進む攻略と特別メッセージ
「お兄ちゃん!」
「?」
「今すぐ火薬を大量生産して!竜肉をこの町に流通させる必要があるわ!」
「お、おう。」
「この食感。この旨味。この世界を楽しむすべての人が味わう必要がある!私はそう思うのよ!」
リオカに熱弁された。まあ、確かに竜肉は旨いし、他の人にもその味を知ってもらいたいとは思うが……熱弁するほどか?
そう思っていると、ドルフが店の中からこんなことを言った。
「あー、セイよ。リオカのいう事は尤もだぜ。」
「あ、ああ。まあ、多くの人が竜肉を食べる機会を与えられた方がいいとは思うぞ。だけど、そこまで熱弁するほどでもないかなって思って。」
「いいや。この世界は旅人さんにとっては『来なくてもいい世界』だろ?……もうぶっちゃけると所詮はゲームなんだから、辞めようと思えばいつでも辞められるんだ。だけど、俺達住人としてはこの世界に遊びに来て欲しい訳。そこでだ。旅人の多くにこの世界の魅力を知って頂く事がひっじょーーに重要な訳でね。君らの故郷では絶対に食べられない、竜肉などの食材は『この世界の魅力』であり、多くの旅人に知って頂く必要があるのだよ。」
と熱弁された。ふむ、確かに理にかなっているな。
だけどぶっちゃけすぎ!ドルフさん、ぶっちゃけすぎです!!
「私達がブログで発信します!いいわよね、フラウちゃん?」
「良いと思うわ。早速撮影しましょうか!食レポみたいで楽しみね。」
「いいわね!お兄ちゃん、カメラ回してくれる?」
「カメラ?」
「スクリーンキャプチャ機能があるでしょ?」
「ああ、これか。」
「そうそう。そうやって開いて……。そのボタンで録画開始。」
「ふむふむ。」
「写っている竜肉の唐揚げをダブルクリックしてみて。」
「?分かった。へえ!」
画面に"←竜肉加工食品:唐揚げ"という注釈が出てきた。
「テロップの代わりになるの。便利でしょ?」
「そうだな。動画を見る人に何を食べているのか伝わるのはいいね。」
「そういう事。今から『こんにちはーー!今日もAWTを楽しんでますか~!さて、本日紹介するのは竜の肉です!』って言うから、その時に画面をダブルクリックしてくれる?」
「了解。」
その後まもなく、撮影が始まった。
リオカはわざとらしく「肉汁が溢れてきておいしいーー!」と言っている。食レポ下手かよ。
一方でフラウは神妙な表情で食べ、「リオカちゃんったら、はしゃがなくてもお肉は逃げないわよ。それにしても、へえーー。牛肉とは比べ物にならない程美味しいわね。これをいくら食べても太らないっていう点も最高ね。」とつぶやく。結構上手いな。
…
……
………
「次は、火薬と大砲の紹介をしなくちゃ!という訳でお兄ちゃん!」
「ああ、了解。作ってくるよ……。」
「それじゃあ、私は大砲をメンテしてきますね。」
「あ、ひまわりさん。ありがとうございます。」
「いえいえ。お互い様ですよ。」
「あ。減った耐久値を回復しに行くのですね?」
「ええと……。大砲はミスリル製なんですが、一発撃っただけで耐久値が空になっちゃいまして。修復しないと使い物にならない状況なんです。」
「ええ!ミスリルの耐久値を上回る威力って事なんですか……うひゃあ、そりゃあ竜も死ぬわあ。」
◆
その後、リオカらのブログには竜肉のおいしさを伝える記事と共に、火薬が発見されたという旨が発表された。火薬の生産には溶解ダコが必須という旨も伝えられたので、溶解ダコの供給量も若干は増えるだろう。
一回の使用にかなりゴールドがかかるとはいえ、貰える経験値を考えると竜を倒す事は十分魅力的だ。しかも、絶品竜肉が手に入るのだ。ある程度金銭に余裕があるプレイヤーは水竜狩りに精を出し始めた。
無論、需要が増えるなら供給も増やさなくてはならない。俺は『道化師の火』のレシピの公開と共に、ローズに今回の件を話しておく。
「ふうん、せっかく発見したチート級のアイテムを、みんなに広めちゃうのね。独占すればよかったのに。」
と言われたが、「多くの人に竜肉を食べてほしくて」と答えておいた。
一部、「パワーバランスが……」と苦言を呈するプレイヤーもいたのだが、それよりも攻略が早まる事を喜ぶ声が多かった。よかった。
◆
そんな中。アルカディア率いる探検隊が、ゲートシティーの東エリアの端にある熱気の漂う洞窟を発見した。いかにも怪しいその洞窟を抜けた先に火竜=ファイヤードラゴンを発見。火竜は大砲でサクッと倒されたそうだ。
アナウンスが流れる。
<東の門番「火竜」が攻略されました。これにより、東の町が解放されます。>
<この事を祝し、「火竜」の攻略者に『パイオニア』の称号を授けます。すでに取得されている方には代わりに火竜のレアドロップが贈られます。>
<この機会に運営からの特別メッセージが解放されました。詳細はステータス画面の左下『お知らせ』から確認してください。>
そして、そのメッセージの内容とは……。
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まず、最初に映ったのは荒廃したゲートシティー。そこを背景に、顔をマスクで隠した人物がこんな感じのことを宣った。
『魔王が復活しようとしている。早く強くなれ……。強くなるのだ!人間よ!』
その後、背景が真っ白になり、今度はスーツ姿の男女が映った。武術大会の司会をしていた二人組である。
『AWTの世界に脅威が迫っているという事でしょうか?』
『ふーむ。よし!特別に今の魔王の様子を見ようではないか!』
男性が指をパチンと鳴らすと、画面が切り替わる。そこに映っていたのは……なんだ、これは。魔王とその側近のように見える。
魔王:『火のエリアが解放されたらしいぜ。』
側近:『へえ。あれ?ってことは光も金もまだ?』
魔王:『それどころか、風エリアもまだのようだ。』
側近:『私たちの出番って来るのですかね?』
魔王:『さあ?とりあえず暇だし、アバター使って町にでも行こうか。』
側近:『お?いいですね。最近は料理も美味しくなってるそうですし、色々食べたいですね。』
その後、画面が切り替わり、再び武術大会の司会をしていた二人組が映った。
『……ちょっとだらしのない姿が映ってしまいましたね。今見たことは忘れてください。では、引き続き攻略を頑張ってください~。』
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という訳で、プレイヤーに対する応援メッセージであった。
お読み頂きありがとうございます。