農業は難しいようだ
肥料θ:腐葉土。発酵を利用して開発した土
<耐久値>
100
<特殊効果>
成長促進:植物の生育速度を2.5倍にする効果がある。
「改めて思うが、腐葉土の効果スゲーな……。」
その一言に尽きる。これはマジでありがたいな。ちなみに、肥料αは1.1倍、肥料βは1.3倍、肥料γは1.5倍……と徐々に改良が加えられ、肥料ζで2倍を超え、現在一番優れているのがこの肥料θであるそうだ。大規模農業を営んでいるような場合では高価なθではなくα~γが使われるそうだが、俺のように鉢植えでの試験的な育成ならθを買っても良かろうと判断した次第だ。
家に帰り、鉢植えに土を移し、マシカクサボテン(根あり)を植える。この辺りの作業はリアルで鉢植えするのと同じ感覚で行う事が出来た。……後は放置すればいいのかな?
放置は時間がかかるし、これからどうしようか?錬金室に行って何か作ってみようかな?ところで、最近になって錬金術師が増えた影響か新レシピがどんどん発見されているらしい。特にアルカディア専属の錬金術師は、戦闘職が拾ったレアドロップなどを活用して様々な実験に取り組んでいるらしい。俺の出る幕はあるのだろうか?
錬金術師が増えたのは嬉しいが、焦燥を覚えてしまうのだった。
◆
結局、その後すぐにログアウトした。朝、新着メールの確認をしたら、ゲームクリエイターとしてのアカウントに5件、大学のアカウントに1件の連絡があったのだ。先に確認しておくのが筋だとは分かっているのだが、新しい街を早く見てみたい誘惑に負けてしまった。
「どれどれ、『あなたのゲームをもっと多くの人に知ってもらいましょう。今だけ使える広告費5000円分のクーポン』ねえ……」
今までは『所詮はインディーゲームだし、広告出すのは気が引けるなあ』と思っていたけど、こういうのにも手を出すべきか?今のままじゃあ一発屋だが、このまま上手くいけば権利収入生活も夢じゃないかなあ。少し考えておくとしよう。
「次のメールはっと。『貴サークルのゲーム『MindInvader~オカルトと科学と恋愛と~』をプレイさせて頂きました。宮杜 若愛と二人で下校するシーンのセリフで誤字がありましたので連絡させて頂きます。……』」
バグや誤字報告がメールで送られてくるとはめずらしい。確認すると確かに誤字があったのでお礼のメールを書いておいた。
どうでもいいが、宮杜若愛はゲームの登場人物の一人だが、名前の中に杜若という難読熟語を忍ばせている。他の登場人物に海風 信子という人物もいるのだが、何の花が入っているか分かります?
…
……
………
正解は風信子でした!
「後は関係ないメールだなあ。ふう。次は大学からの連絡はっと。」
アカウントを切り替えて、メールを確認する。嫌な連絡じゃなければいいけど……。
「あ、教授からだ。『三条君。元気にしてるかな?早速本題だが、他の研究室が超精密な物理演算システムを欲しがってるんだ。君の方が良いもの作れると思うから任せたいのだがいいかな?このツケは卒論とか就職活動とかサポートする時に返すよ。委託してきた研究室のホームページのURL→…略…。』」
記載されているURLがhttpsで始まる事を確認した上でそのURLに飛ぶ。
「ふーん。へー。ほー。『簡単に組み立てたり簡単に取り壊す事が出来る住居の設計に関する研究』ねえ。なんかひまわりさんが作ってる武器みたいだな。よし、興味が湧いてきたしささっと作るかーー。」
…
……
………
「お兄ちゃーーん。お兄ちゃん、ご飯まだーー?私が作ろうかーー?」ガチャ。
「今仕事中。」
「集中するのはいいけど、前みたいに徹夜されると困るからね。悪く思わないでね。」
「わーー!集中が切れたじゃないかあ!」
「前みたいに徹夜して倒れられたら迷惑なのよ!ほれほれ、働くのはまた明日!今はゆっくりなさい!」
「香が母さんみたいになってる……!」
◆
次の日はログインせずにソフトウェア開発に専念した。一度作り始めると最後まで走り切らないと気になっちゃう性格なんだよなあ。作業を途中で辞めると『気に入ってる歌を口遊んでいたら歌詞の一部を忘れた』みたいなもやもやした感覚に陥るのだ。プログラマーあるあるだと俺は思っている。一日中ずっと集中した甲斐あり、大方完成したので使い方説明書と既知のバグを書面に纏めて教授に送っておいた。よし、寝よ。
◆
「ふう、一日ログインしなかっただけなのに、やけに懐かしく感じるなあ!」
毎日ログインしているせいか、こっちの世界の方に来て懐かしさというか安心を覚えている自分に気が付く。まあ、楽しいしな、この世界!ってあれ?
「枯れている……だと!」
一日放置したマシカクサボテンが枯れていた。まあ、水もやらずに放置していたからなあ……。ごめんなさい、次からはちゃんと水やりします!
この時俺は、旅人の初期職業に『農家』が無い理由を痛感したのだった。
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