マシカクサボテンの秘密
マシカクサボテンを枯らしてしまったその日の間に、再びマシカクサボテンを植える。用意したのはA~Hの計八つの鉢。
フレアシティーの足湯でくつろいぎ(リアルの足湯より気持ちいいのは如何なものか)、1時間が過ぎたらAの鉢に水をやる。もう一時間が過ぎたらAとBの鉢に水をやる。もう一時間が過ぎたらAとCの鉢に水をやる。さらにもう一時間が過ぎたらAとBとDの鉢に水をやる。つまり、Aの鉢は1時間おき、Bは2時間おき、Cは3時間おき……Eは5時間おきに水をやっているのだ。与える水が少なかったら実がならないらしいし、逆に水をやり過ぎたら根が腐ってしまうかもしれない。丁度いい水加減が見つかればいいのだが……。
結論から言うと、A~H全てにおいて「水が少なすぎて枯れる」ということは無かった。よく考えたら、リアルで寝ている間の時間は水やりが出来ない訳で、それを考慮すると8時間放置で枯れるってのは酷だよな。
Aの鉢は次の日には枯れてしまった。ちなみに、1時間に一回の水やりと言っているが、生育速度を2.5倍の土で育てている故にリアルで言うと24分に一回水をあげていたことになる。まあ、水のかけ過ぎだな。むしろBが枯れなかったのが驚きである。
B~Hの鉢は元気に生きてはいるものの、実はなっていなかった。いくらゲーム内とはいえ1日×2.5倍で実が付くことはないということなのか?それとも、違った所に原因があったのか。
まさかとは思うが、そもそも鉢の使い方が間違っているのだろうか?念のために、余っていた鉢にブルーベリーを植えてみることにする。2時間後に戻ってくるとして、それまでは……久しぶりに錬金ルーレット(適当に9つのアイテムを配置して錬金する事)してみますか。
…
……
………
錬金室にて。何のあてもなく適当に配置するのはつまらないし、それっぽい組み合わせを試してみようと思う。
まず試したのは回復薬と光の魔石。公開されているレシピにその組み合わせが無いか確認後実験を開始する。「上級回復薬」とか「回復の魔石」とかそんな感じの物が出来そうな気がしたのだが、駄目だった。
次に試したのはドクゼリ(植物)と毒嚢(溶解ダコのドロップアイテム)の組み合わせ。毒+毒=すごい毒になるかと思って試してみたのだが、結局出来たのはゴミばかりだった。
毒薬と溶解液の組み合わせも試してみた。両方、毒の異常状態を付与するアイテムであり、毒薬はドクゼリから、溶解液は毒嚢から作られる。この組み合わせもゴミしかできなかった。
その後、どうしても諦めきれずドクゼリ、毒嚢、毒薬、溶解液、水を色々配置を変えて錬金してみた。一応、いくつかの配置において毒薬の下位互換が得られたのだが、上位互換は出来なかった。(一応レシピは公開した)
次は「毒薬の下位互換」同士を組み合わせて錬金を……と思ったのだが、ここで時間になったので水やりに行くことに。
水やりをしても特に何も変化はなかったので、再び錬金を行う……つもりだったが、インベントリを見ていると「道化師の火」の在庫が少なくなっているのに気が付いたので量産する。自分のレベル上げに使うかもしれないし、最悪余れば売ればいい。
◆
「あ、ローズさん。こんにちは。」
錬金室を出たところでローズさんに会った。
「ふにゃ?あら、セイ。こんにちは。そういえば、今日は出たり入ったりしてるけどどうかした?」
「ああ、自宅に植えている植物の水やりに向かう所でして。」
「ああ、なるほど。……錬金台を購入したら?」
「……そういえば、そんな話が前に出ていたなあ。すっかり忘れていたよ。」
「購入する?」
「そうだな、ちなみにいくらなんだ?」
「500万ゴールド。」
「マジ?ちょっと高すぎでは……?」
「でも、あなた達の故郷においても研究に使う資材って高価じゃない?そう考えたら500万ゴールドは妥当じゃない?」
「それもそうか。俺の通ってる研究室にある高性能カメラとか一台で100万円越えだし、周辺機器も併せたら500万は超えるだろうしなあ。もっというと、DNAシーケンサーとか1000万円越えの物もあるらしいよなあ。」
「へえーー。聞いちゃってから言うのもなんだけど、向こうでの身分とかは言わない方が良いわよ。私相手ならまだしも、同じ旅人同士なら厄介ごとになりかねないし。」
「……そうだな。気を付けます!」
◆
次の日、マシカクサボテンの様子は全く変わっていなかった。枯れてはいないが花や実がつく気配がないのだ。
一方で、ブルーベリーは花を咲かせている。たった1日でこれは早すぎると思うが、ゲーム内だしそういう物なのか?自宅でブルーベリーを育てた時は実が付くまで数年かかったし、しかもほとんど実らなかったのに……。バーチャル世界って思った以上に住みやすい世界なのかもね。
ともかく、本命のマシカクサボテンが実らないのは困った。農耕ギルドに行ってみるか……。
…
……
………
「ちわ~。」
「うん……?ああ、前に腐葉土買ってくれた旅人じゃねーか!丁度お前さんに伝えたいことがあったんだよ!」
「というと?」
「マシカクサボテンやカラフルクロックの育て方!判明したんだ!」
「マジか!俺は失敗続きだったから情報を仕入れに来たんだが、ビンゴだったか!何が必要だったんだ?」
「お前さんが教えてくれたように、まず第一の条件は水をたっぷりとやる事。」
「ふむふむ。それは俺も試したな。」
「そしてもう一つの条件。『育てる場所がフレアシティーであること』だったんだ。」
「……は?」
「うんうん。俺もこの真実を知った時はそんな顔をしたよ。『無理じゃん!』って。」
「マジかあ……。」
「フレアシティーの解放と同時に食べられるようになった植物って事だな。」
「なるほどなあ~。」
ふーむ。面白い条件だな。気温が必要だったという事なのかね?
ちょっぴり徒労感を覚えつつも、条件を教えてくれたことに感謝しつつ、俺は農耕ギルドを後にした。
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