた。まあ、絶対に自分で育てたいという訳じゃないしね。
というようなことを夕飯時に香に話すと、香がこんな事を言った。
「品種改良できればいいのにね。」
◆
という訳でやってきたのは錬金ギルド。
「こんにちはーー。」
「あら、いらっしゃい。」
「錬金室を使わせて……いや待てよ、そろそろ錬金台を買ってみようかな。」
「いいんじゃない?インベントリに仕舞えば持ち運び可能だから、遠征中に回復薬を作ったりも出来るわよ。」
「あ、なるほど。そんなメリットもあるんだ。」
「そうそう。」
その後、錬金台を購入した俺はその足で色々な植物の採取に向かった。今の俺は、レベル上げしたおかげでステータスが上がり、ゲートシティ周辺にいるモンスター程度からワンパンされなくなったばかりか、走って逃げる事だって可能となった。
ヒールウィード、マナウィード、ドクゼリ、白樺。片っ端から植物を集め続ける。理想はサボテンと近種の植物を集める事だったが、残念ながらこの世界でサボテンはマシカクサボテンしか見たことが無い。だから、取り敢えず植物を集めてみたのだ。
丸二日、植物のサンプルを集める日々が続いた。二日目の夕方には偶然出会ったマルベーシに頼んでフレアシティー周辺の植物の採取も行った。フレアシティーで見つけた植物はこんな感じだ。
クーリングウィード:火傷の異常状態を無効化する薬の材料。
ちなみに、一番最初にレシピを見つけ、公開したのはローズファンクラブの一員であるアレス君らしい。
カエンタケ:触るだけで火傷の異常状態が付与されてしまう厄介な植物。
念のために言及しておくが、地球で生えているカエンタケはキノコの一種だ。一方、この世界で生えているカエンタケは植物、具体的には「笹や竹」の一種である。見た目は真っ赤に燃える竹であり、地球で生えているカエンタケを彷彿とさせる見た目である。
ちなみに、地球には数多くの毒キノコが存在するが、触るだけで危険な物はカエンタケだけだ。カエンタケを見つけても決して触らないように。
クリムゾンキャンドル:何故か燃え続ける花。なお、触っても熱くはない。
ストロベリーキャンドル(別名はクリムゾンクローバー)という植物が地球にはある。この植物は、それを基に作ったファンタジー植物なのだろう。
紅色に燃えるこの花はさながらリチウムの炎色反応のようである。
どうでもいいが、クリムゾンにこの花の事を伝えたら大喜びしていた。彼はサブスキル『植物図鑑』を持っていないので植物の鑑定や採取が出来ないので、今まで知らなかったようだ。リアルでクリムゾンクローバーをプレゼントしたら喜ばれるかな?
男子が男子に花をプレゼントする様子を想像してしまった俺は暫く頭痛に襲われてしまった。
まだ発見できていない植物もあると思うが、取り敢えず色々集まったので俺としては大満足だ。
◆
さて、今から俺がやろうとしている事は品種改良を錬金術で再現する事である。本来、品種改良は同種でも異なった性質がみられる固体同士をかけ合わせる。より寒さに強いお米が完成したのも、そのような地道な先人の努力の積み重ねである。
一方、この世界では性質の異なる個体が存在しない。マシカクサボテンは全てマシカクサボテンであり個体差は存在しないのだ。これは、農耕ギルドを介して大農園を有する農家さんから聞いた話である。
であればまったく別種の植物とかけ合わせるしかない。もちろん普通はそんなこと不可能であるが、人類はゲノム編集という化学の力を使って不可能を可能にした。
現実世界における化学はAWTにおける錬金術である。だから俺は錬金術を使えばまったく別種の植物同士を掛け合わせることが可能であると思ったのだ。
Aという植物を1本、Bという植物を1本使う配置
□A□
□□□など
□B□
→失敗
Aという植物を2本、Bという植物を1本使う配置
□A□
□B□など
□A□
→失敗
Aという植物を4本、Bという植物を1本使う配置
□A□
ABAなど
□A□
→失敗
他にも考えられる組み合わせを色々と試してみた。しかし、そのすべてにおいてゴミが出来るだけ。俺の二日間を嘲笑する科の如く、植物はゴミと化していく。
何がいけないんだろう?そもそも不可能なのかな?
頭を悩ませながら俺はログアウトした。
◆
次の日。何もせずのんびりしたいなあと思った俺はフレアシティーを散歩していた。アイデアが出ないときは何か別のことをするのが良いというのが俺の持論である。
町の中を探検する事数時間。沢山の丸太が置かれている広場が見えてきた。
「ここは、なんだ……?」
「うん?そこの兄ちゃん、どうかしたか?」
広場の片隅で頭にハンカチを撒いた人物が木を加工している。加工と言ってものこぎりを使っているわけではない。魔法を使ってひょいひょいと加工しているのだ。リアルにこの魔法を持っていけば、大工さんもびっくりであろう。
「いや、珍しい光景に驚いていただけだ。ここは木工ギルドか何かなのか?」
「いいや、木工など物作りにまつわる事は全て鍛冶ギルドの管轄だな。ここは俺の私有地だぞ。」
「え、あ!そうだったのか!そりゃ失礼した。」
「いやいや、気にするな。」
「ちなみに、今は何を作っているのか聞いてみても?」
「実は高級木材が手に入ったんだ。それを使って高級なテーブルを作っているんだ。」
「へえーー!」
「なんでも、品質も10とかなり高い上に模様が他の木と異なるんだ。数百回に一回しか入手できない高級木材らしいぜ。」
「そんなものがあるんですねーー!」
品種改良とは関係がない物だったが、なかなか面白いことを聞いた。高級木材なんてものがあるのかあ。
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