農耕ギルド
マグマクロコダイルの討伐後、リオカは友達らと合流して再度セーフティーエリア外の探索に行くことに。一人取り残された俺は久しぶりに出来た自由時間に心躍らせていた。
最近は、「水竜を倒してレベル上げをするように」とリオカに言われ、リオカと一緒に水竜の所へ向かう事が多かった。俺が作った『道化師の火』の方がギルドで買うよりもはるかに安い点からリオカは万々歳。俺からしても、一人で水竜の所へ赴くのはきついのでリオカの提案は魅力的だ。結果的に二人で水竜を周回していたのだ。
「それじゃあ、試してみるか!」
『農耕・実践』:アクティブスキル:(10):植物を育てる事が出来る。
マシカクサボテン(ドラゴンフルーツ?)やカラフルクロック(パッションフルーツ?)を鉢植えで栽培してみたいと思っている。水竜の所へ向かう途中に荒野を通るが、そこでマシカクサボテンを何度か見かけたが、実がなっている物は一つも無かった。マシカクサボテンの鑑定結果は以下のようである。
マシカクサボテン:立方体型のサボテン。実は美味しい……らしい。
つまり、実がある事は確かである。でもなっていない。これはきっと何か条件が必要なのだろう。
勝手な推測だが、水やりが重要なのではないかと思っている。地球に生えるサンカクサボテンはサボテンではあるが、生えているのは熱帯雨林である。たっぷりと水を与えてやるのが重要とネットに書いてあった。でも、マシカクサボテンの生える地域はなぜか荒野。あまり雨が降らなさそうなエリアである。だから実が生えないのではないだろうか。
鉢はすき間時間に買っておいたので、あとは土の入手。その辺の土を放り込もうと思ったのだが、以前試した通り全く掘れなかった。で、『農耕・実践』を獲得して分かった事なのだが、土を掘り返せるのは「掘り返せる所」という特殊オブジェクトの上だけだという事が分かった。
『農耕・実践』を取得している状態で、ショベルを握ると、掘れる場所と掘れない場所が明確に分かるようになるのだ。ちなみに、セーフティーエリア外にある岩山の崖の一部分が「掘れる」判定になっていた。あの場所には鉱石でもあるのだろうか?行ってみたかったのだが、物理的に到達不可能な位置にあったのであきらめることにしたのだが。
そういう訳で、土を購入したいとローズさんに相談したところ、『農耕ギルド』とかいう場所で手に入ると教えてくれた。日本で言う農業協同組合のような物らしい。
農耕ギルドはレンガブロックで出来たごくごく普通の建物であった。中に入ると、土の匂いが鼻をくすぐった。森の中で小雨が降った時に漂ってくるノスタルジックな香りである。ゲオスミンという有機化合物で土の中に生息する微生物が発するのが匂いの発生源である。
あれ?菌が発見されたのはアルコールの時が初めてだったよね?これはいったいどういう事だろうか?
「いらっしゃい!おや、見かけない顔だが、新人か?というか、旅人か?」
ノームっぽい見た目のおっちゃんが受付に座っていた。ちなみに、背丈は140cm程度なので、ノーム要素は白くて長いひげくらいだ。
「……はい。そうです。旅人ですね。」
「?なんか不服そうだが、何か気に障るようなこと言ったか?」
「いえ、そういう訳では!ノームと言えば土の妖精。土のスペシャリストが農耕ギルドにいるのは納得だなあ~と思っただけです。」
「おお、そうそう。よく分かってるじゃねーか!一応『種族:ノーム』を選択したはずなのに、何故か『種族:ドワーフ』と勘違いされるんだよなあ……。」
「どちらも立派なおひげのイメージですもんね。……あれ、そもそもドワーフとノームの違いって何なんだ?」
「俺も気になって調べてみたんだがな。どうやら出典の違いだそうだ。ドワーフの方が出典が古く、ノームの方が新しく生み出された概念だそうだ。」
「へえ~。初めて知りました!」
また雑学が増えた。しっかりと頭にインプットしておこう。こういう雑学を沢山持っておくといつか披露できるかもしれない。
「それはそうと、何故ここに?」
「ああ、そうだ。マシカクサボテンを栽培してみたく思いまして。いい土を探してるんです。」
「ほう。あれな。実ができたら美味しいらしいよな。」
「ちなみに、どうやったら実がなるか教えてもらえたり?」
「知ってたら教えるんだが……。残念ながら、まだ誰も成功してないんだよなあ……。」
「へ?そうなんですか?」
「『サボテンだから水をあげたらいけないのでは?』とか『日光にたっぷり晒すべきなのでは?』とか色々試したそうだが、結局実はできないらしい。」
「逆です!逆!元ネタのサンカクサボテンはドラゴンフルーツ、熱帯雨林の植物ですよ!」
「え、そうなのか?初耳だな、それは。ということは?」
「水をたっぷり上げる方が良いかと。」
「試してみるわ!ありがとよ!……それならなんで荒野の植物に設定したんだよ、運営は。」
「さあ?混乱させるためでしょうか?」
「お前さんも栽培を試すんだろ?土はあそこの棚にあるのがおすすめだぜ。栄養満点の代物だ!」
おっちゃんは一つの棚を指さした。袋詰めの腐葉土がたくさん売られている。園芸ショップでよく見る光景だな。
「あれ?腐葉土って落ち葉が腐って出来るんですよね?アルコールを見つけたのが数週間前で、もうここまで応用されてる?」
「そうそう。そうだぜ。あ!どっかで見たことあると思ったら、武術大会でアルコール売って表彰されてた奴か!」
「ですです!」
「すげえよな!まさかマンホールの下にあんな迷路が隠されていたなんてよく気が付いたな!しかも、地上のマンホールの番号を全部記録しないといけないんだろ?なんでそんなことしようと思ったんだよ……?」
「かくかくしかじかで……。」
しばらくの会話の後、無事俺は腐葉土を手に入れたのだった。
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